秋に生まれた、ひとりぼっちのいもむし
秋の冷たい風が吹き始めるころ、森の片隅で一匹の小さないもむしが生まれた。
彼の名前はまだない。
だが、彼にはひとつの願いがあった。
ママに会いたいということだ。
生まれたばかりのいもむしは、木の葉にしがみつきながら、周りを見渡していた。
薄暗くなってきた空に舞う紅葉が、ひらひらと風に乗って落ちていく。
木々は枯れ葉で覆われ、季節が秋から冬へと変わろうとしているのを肌で感じた。
けれど、いもむしはママを探していた。
「ママ…どこにいるの?」
いもむしは弱々しい声で呼びかけた。
しかし、返事はなかった。
生まれてからずっと、いもむしは一人ぼっちだった。
生まれたとき、ママの姿はなかった。
周りにはただ風と木の葉のざわめきがあるだけ。
冷たくなっていく世界
毎日、空は少しずつ暗く、冷たくなっていった。
いもむしの小さな体は寒さに震え、何かに包まれたいと願うようになった。けれど、ママはまだ帰ってこない。
いもむしは、近くにいる虫たちに尋ねてみた。
「ママはどこに行ったの?」と。
だけど、誰も答えてくれなかった。
むしろ、みんなそれぞれに冬を迎える準備で忙しそうだった。
彼はますます孤独を感じた。
ある日、いもむしは木の上に住んでいる年老いたカエルに聞いてみた。
「ママを見なかった?」
カエルはしわがれた声で答えた。
「ああ、お前のママは蝶々だったのかい?もしそうなら、残念だが…。
お前のママは…蜘蛛の巣に引っかかってしまったんだ。」
いもむしは驚きと悲しみに包まれた。
「ママが…蜘蛛の巣に?」
その事実を受け入れるのが、辛かった。
しかし、いもむしは心のどこかで感じていた。
ママはもう帰ってこられない。
一人では生きられない
いもむしは木の枝にしがみつき、泣き続けた。
「ママ…どうして僕を置いていったの?」
寒さが彼の体に染み込み、食べる葉っぱも少なくなってきた。
周りは冬の気配が近づいている。
「僕は一人じゃ生きられないんだ…。寒いよ、ママ。」
いもむしの心は折れそうだった。
ママのいない世界で、どうやってこれから生きていけばいいのか
わからなかった。
彼は小さな体で精一杯耐えながら、ただ寒さと孤独に打ちひしがれていた。
ママが教えてくれたこと
その夜、いもむしは夢を見た。
暖かい日差しの中で、蝶々のママが微笑んでいる姿が見えた。
ママは優しく囁いた。
「小さな愛しいぼうや、あなたは一人じゃないのよ。私の力が、あなたの中にあるから。だから強く生きて。いつか、あなたも美しい姿で空を舞うことができるわ。」
その言葉に、いもむしは少しだけ心が軽くなった。
そして、目を覚ましたとき、彼は決意した。
ママの力を信じて、頑張るしかないんだ、と。
最後の葉っぱ
いもむしは残された葉を一枚一枚食べ、少しずつ大きくなっていった。
そして、とうとう最後の葉っぱがなくなった日、彼は自分で小さな巣を作り始めた。
寒さはますます厳しくなり、彼の体は次第に動かなくなってきたが、それでも頑張った。
やがて、いもむしは自分の作った巣の中に包まれ、静かに眠りに入った。
外の寒風が吹きすさぶ中、彼は小さな希望を胸に抱いていた。
いつか、自分も美しい蝶になって、ママのように空を舞う日が来るのだ!
新しい季節への希望
冬が深まる中、木々は全ての葉を落とし、森は白く覆われた。
そして、その中でいもむしは静かに眠っていた。
けれど、彼の中には確かにママの教えが息づいていた。
たとえもうママがいなくても、その力は彼の中に生きている。
春が来れば、また新しい命が動き出す。
そのとき、いもむしはママの教えを胸に、美しい蝶となり、広い空へと羽ばたいていくのだろう。