矛と盾
はじめに
古来、技術の進歩は武器に現れることが多い。近代技術史が好きな自分としては、最近のウクライナ情勢は、とても気になる点でもある。今回は、戦車を軸にその登場から戦術の変化や進歩、かたや対戦車兵器の進歩などを簡単にお話したい。
戦車の登場
時は WWI、総力戦という言葉が言われ、貴族ではなく平民を徴兵しての大規模な戦争が始まりました。前線では塹壕を掘り、戦況は停滞。これを打破するために当時イギリスの軍需大臣だったチャーチルが開発したのが、「tank」です。ドイツ側に秘密に開発していたので、「貯水槽(タンク)を製造している」という表向きの名前がありました。それがそのまま、完成した戦車の名前になった訳です。
最初は完成度が低く、故障も多かったようですし、なにせエンジンと乗員が同じ部屋に配置されているという無理ゲーです。走行時の排気を吸って失神する乗員も出る有様。とても完成品とは言えないのですが、 実戦で成果を出しドンドン改良していきました。現在の全ての戦車の原点が、この mk1 なのです。
戦術の変化
従来は、砲兵と歩兵の2つが連携しながら戦うのが基本でした。先に砲で叩き、歩兵が進軍する訳です。そこに戦車を代表とする「機械化部隊」がセットとなり、ややこしい関係になります。
歩兵 対 砲 :遠距離だと砲の勝ち 近距離だと歩兵の勝ち
歩兵 対 戦車:遠距離だと戦車の勝ち 近距離だと微妙
戦車 対 砲 :遠距離だと関係なし 近距離だと戦車の勝ち
単純なジャンケン関係にはならず、それぞれ得意と弱点があります。この3つの種類を、お互いの弱点を補う様に連携するのが重要です。
対戦車兵器
最初に戦車を作ったのはイギリスなので、ドイツはその対策を検討しました。
対戦車ライフル
ライフルを強化し、戦車の装甲を撃ち抜ける「徹甲弾」を開発しました。撃つだけでも大変だし、持ち歩くのも大変で、更に装甲の厚い戦車には歯が立たず、廃れていきます。30mm ぐらいが限界で、コンセプトに無理あり。
駆逐戦車
力には力。より大きな砲を積んだ「戦車キラー」となるものを作っていくが、これは結局 戦車 対 戦車の戦いに勝てるものを作ることになり、戦車の大型化が進んだ。正攻法ではあるが、知恵はないし、お金もかかる。
対戦車ロケット弾
HEAT(成形炸薬)弾を使うことで、弾丸の運動エネルギーに頼らずに厚い装甲を貫通出来ることがわかりました。歩兵が持って歩ける大きさで、戦車を破壊できる可能性が出てきたのです。正に画期的。また、コストも安い!戦車無敵と思われていたのが、崩壊した訳です。
戦車側の改良
もちろん、戦車開発側も対策を行います。
命中精度の改良
単なる携行ロケット弾では、戦車にうまく当たるかどうか?が射手の腕次第となります。もちろん射程が長くなれば当てるだけでも難しいですし、装甲板に垂直に当てる必要もあります。で、ここでの進歩は「誘導」です。ロケット推進で、誘導制御が行われる兵器を「ミサイル」と呼びます。
有線誘導
発射装置側とミサイル本体が有線で通信し、ラジコン操作のように誘導するタイプ。最近のは光ファイバーで、10kmぐらいの射程があるらしい。訓練は必要でしょうね… 無線妨害を考えると、無線誘導は無理な様子です。日本製は1つ5000万円ぐらいしたらしい。
画像識別誘導
現代では画像処理を使った、高度な自動誘導装置が搭載されています。現在、ウクライナ軍が使っている物は、射程2000mで講習を受けただけの射手でも96%の命中率だそうで。一つ2000万円ぐらいですが、戦車は2億円ぐらいしますので、十分ローコストと言えます。
現代の戦い
この様に、現在の兵器の「進歩」も、組み込み制御が核となっています。ドローン兵器も話題ですが、そもそもドローンが普及した理由の一つは、難しい飛行制御が出来る組み込み技術です。
最新の対戦車ミサイルには、接近後に上昇し、上空から砲塔後方のエンジンを狙うものまであるそうです。次のブレークスルーは、何でしょうね。
#個人的には、対戦車ミサイルの防御システムが出来るのでは?と思っています。弾丸とは違い短距離ミサイルの速度はかなり遅く、秒速200mぐらいなので、自動的に撃ち落とす仕組みは作れそうなんですよね。