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2024年6月28日(金)     彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール    加藤訓子プロデュース        スティーヴ・ライヒ・プロジェクト  全6話 その6

前回の記事は、次のように終わりました👆

以上2曲を聴いて思いました👆 スティーヴ・ライヒという作曲家、旋律、和声、形式(ひょっとしたら、そういう捉え方自体が間違いかもですが💦)そういう音楽要素、特にリピート回数と音の動きが変る際の組み立て方、やはり西洋近代音楽ではなく、東洋のどこかの音楽の影響を受けているような気がしてなりません👆

③ PIANO PHASE(1967/2021)

ああ💦 もう3000字を超えてしまっています💦 以後の内容は、次回に譲る事にします、ご容赦下さい🙇💦

では今回の内容に入ります👆

③ PIANO PHASE(1967/2021)

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原曲は、2台のピアノのための曲であり、2台のピアノが同じ音型を、同じ速度で演奏を始めるが、第2奏者の速度がごく僅かずつ増速し、その結果、第1奏者の出す音と、第2奏者の出す音が、最初同位相だった音が、徐々に位相がずれていき(フェイズシフト(位相転換)が起こる)、得も言われぬ音になる、という音楽が表現されるという曲。

加藤訓子はこの編成を、2台ピアノから、1台のヴィブラフォン+録音媒体で演奏する提案をし、スティーヴ・ライヒ自身から承諾を得て、ここで演奏する事になったのです。

スティーヴ・ライヒの、「クラシック音楽でフェイズシフトを表現しよう」とする発想も極めて前衛的ですが、加藤訓子は、それを更に自分自身の表現とするため、ピアノではなくヴィブラフォンを演奏するという発想をしてきたワケです。

「フェイズシフト」とは

元々「フェイズシフト」という単語は、音響技術者、サウンドエンジニアの間で使われていた言葉であり、それを元に様々な音響効果変換装置、平たく言えば「エフェクター」が開発され使用されてきました。フェイズは位相、シフトは転換、フェイズシフターとは、音の位相を連続的に意図的に変化させる装置の事です👆 

ポピュラー音楽の演奏や、サウンドエンジニアならば「フェイズシフト」という言葉は使い慣れた言葉であり、「フェイズシフター」の使い方にも練達しており(私もよく使いました)、どのような音の変化を指すのか、よく知っているワケですが、

クラシックの作曲家が「フェイズシフト」を自身の作曲に積極的に取り入れるなど、スティーヴ・ライヒ以前には、なかった事だと思います。しかも、驚天動地なのは、電気楽器や電子楽器でなく、生楽器でこのフェイズシフトを起こして、それを自身の音楽として表現しようという・・・うわあ💦💦

生楽器での「フェイズシフト」の難しさ

フェイズシフトは、電気的、電子的に、つまり電気回路の中では他の要素に邪魔されないですから、効果的に音の変化として取り出すことができます。しかし生楽器というのは、発音体から空気中に振動が拡散してしまいますから、共鳴を得ようとするならば、効果的に得られますが、

フェイズシフト、つまり「位相転換」をきれいに起こすには、邪魔な要素がいくつもあるのです。空気という伝搬媒体が位相の形状を若干変化させてしまい、さらに壁や天井からの反射音も原音の位相に干渉するので、近接した2台の楽器に、ハッキリとした「位相転換」を起こさせるのは、困難なはずです💦💦

というのも、私の作品でそれの表現に近い曲として「マダガシカーラ」という曲がありまして👆 2台のマリンバを、可能な限り近接させて、共鳴効果を最大限度に引き出そうとした曲です。杉並公会堂で実演しました。

結果は実に上手くいき、最大限度の共鳴の得られた、2台のマリンバは、狙い通り、恐ろしいほど、重く太い音を出してくれました🌺 この曲は、別のスタジオでの録音ですが、CD化されていますので、ご興味の向きは、是非ご視聴ください(Pisca-Pisca  / Nino Nina(新野将之&藤澤仁奈))👆

このように2台の生楽器を近接させて音を出すと、「共鳴」つまり「レゾナンス」は、効果的に得られるのですが、たとえ同一の音型を、意図的に僅かずつずらす事に成功しても、得られるのは大幅な「フェイズシフト」ではなく、穏やかな「フェイズシフト」であろうことは予測できました。

それに、ピアノという楽器は、本番のステージで弾いているうちにも、また強弱の付け方によっても、ピッチが変化してしまう楽器で、ピッチが変化してしまうと、効果的な「フェイズシフト」は望めなくなってしまいます💦 しかし、そんなことは、この曲を作曲するにあたり、様々な音響的実験を繰り返したスティーブ・ライヒ自身が、よく知っていたはずであり、それを全てわかった上での作曲だったはずです。

つまり、ライヒがこの曲で意図した「フェイズシフト」は、生楽器特有の、ピッチの揺らぎまでをも計算に入れた、穏やかで上品な「フェイズシフト」を起こそうとしたのに、違いありません👆

ああっ💦 読者の皆様、申し訳ありません🙇💦 「フェイズシフト」は、私にとっては得意分野なものですから、つい文章に熱が入ってしまい、この項目だけでこんなに長くなってしまいました💦 次の項目からは、熱くなるのを抑えて、文章をサクサク進めるよう、心がけますね👆

そして加藤訓子は・・・

 加藤訓子が、この曲を演奏するにあたり、ヴィブラフォンを選んだことは、理に適った選択です。何故なら生楽器でのフェイズシフトを「目的の一つ」とするこの曲(フェイズシフトを抜きにしても、充分に美しい音楽ですが)を演奏するにあたり、

ヴィブラフォンという楽器は、ピアノよりフェイズシフトを起こしやすい、というか、ピアノよりもフェイズシフトの効果を聴いている人に伝えやすいからです。理由は、高次倍音を多く含むピアノの音より(マレットの種類にもよりますが)、ヴィブラフォンの音の波形は正弦波に近いからです👆

フェイズシフトを感じるには、原音が正弦波に近ければ近いほど、原音との変化の様子を、ハッキリと感じ取れるからです。ですが、あまりに原曲の、ピアノの音からかけ離れた楽器を使うのは、この曲の美しさを損なうので、よろしくないです👆

ヴィブラフォンであるならば、発音体がピアノと同じ金属です👆 それに、音のエンヴェロープ・カーヴは、ピアノと非常に似通った「衝撃音」です👆なのでこの選択は、大変理に適った選択と言えましょう👆 それに、ピアノと違い、ヴィブラフォンの発音体は金属の音板です👆 温度や湿度や奏法によるピッチ変動がありませんから、この点でもフェイズシフトに好適な楽器と言えます👆

ただし、それを高次元で実現するためには、ピアノと同様のサスティン・ペダルの操作が必要となりますが、加藤訓子のペダルワークは、見事でした❣❣あの速さで、あれだけ連続したペダルの踏みかえを間断なく約20分(💦)絶対に出来ませんよ💦 「君、やってみたまえ」と言ったところで、たとえプロの打楽器奏者でも、あのペダルワーク、出来る人はいないと思います👆

そして、私も熱が入ってしまい(🙇💦)長くなってしまいましたが、上記の全てを全く知らなかった、考えなかったとしてもこの曲は、それはそれは美しい曲です🌺

④  NEWYORK COUNTERPOINT(1985/2012)

version  for  marinba

前曲③では、曲の解説に重きを置いてしまい、曲の美しさを前面に出しませんでしたので、この曲では、まず曲の、音楽の美しさからお話ししたいと思います👆

ああ、ただひたすらに美しい曲です👆 この美しさを表現する方法として、ライヒは12本のクラリネットを選択しました🎵クラリネットアンサンブルの同音連打を多用した曲です👆 演奏時間約11分。

クラリネットは、閉管の楽器で、音の波形は基本的に矩形波、高次倍音が少ないため、複雑なハーモニーをクリアに聴いてもらうためには、最も好適な楽器です👆

加藤訓子は、これをマリンバ生演奏と、同じマリンバの録音媒体に置き換えて演奏しました🎵 クラリネットは木製の楽器に葦の茎の振動体(つまりこれも木製)を備えた楽器・・・マリンバも木製の楽器。マリンバは、打楽器の中では、この曲を演奏するに、最も好適な楽器と言えましょう👆

3つの部分からなり、part1はエオリア旋法、part2はミクソリディア旋法…というように、中世の教会旋法が曲の色彩感を決めていますが、この旋法により、結果的に生まれる音の重なり(和声と言うには、中世が和声の時代ではないので抵抗があります💦)を、同音連打すると、それはそれは、えもいわれぬ美しい響きとなり、聴衆、観客に襲い掛かります💦

第1部の最後に、聴衆の身体全体に、トドメを刺すような、美しい響きでした💦

第1部の記事を終わります👆

加藤訓子、第1部の約65分間、たった一人で殆どしゃべらず(これについては次の記事にて、きちんと賞賛したいです👆)、曲間はほんの数秒ずつ、簡単に汗を拭く程度ですぐに次の曲へ・・・この持久力、この記事シリーズの冒頭で述べた通り、

「ああ、何をどうやってもこの人には勝てない💦💦」


長くなってしまいました💦 そして6話で完結の予定でしたが、もう1話、書きたいです💦読者の皆様、ご容赦下さい🙇💦 そして、第7話をお楽しみに(^_-)-☆👆

プログラム パンフレット



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