まこ

趣味で詩を書きます。都内で自家焙煎コーヒショップを経営しています。コーヒーと芸術のペア…

まこ

趣味で詩を書きます。都内で自家焙煎コーヒショップを経営しています。コーヒーと芸術のペアリング🎨☕️

マガジン

  • 日記

  • 散文

    雑多にいろいろ

  • 鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで

    虐待サバイバーのうつ病患者がコーヒーショップを開業するまでの激動の半生をお送りします。

  • 読書感想文

    読んだ本の感想文

最近の記事

無条件

わたしは穴を掘ってその穴を埋める 髪を切ったねあたらしいニット素敵 最近元気ないの?いいことあった? 夏の終わりに生まれたから いつもいつも斜陽 誕生日の夜スマートフォンは一度もならなかった 通知音が来た時限定で息が吸える 別に速さを競いもしないハードル走 夜は眠たいのに眠れないから嫌い わたしは穴を掘ってその穴を埋める 誰かのためのケーキを体にかくして 満員電車をやりすごす ろうそくを吹き消して笑顔 それからほとんど会っていない だれもが通過していくドアフレーム どうせ枠な

    • 深爪

      小学生の頃、給食前に担任に爪が伸びてないかクラス全員並んでチェックされる時間があった。少しでも伸びてると指に爪切りをギリギリと爪の隙間に押し込まれながら切られて、しばらく手がジンジンするくら痛くてその時間がとても怖かった。家には帰って母にそのことを話すと、あなたは爪の形が細長いから伸びているようには見えるだけなのにと抱きしめてくれた。私の爪が当日実際に伸びてたのかどうかもう思い出せないけど、無性の愛ってたぶんそういうことだと思う。 2024.10.6

      • 中流

        諦めの波は白く粟立ちながらまつ毛の先まで打ちよせた引き潮のあとに砂に取り残された自意識は角が取れていてそれをかき集めてはまた僕が花束で打った皆既日食グラスの破片がハーフサイズのコーラの氷をすぐに溶かす右側の君の紙コップがふやけて奥歯をならしながらベコんと握りつぶした 更地が売れてマンション工事が始まったら枕に沈めた反対側の耳に虫と声がしなくなった自然が一番やなんて東京で嘯くやつの言葉なんか信じられへんからピストル打線の1番目は嫌で後ろの方でめだたない葉山の海で泳ぎたいゆられて

        • 中秋の名月

          いたい 痛々しいの とあなたは両方の指で 視界を覆った 私は雨にしきりに打たれながら 前に前にただ歩みを進める 伸ばされた手から遠ざかろうとも 目の前に見える光りが眩し わたしは生きる一瞬の時を 光りながらも誇り生きるために わたしは雨に身を差し出し 打たれつづける 眩しいのだ 勇気や元気をもらえると たくさんの何かを託されて 私の足はいつしか何倍にも重くなった それでも今年の秋月は丸い だから今年も生きている

        マガジン

        • 39本
        • 日記
          12本
        • 散文
          26本
        • 鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで
          8本
        • 読書感想文
          2本
        • その他感想文
          2本

        記事

          そもそも

          そもそものはなし、穴の空いた容器だとどれだけ磨いても、それだけ水を注いでも時間が経てば空っぽになる。 生活に忙殺されるなか欠陥容器に注ぎ続けるひとなんていないよな。 そして空っぽになって汚れた容器は誰にも見向きもされなくなる。

          そもそも

          地平

          地平線が遠い。遠く、遠く、知っている土地のはずなのに遥か遠くに霞んでいって一体向こう岸に何があるんだろうと希求する。美しい営みであれば良いのにと薄甘い夢をみる。人もそれくらい遠く、緩やかに分断されれば良いのに。あの人の使う言葉はあまりに鋭利でただ切り立ったコンクリートの厚い壁ように固く激しく分断する。 人工物は風化しても人が1人生涯を全うするよりもはるかに長くその存在意義を保ち続ける。赤茶けたフェンスや表面の剥がれた鉄筋は、どれだけ荒れ果ててもそこにあることで空間を分離する

          あおいもり

          山が近い しゃわしゃわしゃわしゃわ 春蝉が鳴いて しゃわしゃわしゃわしゃわ きみが深い青に漕ぎ出でる様をわたしは少し前から振り向いてじっと見つめていた 浅く水を掻きぜんぜん前に進まないと飛沫を浴びて眉を寄せるパタパタと球のように服に吸い込まれ焦燥の熱に染み入り吐く息と共に溶け出る わたしは対岸が遠くてそう感じるだけだよと そう出かかったこえが春蝉のこえに掻き消されーーーしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ それでも対岸の青い森はまだ遥か遠い石灰質の岩壁に生えた

          あおいもり

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑧

          もうほとんどが大方進路を決めていた時期だった。就職組はいそいそと説明会に参加し、受験組は大学の資料請求をしたり勉強に専念しようとしている。 真面目に学校に通っていなかったわたしは、いい大学を受験できる訳もなく、歌やアニメが好きだったから声優の専門学校か、わたしでも入れるレベルの大学の文学部に行きたいなと思っていた。 父がなんの前触れもなく消息を経ってしまい、最初に思ったのは「進路どうしよう」だった。モラトリアムを与えられず社会に突き落とされる恐ろしさや、貧困の連鎖が頭の隅を

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑧

          ノルウェイの森

          私が初めてノルウェイの森を読んだのは、たしかまだ高校生のころだった。授業合間の休憩時間に、鮮やかな赤と緑に装丁された文庫にかじりつく私を見て、現代文の先生は「高校生には少し過激じゃないかな」と笑っていたが、今思うといつも本ばかり読んでいる私を温かい目で見守ってくれていたのだと思う。 私はあの頃、直子であり、緑でもあった。両親の離婚やなんだでもう十分過ぎるくらい傷ついていたし、損なわれ歪んだまま大人になるのが恐ろしくてたまらなかった。ただ一つ違ったことは、自分自身の半身にまだ

          ノルウェイの森

          痙攣

          「それ飲まないとどうなるの?」 ふとした、ただの素朴な疑問だった。彼女は一瞬かすかに顎を斜め上に傾げると、すぐに唇の端がすいと引っ張られて悪戯を思いついた子供のようににやりと笑った。 「白目を剥いて涎を垂らして痙攣するの」 彼女は自分で言った悪趣味なジョークでくすくす笑うと、指先で摘むとすっかり隠れてしまうほどの小さな白い錠剤を慣れた手つきで口に含みコップの水を飲み下した。首筋に張り付くような青白い薄い皮膚を、女性にしては大きめな喉仏が盛り上げている。それが水を飲み下す

          愛されているのだと

          君に愛されることで僕は僕自身を愛せるんだ。 だから僕はいま二人から愛されているんだよ。 君もたくさんの人に愛されているんだよ。 古い文学小説から抜粋したかのような美しい言葉だと思った。そう思いながら、わたしは小さな布団のなかで君の愛にくるまって肩を丸めて小刻みに震わせながら泣いた。涙がとめどなく溢れてはその人のシャツの胸元に染み込む。 この優しい人が幸せになれればいいのに。どこまでも幸せであってほしい。幸せにする権利が私にあればいいのに。

          愛されているのだと

          これが

          「ベンクション効果っていってね、自分は動いていないのに向かいの電車が走り出すと動いてるように感じるでしょう?」 僕は話半分に聞きながらきみのつるりとした顔に落ちる窓の形をした光の影がするすると横に動いていくのを眺めていた。真っ直ぐに切り揃えられた前髪が揺れている。お正月の終わりがけはいつも天気が良くて昼過ぎの日差しは角がとれたように暖かい。深く座り込んで眠りこける人や、まだおうちに帰りたくないとシートに丸くなっている子供。 穏やかで、どこにも行かずにどこにも帰らずにいつま

          隣の席のカップルがなぜこんなもの暗記させられるんだと空で案じた一節 左耳に残るつづきが細やかな糸となってその日の日没を紡ぐ 集中して 置き去りにして 千年前の帰り道 右前足のない猫がそれを咥えながら アパートの階段をスタスタ登って逃げた わたしはそれを結えてクローゼットにくくりつけたけれど 君がこじ開けようとしたドアロックはあまりにも調子の軽い音で倒れた 子供が好きだと笑う君のこめかみのニキビの跡 微かに匂い立つ化繊の折り重なる白抜きのそれを いまだ見ないふりをして 千

          肉芽

          押し当てられた肋骨は限りなく私を押しやった。押しやって推しやって押し潰して醜く変形したところでやっと肉を結ぶとわたしのつま先がようやく触れて、わたしは死に物狂いで着地する。膿みにまみれた一瞬間のゆりかご。反対側に大きく揺れる。ゆらゆらと。何もない空間を削り取るような慣性で。

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑦

          高校時代は部活もせずにバイトに明け暮れた。地元のイオンにあるケンタッキーフライドチキンのバイトは高校を卒業するまで長くつづいた。 マナーの悪い人や、店員をストレスの捌け口にして怒鳴り散らすような人、正直ろくでもない色んなお客さんが来たが,、従業員同士は仲が良かったため愚痴を吐きあいながらも店長を中心に結束し一生懸命働いていた。 わたしも学校をサボった日でもバイトにはきちんと行って、夕方から夜まで働いた。自分で稼いだお金で食べ物やノートや文房具、本などを買うことができたのが嬉し

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑦

          中平卓馬展 火-氾濫

          先日友人と中平卓馬展に行ってきたのだけど葉山であった展覧会とは全く違った展示方法でこれまたキュレーターのセンスに脱帽。パリの展示の際に写真を写真としてでなく印刷物として展示したいという中平の意向をくんでか、雑誌がひたすらにそのまま展示されていた。壁まで間近にせまり寺山修司の連載文を読みながらじっと写真を眺める。 若い頃の作品から急性アルコール中毒で死にかけた晩年まで作風は少しずつ変わっていくけど捉えたいものは一貫している。 後半にクタクタの帽子をかぶって雪道を迷わずに、し

          中平卓馬展 火-氾濫