2021年11月27日(土)<森の中にいるような>心地よい演奏会4
この夜の演奏会
前回の記事で、ようやくこの夜の演奏会について、曲の事について具体的なお話しに入りました。今日は、詳細についてをお話ししたいと思います。
3曲目のバーバーの「弦楽のためのアダージョ」と、アンコールで演奏されたバッハの「G線上のアリア」。2曲とも弦楽オーケストラ曲です。そして2曲ともゆったりしたテンポです。つまり2曲とも弦楽オーケストラで演奏する場合「機動的ピッチ変動」が嵐のごとくに起こる曲です。特にこの2曲の音は隅々まで知っているので、弦楽合奏特有の「機動的ピッチ変動」がない状態でのマリンバ合奏を聴く事は、不思議な体験になりました!
バーバーに関して言えば、終盤のクライマックスのフォルテシモの後のピアニッシモ、これが聴こえた時は、鳥肌が立ちました! フォルテシモの大音量を犠牲にして選択した、柔らかいマレットの効果が存分に発揮された瞬間でした!この一瞬の輝かしいピアニッシモさえあれば、他のどんな事を犠牲にしてもよい!と言えるような、素晴らしいピアニッシモでした!
この瞬間、私は満たされました。「ああ、いい演奏会に来れてよかった!」と感じました。
「可変硬度マレット」の妄想
バーバーの曲では、マレットについて、次のように妄想しました。「可変硬度マレット」なるものがないものか、と。奏者はマレットを両手に持って、マリンバに向かいます。曲の強弱や表情の為に、叩く力だけでなく、マレットそのものを演奏中に交換することも可能です。ただし交換には数秒の時間がかかります。この数秒の無音時間を作り出せない場合、つまり同じマレットで演奏し続けなければならない場合は、交換はできません。
それでも、演奏の表情変化の為に、マレットを替えたくなる事はあるはずです。バーバーの曲など、ピアニッシモからフォルテッシモまで、大変幅広いダイナミクスが要求されるので、奏者は、もしも可能ならばいくつものマレットを時間の経過とともに持ち替えたくなったはずです。
しかし演奏は連続的に続いており、これはできませんでした。私は妄想しました。もしも演奏中、マレットの硬度を替えたくなった時に、何らかの方法で、マレットで演奏しながら、マレットの硬度を連続的に変えるという事が、つまり「可変硬度マレット」なるものがあれば、この曲の演奏はもっともっとダイナミクスの充実した演奏になったはずだと。
はてさて、この「可変硬度マレット」、数十年後、あるいは半世紀後くらいには、開発されて実現するでしょうか。それは誰にも判りません。ですが、実現した暁には、鍵盤打楽器のための作品も演奏も、劇的な変化が訪れるに違いありません。
もっともそんな遠い将来まで、すでに還暦を過ぎた私が生きているはずもないので、その「可変硬度マレット」については、制作も登場も使用も、若い人たちに委ねますね。
この記事シリーズの終りに
<森の中にいるような心地よい演奏会>という副題で4つの記事を投稿しました。打楽器オーケストラという感じの演奏会には何度も足を運びましたがマリンバオーケストラという楽器編成の演奏会は、初めてでした。私、一応作曲家のつもりです(笑)。楽器のピッチ変動や共鳴の事について多大な関心を持つ作曲家です。
マリンバという楽器は、共鳴を起こしやすい楽器です。なのでこの夜の演奏会についても、共鳴しあった音が聞こえてきた瞬間は喜びに包まれました。共鳴した音、好きなんです。なのでこの夜の演奏会では<共鳴した木の音>を堪能しました。そしてそれは私には<森の中の音>に聴こえたのでした。
お話しが少しずれますが、自分のマリンバ・デュオ作品「マダガシカーラ」では、きちんと共鳴の事を意識し、それが効果的に鳴り響くように計算して曲を作ってよかったと思います。その共鳴の効果が演奏会場で具現化した時の、あの響き・・・!!!至福の時間でした!(下の写真)
エピローグ・膨らんでしまった妄想 <森の中にいるような心地よい演奏会>
クリスマスが近づいてきました。noteを始めて、スペインやドイツに友人や知り合いができました。記事を見ると、ヨーロッパのクリスマスイヴェントの写真をたくさん見ることができます。豪華絢爛、美しいクリスマスデコレーションです。クリスマス、好きなんです。
個人的な妄想で恐縮ですが、私がクリスマスを好きになってしまった原因、ある1枚の絵です。中学2年か3年の時に、近所の文房具屋で買ったクリスマスカード、その絵が素晴らしかったのです。
当時の日本のクリスマスカードですから、描いたのは日本人だと思います。画家の名は判りません。その絵は上記のヨーロッパのクリスマスイヴェントとはかけ離れた、極めて静謐でセンチメンタルな絵でした。
横長の画面、白樺の森、雪が降りしきる冬の夜、一本道があり、その道の先に一軒の家。家の窓から室内の灯の光が漏れています。そんな絵でした。その絵を真似て、同じ大きさの紙に、何枚も何枚も、色鉛筆で同じ絵を描きました。それを何年も続け、友人へのクリスマスカードは、全てその自作の絵のカードでした。
当時の私は生きるのが苦しくて(今もですが(笑))、絵や音楽の世界に癒しを求めていました。常に自分が逃避できる幻想の世界を探していたんです。当時の私にとって、音楽はまだ、ほぼ鑑賞専門で、自ら表現する事ができませんでした。むしろ絵の方に、自分でも描くという表現を行っていたように思います。
この記事シリーズの最初に書いた題<森の中にいるような心地よい演奏会>の<森の中>とは、あのクリスマスカードの絵、冬の夜の白樺の森です。雪の中に佇む一軒家です。この演奏会のマリンバの音は、中学時代に出会ったあの白樺の森に、私を連れて行ってくれたのでした。
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