2021年11月27日(土)<森の中にいるような>心地よい演奏会3
機動的ピッチ変動ができない楽器
この「機動的ピッチ変動」ができない楽器もあります。それがマリンバなどです。鍵盤打楽器は全て、ピッチ変動できません。厳密に言えば、マリンバの音板も、ビブラフォンの音板も、強くたたくとごくわずかに音板が変形しますので、ごくわずかのピッチ変動は、物理的には起こっているはずです。しかしそれは、ほぼ無視できる範囲であって、鍵盤打楽器は構造的に、意図的なピッチ変動を使用しない楽器と言えます。
同様にチェレスタ、ヴィブラフォン、グロッケン、シロフォンも、ピッチ変動できません。パイプオルガン、リードオルガンもです。振動体が、ガチッとした個体の場合は、こうしてピッチ変動ができません。というよりピッチが不用意に変動する事を避けることができる、とも言えます。これらの楽器は、常に安定したピッチが得られます。
ピッチ変動できないと(しないと)、何が起こるのか
ピッチ変動する楽器では、コーラス効果が得られます。楽器同士の微妙なピッチのズレが「唸り」を生み、これが豊かな音楽表現となります。ただし、ピッチのズレが起こった分だけ、共鳴効果は減じられます。マリンバなど、ピッチがずれない楽器が複数並ぶと、コーラス効果は起きませんが、その分共鳴が大きくなります。
共鳴とは
共鳴というのは、ピッチが全く同じであると最大の効果が得られますので、ピッチ変動しないマリンバの音板は、共鳴効果を得るにはもってこいです。マリンバの音板の共鳴効果は、実際にその場にいないとよくわからないですが、近接したマリンバの音板が共鳴を起こすと、それはそれは凄い音になります。
どう凄いかというと、口や文章では上手く説明できませんが、大きくて、柔らかいながら力強い音になり、聴感上の音圧は跳ね上がるのです。音が増幅された感じになります。
ここで大事なのは「近接」という事です。そもそも共鳴というのは「近接」していないと起こりにくい現象なのです。2台のマリンバを向かい合わせにできるだけ近付けて並べてみるとします。1台を演奏します。演奏する側は「鳴らす側」です。2台目は、鳴らさないでおきます。こちらは「鳴らされる側」です。
1台目を演奏すると、不思議な事に演奏していない2台目も鳴りだします。これが共鳴です。2台目を叩いておらず、静止状態の時はあまり鳴りだしません。ところが、もし2台目のマリンバが同じ音を叩いている場合などは、大変良く共鳴します。
ただし、2台のマリンバの距離が近くないと、この現象は起きにくいです。向かい合わせで殆どゼロ距離ならば、2台のマリンバは、よく共鳴しあいます。離れれば離れるほど、共鳴は起きにくいです。離れても、少しは共鳴して豊かな音になりますが、それは「少しだけ」になってしまいます。
音の大きさというのは距離の二乗に反比例します。つまり距離が2倍になると、音の大きさは4分の1になるということです。もうお判りだと思いますが、向かい合わせで距離が1m以内くらいだと、かなりの共鳴効果が得られますが、距離が2mだったりすると、共鳴効果は4分の1くらいに減じてしまうのです。
2台のマリンバを例にとって共鳴のお話をしましたが、実際の音楽会では、楽器の数は変幻自在です。今回の演奏会のように「マリンバオーケストラ」と題している場合、多数のマリンバがステージ上に所狭しと並んでいます。ステージ上では音は四方八方からやってきます。たとえ近接していなくても、全周囲から音が溢れてくるようなステージではかなりの共鳴効果が得られます。
共鳴した楽器の音は気持ちよいです。心地よいです。単体では絶対に得られない豊かで美しい響きが得られます。大編成音楽の場合は、この共鳴効果を意識的に増大させるような工夫があれば、それはそれは素晴らしい響きが得られます。
あと、意識しておくとよい事は、ステージ横と上の音響反射板です。あれ、上手く使うと、大変効果的な音の増幅装置になります。理想的には、音源となる楽器に、可能な限り近接して配置するとよいのですが、現実問題としてそれを実現するのは困難です。
何故ならば、音響反射板は、固定された位置から動かせないものが殆どだからです。できるとすれば角度の変更位です。しかしこの角度の変更も、上手に使いこなせれば、かなりの効果を発揮します。あの日の夜の「マリンバオーケストラ」の演奏会で私が思ったのは、「ああ、天井の反射板の角度が、あと少しだけ斜めになっているといいんだがなあ・・・」でした。
もともとホールというのは、理想的には、ステージ奥、つまり音源の端っこから、客席の最も奥に向かって、ホーン状、つまり緩やかな放物線を描いて客席の奥に向かって広がるのが理想です。それが実現すると、ホール自体が一つのスピーカーのようになって、素晴らしい音響効果が得られるのです。
なので、演奏会場をできるだけそういう形にするとよいのです。天井の反射板が、そういう曲線を描くように、あと少し斜めに角度を付けたかったなあ・・・そして可能ならば、あと少し天井が低くなるように設定したかったなあ・・・と思ってしまったのです。そうすればステージ上の多数のマリンバたちは、水を得た魚のように大きな共鳴を起こし、音が増幅されたに違いありません。
その夜の演奏会
大変お待たせしました。ようやくここで、実際の演奏会の音、というか曲についてのお話をしたいと思います。演奏会前、私が特に意識していたのは、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」です。何故意識していたのかというと、単にこの曲が大好きだからです(笑)。まあ世の中の真実とは、そういうものだと思います。
3曲目のバーバーの「弦楽のためのアダージョ」と、アンコールで演奏されたバッハの「G線上のアリア」。2曲とも弦楽オーケストラ曲です。そして2曲ともゆったりしたテンポです。つまり2曲とも弦楽オーケストラで演奏する場合は、「機動的ピッチ変動」が嵐のごとくに起こる曲です。特にこの2曲の音は隅々まで知っているので、弦楽合奏特有の「機動的ピッチ変動」がない状態でのマリンバ合奏を聴く事は、不思議な体験になりました!
バーバーの曲の詳細などは、次の記事に譲る事にします。すみません、今日はここまでにします。ここまでですでに2500字を超えてしましました💦 この3で、この記事を終わろうと思っていたのですが、書き始めたら止まらなくなってしまって、次回の4に突入してしまいます。次の4こそ、最終回にできるようにしたいと思います。
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