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無用の長物と化した水陸機動団を喧伝するメディア

本日の朝日新聞に水陸機動団の動向が掲載されているが、すでにこの部隊の主要な作戦としている「強襲上陸」は、米海兵隊でさえ、歴史的に無意味化したものとして提示されている。「海兵隊戦力デザイン 2030」である。にもかかわらず、自衛隊は、この水陸機動団の存在をアピールし、メディアがこれに迎合を繰り返している。厳しく批判しなければならない。以下は拙著『ミサイル攻撃基地と化す琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』の水陸機動団について言及した、箇所の公開である。

第6章 無用の長物と化した水陸機動団

水陸機動団の編成

水陸機動団というと、自衛隊がよく紹介するのは、ゴムボートに乗った隊員が、海上から陸へ上陸する写真である。だが、この部隊は、水陸機動団の中でも、特殊な「火力誘導中隊」で、夜陰に乗じて島々へ潜入し、艦砲射撃、空爆撃などの陸・海・空自衛隊の火力の誘導を任務とする部隊である。
 すでに、別章で一部を叙述してきたが、水陸機動団の前身は、2002年、長崎県相浦で発足した西部方面普通科連隊であり、2018年3月に、部隊は正式に約2400人態勢でスタートした。現在の部隊規模は、2個連隊であるが、2023年までに第3水陸機動連隊も編成される予定だ。また、この水陸機動団を航空輸送する「輸送航空隊」(オスプレイ17機)も編成されているが、予定する佐賀空港の用地問題が解決できず、千葉県の木更津市に暫定的に配備されている。
 オスプレイ部隊は、現在、第1ヘリコプター団の傘下に、輸送航空隊の隊本部、整備隊、オスプレイ運用の107、108飛行隊などで編成されており、隊員約430人で構成されている。

さて、水陸機動団の部隊編成の内訳は、組織図にあるように、団本部と3個水陸機動連隊(1個連隊は約620人)・戦闘上陸大隊(水陸両用車基幹の部隊2個中隊約180人)・特科大隊(約180人)・偵察中隊・通信、施設中隊・後方支援部隊・その他で総人員約2100人で構成される。
 この水陸機動連隊、戦闘上陸大隊による敵前上陸で運用されるのが、水陸両用車(AAV7)であり、陸自全体では、現在58両を調達している。
 水陸機動団の配備先は、団本部が置かれている長崎県相浦駐屯地ほか、大分県の湯布院、玖珠駐屯地など九州北部・中部に、多岐にわたって配置されている。具体的には、第1戦闘上陸中隊(佐世保市崎辺)、第2戦闘上陸中隊(大分県玖珠駐屯地)、特科大隊(大分県湯布院)などである。
 水陸機動団の主力の1つは、戦闘上陸大隊の装備する水陸両用装軌車両(AAV7)であり、陸自の実戦部隊では唯一装備しており、水陸機動団(主に水陸機動連隊の隊員)を輸送艦から揚陸地点へ上陸させるとともに、上陸前後における部隊の火力支援を主目的とする。
 戦闘上陸大隊は、2個戦闘上陸中隊を基幹とし、隊本部および本部管理中隊、第1戦闘上陸中隊、第2戦闘上陸中隊で編成される。

水陸機動団の作戦運用

さて、水陸機動団の作戦、「島嶼奪回作戦」とは、どんな内容なのか。
 この作戦を分析するために、筆者は防衛省に情報公開請求をしたのだが、、提出された陸自教範『水陸両用作戦』(2016年・統合幕僚監部)は、42頁の半分が黒塗りという、とんでもない内容のシロモノだった。
 ところが、だ。2019年1月、米統合参謀本部は、水陸両用作戦に関するドクトリンをインターネットなどを通じて公表したが『Amphibious Operations(水陸両用作戦)』[Joint Publication 3-02])、その全文284頁に及ぶ内容は、まったく黒塗りなしである。米軍は全面公開し、この作戦に関する意見を求めているのに、自衛隊はほとんど黒塗りという状態、これが自衛隊の隠蔽体質を表しているのだ。  
 問題は、この米海兵隊のドクトリンをよく見ると、陸自教範は、これをそっくり真似ていることが分かる。陸自教範は、第1章総説で「水陸両用作戦の種類」を記載し、それを水陸両用強襲、水陸両用襲撃、水陸両用陽動、水陸両用後退と記載しているが、これは米軍の記述の完全な物真似だ。
 自衛隊の教範が、このような叙述した状態であるから、公開されている米軍の『水陸両用作戦』に基づいて、少しその具体的内容を検討してみよう。
 海兵隊教範は、まず「水陸両用作戦とは割り当てられた任務を達成するべく、上陸部隊を海岸部に嚮導することを第1の目的とし、艦船あるいは航空機に搭載された水陸両用作戦部隊(Amphibious Force:AF)によって海上から投射する軍事作戦」であるとする(嚮導とは、先頭に立って部隊を導くこと)。
 この水陸両用作戦は、複数の軍事作戦領域にまたがって遂行され、次の5つの嚮導に分別されると記述している。
 すなわち、「水陸両用強襲」(Amphibious Assault)、
「水陸両用襲撃」(Amphibious Raid)、
「水陸両用陽動」(Amphibious Demonstration)、
「水陸両用撤退」(Amphibious Withdrawal)、
そして「水陸両用支援」(Amphibious Support)である。
  水陸両用強襲とは、敵性あるいは潜在的敵性圏内の海岸部に、上陸部隊を展開することである。


 水陸両用襲撃とは、あらかじめ撤退までを含めて計画された、迅速な襲撃もしくは目標の一時的占拠を含む水陸両用作戦の種類の1つである。
 水陸両用陽動とは、敵が我の行動に惑わされ、敵自身が不利となるような行動方針を選択することを期待し、部隊が欺瞞行動をとって見せることである。
 水陸両用撤退とは、敵性もしくは潜在的敵性圏内の海岸部から、船舶もしくは航空機によって海上に部隊を引き揚げることである。
  水陸両用支援とは、紛争防止あるいは危機沈静化に寄与する種類の水陸両用作戦である。
 注意すべきは、「水陸両用強襲」が敵地の獲得とその継続を目的とするのに対し、「水陸両用襲撃」は、あらかじめ撤退を計画した上での一時的な目標占拠を目的とするということだ(「水陸両用陽動」とは、待ち伏せされる強襲上陸地点を、「陽動」(欺瞞)によって避けること)。
 そして、「水陸両用作戦はその性質上、統合運用を前提としており、また状況によって広範囲の航空、地上、海上、宇宙そして特殊作戦部隊の参加を要する」とし、「作戦を成功に導くためには、水陸両用作戦部隊は、局地的な海上・航空優勢を確保するとともに、海岸部において敵に対し確実な優勢を確保すべき」と述べている。
 なお、米海兵隊の「水陸両用作戦」についての概念を詳しく記述したのは、陸自教範の問題を浮き彫りにするためである。



以下は水陸機動団の「強襲上陸」作戦の問題党については、下記のPDFを参照してほしい。
『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』の第6章参照



私は現地取材を重視し、この間、与那国島から石垣島・宮古島・沖縄島・奄美大島・種子島ー南西諸島の島々を駆け巡っています。この現地取材にぜひご協力をお願いします!