ジュネーヴ諸条約の「特殊標章」を無視する防衛省の国民保護規定!
●自衛隊は「武力攻撃事態下の住民保護」について、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書が定める「特殊標章」(軍民分離の原則)をつけない、無視することが明らかになった!
筆者は、防衛省・自衛隊の「防衛省・防衛装備庁国民保護計画」(2005年)、統合幕僚監部『統合運用教範』(2017年)による国民保護規定(双方とも同文)によって、戦時下の「軍民分離の原則」の重要な指標である「特殊標章」が、どのように具体的に定められているのか、という情報公開請求を防衛省に行った。この回答が、添付の2頁の文書である。
驚くことに、この文書で明らかになったのは、防衛省がこのジュネーヴ諸条約第一追加議定書が規定する「特殊標章」をつけない、完全に無視することが明らかになったということだ。
添付文書は「防衛省の(ママ)おける特殊標章の交付の検討について 本件は、指定行政機関の長たる防衛大臣が武力攻撃事態等において、特殊標章等の交付等を行うケースについて検討したところ」、検討結果として「防衛省における職員等の特殊標章等については、上記を踏まえると(上記の理由は「墨塗」)、交付されないものとして、防衛省の特殊標章等の交付要綱は作成されなかった」としている(2007年運用企画局・事態対処課・国民保護・災害対策室)。
なお、防衛省に統合される前の防衛施設庁においては、「防衛施設庁の職員等に対する特殊標章等の交付等に関する要綱」が作られていたが、これは「廃止するのが妥当である」とし、廃止されてしまったのである(同文2)。
全ての自治体の国民保護計画も、海上保安庁・消防庁などの計画も、特殊標章の規定を明確に定めている!
「特殊標章」の規定は、これは、誰もが知る「赤十字」標章と同様、戦時下の重要な市民保護の原則「軍民分離」を明確にし、戦争被害から市民を守る原則的定めだ。この原則を屁理屈を付けて守らないとしているのが防衛省・自衛隊だ!
情報公開文書は、以下のように言う。
「国民保護のために使用される自衛隊輸送力が同条2に規定される『軍事目標』に当たるかについては、実際に武力紛争が生じた場合において、その時点で判断する必要があるものであり、一概にお答えすることは困難」と。
別の項目では、「(特殊標章をつけなくとも)軍事組織が住民の避難誘導等に当たるとしても、これが軍事行動から生じる危険から住民を保護することを目的としたものであることを踏まえると、このような活動が、直ちに国際人道法に反しているとは言えないと考えています」という。
結論的に言うと、防衛省・自衛隊が、海上保安庁などと異なり、あくまで特殊標章を付けないことに拘るのは、「戦時の住民保護」という任務は、自衛隊の任務ではない、自衛隊の輸送力にその力はない、自衛隊の主任務は「武力攻撃対処」である、という厳然たる意思が働いている、ということだ。
そして、これは、現在、与那国島・宮古島・石垣島などで進められている、九州への住民避難と軌を一にしているということである。つまり「武力攻撃よりも十分に先立って、住民の迅速な避難を実施することが何よりも重要である」とし、何年かかるかも知れない九州などへの住民避難(棄民)を強制しようとするのである。
私たちは、昨年から政府の先行的政策で推し進められている、沖縄島ー先島諸島自治体の住民避難キャンペーンを、厳しく批判すべき段階に来ている。ここには、いささかの曖昧さをも残してはならない。政府の「台湾有事」事態を起因とする住民避難(棄民)は、ひじょうに、具体的かつ実際的に進行しているのだ。
このキャンペーンに打ち勝つたたかいを広げなくてはならない。