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「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」と題するアイデアに関して…②

先月に引き続き、「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」と題するアイデアについて記載してまいります。

1.税務の観点から

(1)税務上の問題点はなにか

税務においては会社が個人事業主に支払った経費が外注費なのか給与なのかが問題になります。

ここには源泉所得税の問題と消費税の課税仕入れの問題について税務調査で指摘される可能性があります。

(2)外注費か給与か

外注費(個人事業者)と給与(給与所得者)の区分につきましては国税庁のホームページに法令解釈通達が示されております。

①その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
雇用契約の場合、労働者本人が業務を行い、その対価として給与を受け取ります。
請負契約では、仕事の期限や報酬を依頼主と決めれば、実際にその仕事を行うのは請け負った本人でなくても構いません。例えば、請け負った人が自分で雇った第三者に仕事を任せることもでき、その結果として外注費を受け取ることが可能です。
一方で、役務を提供する人が契約当事者に限られ、他の人が代わりに仕事をすることが認められない場合や、本人が自由に第三者を使えない場合には、「代替性が無い」とされ、給与として判断される可能性が高くなります。

②役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
雇用契約では、労働者は雇用主の指揮命令に従い業務を行います。
・請負契約では、業務の進行や手順に関して依頼主から指示されることは通常ありません。そのため、作業の具体的な内容が仕様書や指示書で詳細に指示され、使用者の指揮命令下で業務が行われている場合は、給与として判断されやすくなります。

③まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
請負契約では、納品前の完成品が不可抗力で失われた場合、報酬を請求できません。
雇用契約では、労務を提供すればその結果にかかわらず報酬を請求できます。つまり、役務提供の結果による較差が少なく、業務の量に応じて報酬が支払われる場合、給与として判断されやすくなります。

④役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
雇用契約では、雇用主が材料や用具を支給します。
請負契約では、作業者が自分で材料や用具を準備します。
職務遂行に必要な経費を役務提供者が負担している場合は、外注費として扱われる可能性が高まります。

(3)源泉所得税の問題と消費税の課税仕入れの問題について

外注費と給与の違いについて理解していただいた上で、次に税務上の扱いと注意点を説明します。

①源泉所得税の問題
給与の支払いについては、法人・個人問わず、受給者の所得税を源泉徴収し、国に納める義務があります。この義務を怠った場合、受給者の所得税を追徴し納税しなければなりません。その際、本税に加えて、不納付加算税や延滞税といったペナルティも課される可能性があります。

②消費税の課税仕入れの問題
給与は、事業者への支払いではないため、消費税の課税要件のうち「事業者が事業として行う」という条件を満たさず課税対象外となり、給与に対して課税仕入れを行うことはできません。一方で、外注費はこの要件を満たすため、消費税の課税取引となり、課税仕入れが可能です。

個人事業主に支払う外注費が給与認定されると消費税の課税仕入れが認められず、消費税の納税額が増加することになります。

前回の労務の観点に加えて、税務についても問題となりそうな点がありましたね。

今回の「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」というアイデアについて、労務と税務の両観点から様々な問題点を考察しました。労務面では、労働基準法に違反する恐れや社会保険の適用除外に関する問題が指摘されました。一方、税務面では、外注費が給与として認定されることで源泉所得税や消費税に関する新たな負担が生じる可能性があります。

内閣府のアイデアコンテストでこのアイデアが優勝したことについては様々な疑問が残りますが、今後は労務、税務専門家や実務者などとの協力を深めつつ慎重に検討した上で対応していくことが必要ですね。


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