南西シフトの新たな、本格的態勢づくり――対中戦争態勢の兵站態勢について!
自衛隊の南西シフトの最大の問題として上げられているは、南西諸島へ機動展開する陸自「14個旅団・師団」の補給・兵站の困難性という問題である。
この問題を解決を、「陸上自衛隊の機動戦型兵站への移行を目指して ― 南西島嶼防衛への適応を中心に」(田村 大樹・陸自教育訓練研究本部)という論文において田村は、「海上輸送群を新編し、南西地域への機動展開能力を強化し、南西地域に補給処支処を新編」などとして提案している。
すでに、24/12安保関連3文書では、PFI船舶の大増強とともに、海上輸送群の新編を策定しているが、これだけでは、南西シフトにおける兵站問題は解決されていないと、この論文では主張する。
そして、田村は、この南西シフトの兵站問題を解決するために「島内のあらゆる民間の補給施設、倉庫、地下施設、必要に応じては、現地における自然地形等、活用可能なあらゆる地点を努めて多く見積もり、兵站的独立性を高めるための事前集積等を先行的に進めることが必要」と提示している。
この田村の提案は、決定的に重要だ。おそらく、ここでいうように、今後、「南西諸島」の島々への、武器・弾薬はもとより、あらゆる軍事物資の「事前集積」態勢づくりが、「島内のあらゆる民間の補給施設、倉庫、地下施設」、そして「自然地形等、活用可能なあらゆる地点」に、広がっていくことになる。
そして、これこそ先島諸島の本格的な軍事化ー全島軍事化に行き着くことになるのだ。
私たちは、この先島諸島における軍事化が、ミサイル基地などの強化とともに、今後、兵站態勢作り――事前集積体制づくりとして本格化することに、決定的に注視しなければならない。
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以下は、田村論文の要約である。
*「陸上自衛隊の機動戦型兵站への移行を目指して ― 南西島嶼防衛への適応を中心に」(田村 大樹・陸自教育訓練研究本部)
・弾薬やその他の戦争必需品の消費量が膨大となった現代において、兵站は軍事作戦の様態や状況の変化に追随するため、より計画的・継続的かつ機動的・柔軟に考えられるべき機能であり、もはや作戦の重要基盤として、部隊の運用とより不離一体の存在となった。すなわち、兵站の限界が戦略・作戦・部隊運用の限界を表すと言っても過言ではない。
・冷戦期の陸上自衛隊は、北海道を中心とした着上陸侵攻への対処が主体となっていたが、現在は、中台有事発生時における南西島嶼部における着上陸侵攻等への対応が喫緊の課題とされている。しかし、かかる有事へ対応するため、現在の陸上自衛隊として、作戦準備を早急に整え、中央から第一線部隊に至るまでの作戦を継続的に支援できる実効的な兵站となっているであろうか。特に中台有事において主作戦場となる可能性のある南西島嶼部は、地形や地積に乏しいため、島嶼内での従来の固定的な消耗戦型の戦い方では継続的に戦うことはできない。
・それぞれの島嶼部は本州等から離隔されている。そのため、従来の個々の集権的かつ固定性の強い兵站支援基盤を念頭に部隊を展開させ、単線的に基盤を連接する要領では、非常に脆弱かつ非効率な態勢となってしまう。そのため、平素から兵站的独立性を高め、有事に柔軟かつ有機的に連携し得る態勢にしておく必要がある。また、中国が台湾侵攻等を画策する場合、当初から誘導兵器等による飽和攻撃を行う可能性が高いことを踏まえ、島嶼内における残存性を高め、作戦・戦闘を継続するためには、有利な態勢を占め得るよう、第一線部隊に対する兵站支援基盤をより分散・隠蔽・抗堪化し、柔軟かつ機動的に移動・展開・再連接する機動戦型の戦い方が必要である。
・特に中台紛争発生時に陸上自衛隊が南西島嶼防衛作戦を行う上で、最適と考えられる兵站体制の一案を具体化するものである。自衛隊の防衛構想や米国陸軍種の運用教義の変遷を捉え、従前の消耗戦型兵站から、将来の戦い方に適応可能な機動戦型兵站を行うための具体的方策について整理を試みる。
・2022 年 12 月に策定された「防衛力整備計画」によれば、従前の防衛構想に当たるキーワードは示されていないが、「多次元統合防衛力」を引き続き踏襲する形で各種防衛力の抜本的強化の方向性が打ち出されている。特に南西島嶼部の兵站に関連しては、島嶼部への侵攻阻止に必要な部隊等を南西地域に迅速かつ確実に輸送するため、輸送船舶や輸送・多用途ヘリコプター等の各種輸送アセットの取得の推進や海上輸送力を補完するための民間資金等活用事業 (PFI) 船舶の確保、コンテナトレーラー及び荷役器材の取得、輸送を必要とする補給品の南西地域への備蓄により、輸送所要を軽減する取組を講じる等の兵站的独立性を高め、兵站の質・量を改善する動きが明示されている。
・さらに、共同の部隊としての海上輸送群を新編し、南西地域への機動展開能力を強化し、南西地域に補給処支処を新編するとともに、補給統制本部を改編し、各補給処を一元的に運用することで後方支援体制を強化し、持続性・強靭性を強化することとしており、南西島嶼部における兵站運用態勢・体制の強化の方向性が打ち出されている。これは南西島嶼部のための機動展開能力が格段に向上することを示しており、陸上自衛隊の兵站としてもこれらをさらに活用し得るよう最適化の方向性を模索することが必要である。
*中台有事に伴う南西島嶼防衛の様相 ー南西島嶼部及び台湾の地理的特性
こうした地理的条件と現代戦の様相を踏まえ、中国の台湾侵攻の様相を考えると、台湾周辺島嶼部を近接拒否・領域拒否のための拠点として、一時的に占有し、長射程誘導火力等の配置によって米国軍の拒否を考える公算は高く、わずか約 111kmからと近傍に所在する与那国島以東の日本の南西島嶼部支配の蓋然性は高いと言える。
そのため、現在の陸上自衛隊の配置状況に基づき、南西島嶼部における有事においては、第15旅団を擁する沖縄本島と警備隊等を擁するそれ以外の台湾寄りの主要島嶼、すなわち奄美大島・宮古島・石垣島・与那国島等の主要な地形結節に対し、島嶼所在部隊と連携しつつ、独立的に様々な作戦を遂行可能な師団・旅団隷下の諸職種協同部隊の展開を想定した運用及びそのための兵站基盤が必要となると推察できる。
*南西島嶼防衛における兵站上の課題
南西島嶼部における兵站は平素からの事前の準備が極めて重要であるが、準備は不十分である。また、南西島嶼部の環境においては、単線的・固定的な兵站組織では中国軍の精密誘導兵器やドローン等によって即座に破壊・遮断を被ることが予期される。そのため、島嶼の地形・地積・植生も考慮した上で、努めて小規模かつ柔軟に構成可能な、偵知されづらい独立性を保持した兵站組織構成が必要になる。そのため、平素から兵站支援に活用し得る施設・用地の調査・連絡調整を行い、島内のあらゆる民間の補給施設、倉庫、地下施設、必要に応じては、現地における自然地形等、活用可能なあらゆる地点を努めて多く見積もり、兵站的独立性を高めるための事前集積等を先行的に進めることが必要であるが、準備は十分にされているとは言えない。実際の地域・施設と輸送網を活用しなければならないことから、現地自治体・関係機関等との連携もより強化しなければならない。
*柔軟性が必要な兵站部隊の運用
現状の線的・固定的な兵站組織を構成した場合、中国軍の衛星・ドローン等による事前の情報収集の上、我の鈍重な兵站組織を探知し、作戦初期段階での中国の誘導武器等による飽和攻撃によって、部隊は大損害を被り、主動性を失う公算が高い。これを防ごうと考えても、大規模に展開してしまった兵站組織は、相対的に鈍重であり、再度撤収・機動するまでの時間と労力はかなり大きいものとなるであろう。そのため、中国の精密誘導兵器やドローン等に抗堪、残存するためには、師団・旅団や各戦闘団(連隊)単位の大きな規模の部隊が障害と火力を連接させた固定的な陣地に拠って行う戦い方は、地形・地積に乏しい南西島嶼部では適応困難である。よって、中国軍の侵攻に対しては、米軍と共同しつつ、サイバー・電磁波等の領域横断作戦機能を発揮しながら努めて残存し、局所的な分散合撃を繰り返して、相手を撃破・阻止・撃退する戦い方になることが予期される。
・その場合、第一線部隊の運用に合わせて、兵站組織も柔軟に分散・機動しなければならないが、島嶼内に展開する野戦兵站部隊である師団・旅団の後方支援連隊等は柔軟に分散・機動、兵站施設の展開・撤収等が可能な態勢・体制にはない。よって、各島嶼にあっても、各種ニーズを把握・共有し得るシステムを整備するとともに、兵站の独立性を高めて作戦をより長く継続できるよう、各種兵站支援機能をより細分化して配属・派遣可能な柔軟な部隊編成に変化させ、第一線部隊の分散・展開、機動を支援できることが必要である。
・島嶼部における兵站は、努めて多くの所要を賄うため、予めコンテナ等を活用した海上輸送を主体として戦力を推進・維持する必要があり、そのためには荷役能力が必要であり、部外力の確保が前提とされている。しかしながら、事態の推移に応じて、常に部外力を確保して荷役することも難しくなる段階が生起するであろう。よって、荷役支援を現地において専任で行う部隊が必要となるが、現状として陸上自衛隊内には荷役専任部隊を保有していない。さらに、作戦初期の中国の誘導武器等の飽和攻撃から残存するため、主要島嶼から先の小島嶼部まで重要装備品を主体とした部隊を分散・展開させるために軽快・迅速な海上輸送を行う必要があるが、平素から現地の天候・気象・海象に適した練度を維持し、常に即応態勢を高めた機動舟艇等運用部隊が必要であるが、これも陸上自衛隊内には保有していない。
*南西島嶼防衛における陸上自衛隊の機動戦型兵站の在り方ー機動性を踏まえた柔軟な兵站組織の構成
作戦準備間においては、現地調達の可能性を踏まえ、事前集積を促進するとともに、島内に補給拠点を分散して先行的・計画的に配備することが必要である。特に補給品としては、自衛隊独自の所要である弾薬・誘導弾を優先することが重要である。また、島嶼は作戦地域としても狭隘であることから、事前集積場所は予め島嶼内において融通性をもって使用できる場所を努めて多く選定・確保しておくとともに、分散・秘匿・欺騙に努め、機動的に活用・再連接し得るよう、有事に被害を受ける可能性を局限することが重要である。
・南西島嶼部の作戦においては、海上・航空優勢の獲得が必要となるが、彼我ともに戦略的拠点から離隔して戦力を展開させるため、常続的に優勢を獲得することは彼我ともに困難な環境となる。その場合、船舶・航空機等による臨機の機動的・集中的な輸送が主となり、翻って中国軍の警戒監視網をかい潜っての日々の常続的な追送支援を追求することのハードルは高くなる。そのため、従前の線的・固定的な組織をすべて逐次構成するのではなく、海洋で隔たれている不利点を解消するため、努めて中間結節を排し、各基地兵站等の主要結節から各島嶼等の第一線部隊や小規模な野戦兵站組織へ合理的な範囲で直接交付することが重要。
・南西島嶼は狭隘であり、現代戦の様相を踏まえると、前方・後方の区分が困難であることから、機動的に行動し、戦闘部隊等へ追随して補給・整備等の直接支援が可能とするため、主に師団・旅団の兵站支援部隊を小隊級単位で分散可能なよう、各機能を班・分隊で分割(Plug-in Play)可能なモジュール化された体制にする。
・島嶼防衛に当たっては中国の奇襲的着上陸侵攻等により、リードタイムが短いことが前提となることから、港湾荷役・小型海上輸送等の荷役・輸送専任の基幹となる部隊を島嶼内に平素から配置し、状況の推移に合わせ、必要に応じ逐次増強して、有事の際の作戦準備の促進を促すことも重要である。そして、各主要島嶼部における駐屯地に平素から専任部隊として駐屯させることにより、現地における兵站訓練を通じて必要な練度を保持させるとともに、地元自治体・関係機関等と作戦準備に必要な事前の調整を促すことが可能となる。
・中国の侵攻に際しては、東シナ海空海域における制空・制海権を常時確保することが困難となり、再補給機会が極めて限定される可能性があるため、事態の推移に伴い、展開部隊に対しては、各種補給品を一挙に一括割り当て補給を追求し、一定期間持久可能な態勢を保持する。
・機動戦型兵站運用のイメージについては図「機動戦型兵站運用のイメージ」を参照されたい。
https://www.mod.go.jp/gsdf/tercom/img/file2533.pdf