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2036年から来た男、ジョン・タイター
ドラえもんなどで有名な人類憧れの装置、タイムマシン。誰もが過去の失敗をやり直したいとか、未来の自分を見てみたいと一度は思ったことがあるだろう。そんなことを可能にしてしまうタイムマシンだが、当然現在の世の中には存在せず、また、現在の技術力では作ることは不可能とされている。ところが2000年11月2日、そんなタイムマシンに乗って2036年から来たという人物がアメリカのチャット掲示板に突如現れたのだ。彼の名はジョン・タイター。
チャット掲示板に現れたジョンは唐突に不思議な話を語り出した。
「私の名前はジョン・タイター。38歳で、フロリダ出身のタイムトラベラーだ。」
こんな馬鹿げた書き込みに誰も本気で取り合わず、冗談で他のユーザーは対応した。
「何年から来たんだ?」
「2036年」
「38歳で2036年から来たのなら同じ時代に君が二人存在することになるが問題はないのか?」
「全く問題ない。この世界の私は、別の世界に存在しているからだ。」
「そうか。お前は完全にイカれてる 笑」
しかしジョンは大真面目に返す。
「プロフィールの欄に、私の乗ってきたタイムマシンの写真がある」
それはネットでよくあるおふざけに見えた。しかしそれからもジョンを名乗る男は毎晩のように掲示板に現れ、自分が乗ってきたタイムマシンの構造や原理などを公開していった。それから4ヶ月程ユーザー達とのやり取りは続き、ネット上では大きな話題となった。しかし、終わりは突然訪れた。
「この時代での任務は完了し、自分の時代に帰ることになった。」
この書き込みを最後にジョンはネット上から一切の姿を消した。ジョンがいなくなってから、ジョンが語った2000年以降の出来事は大きな関心を集めた。2003年には、この一連の事件をまとめた書籍が刊行された。その中にはジョンの母親を名乗る人物の手紙までもが掲載された。母は、現在ジョンを育てているが、これ以上この件には関わりたくないと素性を隠し続けている。多くの人がジョンの正体を暴こうとサーバーのログやIPアドレスなど様々な視点から調査をしたが、現在もその正体は分かっていない。
ここでざっとジョンの書き込んだ未来をあげたい。
2001年中国人が宇宙に進出する。
世界オリンピックは2004年度の大会が最後になり2040年に復活する。
2005年にアメリカが内戦状態になる。
2015年ロシアが中国、ヨーロッパの主要都市に核爆弾を投下する。アメリカが反撃して第三次世界大戦に突入する。
2017年、30億人の死者を出しロシアの勝利に終わる。
そしてジョンのいた2036年はタイムマシンが実用化されて2年が経過しているが、まだ信じてない人もいるらしい。
この他、調べればこの未来人騒動の詳しいことはまだまだ出てくるので興味のある方は暇つぶしに如何だろうか。
読んで頂いた方にはお分かりだろうが、ジョンの語った未来はほとんどが違っている。だからといって彼を偽物の未来人と見てしまうのは、個人的には腑に落ちない。いや、もし彼が本物の未来人だとしても腑には落ちないだろう。このような不思議なことを大真面目に追求、調査することは確かに不合理なことかも知れない。合理さを追求する現代人にとって真逆の行為とも言える。しかし、このような不合理なことを真剣に追求することこそ、人としての豊かさに繋がるのではないだろうか。そう思うと未来人ジョン・タイターが本物か偽物か、そんなことはどうでも良くなってくる。それよりも、一つ確実なのは、彼がこの病んで疲弊した世界に一瞬の素晴らしいエンターテイメントを送ってくれたということだ。様々なストレスが溢れている現代だからこそ、この不思議な出来事のような不合理さを楽しむことが、私達現代人に必要なのではないか。ひょっとすると、ジョンはそのことを教えるために現れたのかも知れない。だとすると、彼はやはり「本物の未来人」なのかも知れない。