[AOF]第七話 ミッション⑤~先住者との交流とエル暗殺作戦
第七話 ミッション⑤~先住者との交流とエル暗殺作戦
日本国民
ついに彼らは大規模な移住を開始したね。
村長、でもまだ百人程度です。
それは、我々とあんまり変わらないな。
確かに我々の人口は百人くらいだよな。追加でなかなか来ないですね。我々は見捨てられたのでしょうか?
完全に見捨てられたな。結局、赤蟻は使われなかったな。建築資材にされてしまった。
動かし方が分からなかったのでしょう。仕方ないです。
まあ、我々も使えなかったしなぁ。
☆☆☆
旧暗殺部隊
砂漠は夜の方が涼しいので昼間は休んで夜動く。こう言う感じのサイクルになっている。
エル暗殺部隊改めエルファンクラブは緑地と砂漠を行き来する生活を行っていた。
森の中の方が食料を狩るのに充実していた。
P990の弾丸が尽きたら不安なので弓や槍などを作って狩りをした。しかしながら弾は結構余っている。これだけあれば戦争もできそうだ。
肉食植物が多いと聞いていたが森の中にはそういったものは逆にいなかった。
植物を食べる動物、『鹿モドキ』と名前を付けたがP990なら一発で仕留められるので仕留めて食べたが美味しかった。しかし、鹿モドキの内臓、特に肝臓は毒だったので食せなかった。
「ゲルグ隊長! トール氏に森は安全だと報告しましょう。」
「いや、まだこの星で一週間も過ごしてないのに安全だと言い切るのは危険だぞ。ヤン。」
「やあ、皆さん。私は日本国の佐藤です。一応外交官兼将軍兼村長です。」
「何だこいつ! 木の上から声をかけて来たぞ! 全員他にいないか索敵しろ。」ゲルグはそう警戒した。
「いや。我々はあなた方と争うつもりはないから話を聞いてくれ。」
佐藤と名乗る男は木から降りて来た。
落ち着いた雰囲気、さすが代表者だと部隊長は思った。
「お前らは何人いるんだ!」
ゲルグはそう怒鳴った。
「えっと恥ずかしながら約百人です。集落へ案内いたしますので来て頂いてもよろしいですか?」
「わが部隊は十名だが、その程度の人数なら我々だけで殲滅できてしまうが受け入れるのか?」
ゲルグは相手に舐められたら駄目だと思いつつそう言って脅した。
「隊長。日本国。私の先祖も漢字で小林と書いてコバヤシと読みます。古くは私の家も日本国だったので、多分良い奴らです。」
コバヤシが隊長を止めた。
しかし、ここに長く居る日本国は地の利がある。声をかけられた時点で木の上に潜んだ一人一人が自分たちを殺せるポジションにいた。
もめたらただでは済まなかったとゲルグは悟った。ゲルグは砂漠の部隊にこちらへ来るよう命じた。そしてトールに通信を入れた。
「トールさん。ここには日本国という百人規模の人々が大陸北部の森林地域に住んでいることが分かりました。彼らは友好関係を結びたいようです。我々は言って見れば捕虜のような状況になるかもしれません。」
これから先、すごく不安だ。ゲルグはそう思った。
『了解した。応援は出せないが、集落に着いたら相手の武装なども確認し彼らの移住歴などをうまく聞き出して報告してくれ。こういう時は基本的に和平が大事だ。場所によってはこちらがそっちへ行っていいかどうか、もしくはこちらへ招くか、戦略を立てたい。』
通信は一旦これで閉じた。
☆☆☆
開拓地
「コンキスタさーん! 先住者がいるってぇええええ!」
トールは奥のコンピュータルームから飛び出してエルを探した。
エルは屋外でミッチェンと話をしていた。
「え、先住者いたんすか? 何人?」
ミッチェンに聞かれた。ミッチェンはおしゃべりだからすぐ他の仲間に知られることだろう。
「一応百人と聞いている。ってなんでミッチェンさんはエルと話してたんですか?」
「それは、エルさんに」
「いや、それは言わないで。プライバシーって知ってる?」
「え、別にいいっすけど。いずれ皆で考えないとまずいっすよ。」
ミッチェンは慌ててエルに発言を遮られて、少し驚いていた。
「日本国という団体が来ているらしい。」
「へぇ。あの国の自治体まだあったんだ。」
エルは腕を組んで自分のあごを触っている。
「戦闘部隊の何名か、派遣してみますか? 先ほどレイ・カーターという将校が5名連れて探索に出掛けたからあと二十五名の戦闘員が使えるけれど・・・。」
「なら一応部隊長と相談しよう。ジャック・バーヤー大佐を呼んでくれ。」
警備に当たっていた部隊長のジャック・バーヤーがオフロードバイクのようなメカで駆け付けた。P990を背中に掛けている。
ジャックは髪の毛が若干後退している金髪碧眼の筋肉質な男だった。
バイクがあるなんてエルもトールも知らなかった。取り敢えず状況を説明した。
「相手の持つ兵器を確認しなければ。こちらも動けない。それより問題はレイ・カーターが率いているエル・コンキスタ暗殺部隊の方だ。」
いきなり内戦が始まるようなことをジャックが言い出した。
「どうしてそんなことが分かるんだ?」
トールの質問にジャックは率直な答えを出した。
「ゲルグの部隊はアグリッパに金で雇われた部隊、つまり傭兵だ。貨幣の価値がないこの現場では、仕事はしないと私に連絡があった。しかし、レイ・カーターは保守派が用意したエリート部隊だ。我々残った部隊より上等な兵器を持っている。精鋭ということだ。」
ジャックが言っていることは本当なのだろうか?
「我々の部隊は元々あなたの父であるアベル・コンキスタを守る守備隊。ここではエル・コンキスタを守るよう指示を受けているそして実は諜報部隊だ。」
☆☆☆
取り敢えずエルは遺跡の中での作業を監督する立場に変更となった。
遺跡の外での任務はトールが引き継いだ。
「なあジャック。アグリッパが送り込んだ刺客はそれだけなのか?」
「そうだな。トール、お前エル・コンキスタが好きだろ?」
ジャックはこちらに指をさしてそう言った。
図星だ。
「エルはアグリッパジュニアを振ってしまったので他の船内メンバーがマッチングしなかったのだろう。ネットが炎上していたなAIのいうことを聞かないから。だからエルには決められた相手がいない。お前も何度も繰り返し作られたクローン人間なんだってな。お互いに相手がいないんだから一緒になってしまったらどうなんだ?」
ジャックはトールの背中を叩いた。
なかなか力強く叩くなぁと、トールは思った。
「俺は多分エルが好きだ。」
「いいや、確実にお前はエルが好きなんだ。」
トールが静かにつぶやいたことをジャックは強めに言った。
「しかし、なぜレイ・カーターは何故敵に回ったんだ。」
それはトールからしたら当然の疑問だった。
「彼ら五人はアグリッパから家族を人質に取られているか残った家族に危害を加えると脅されている可能性がある。母船の中にも我々の仲間がいて、その件の解決に尽力している。」
☆☆☆
日本国先遣隊の案内でゲルグ隊十名は村へと入った。
戦車五台や航空機四機、ヘリ三機などこちらが持ち込めなかった武器や兵器はあるが、人数が百人では動かしきれる数ではないとゲルグは見た。ただ全員が軍人なら別だ。
どちらかと言えば数こそ正義な軍備のようだ。ゲルグは兵器の写真などをすぐさまトールやエルに送信した。
「私は日本国先遣隊代表の佐藤竜です。こちらは私の妻、佐藤恭子です。」
子供の姿もちらほらと見える。
この森で長く暮らしてきたらしい。
「すごい。」
ゲルグは素直にそう思った。ここの場所には子供の数も含めて約百人しかいないということが分かった。しかし、この村の建物はテントだけ作った自分たちの居場所と比べると。ちゃんと家が建てられていた。
住み心地は良さそうなのに何故、人員が追加されないのだろう。ゲルグはそう疑問を持った。
「いや。我々は先遣隊と言っても犯罪者の集まりですから、船の中で要らなくなった戦車や航空機、戦闘機、輸送ヘリ他、兵器はあるんですがね。それも用済みだからあるのです。」
「犯罪者、どういうことですか?」
犯罪者だと聞いてもゲルグは彼らと戦うことに気が引けた。子供が多いからだ。
「我々は思想犯罪者なのです。国の方針で独立や自立しようと考えを持つことが禁止されていた中で、独立したいと考えた事が国のAIにバレて最初に男女合わせて五十人がここへ降ろされ、暮らすことになったのです。」
それで、子供が生まれて百人の村が出来上がったということが分かった。
☆☆☆
トールにゲルグから連絡があった。
写真で見ると、旧世紀時代的な兵器がたくさんあるようだ。しかし、戦車で砲撃されたりするとこちらもただでは済まない状況だということも分かった。ただ、航空機は欲しいとトールは思った。
次の追加部隊は千人にしようと思っていたトールだったが、彼らとの合流、物資の交換などは必要だろう。特に家。家は建てたいと考えていた。彼らの技術も資源も役に立つかもしれない。
いや、そんなことよりエルはどうしよう。彼らが持ち出した兵器の威力もジャックから聞いている。どうしよう。あーあどうしよう。トールはため息をついた。
エルは取り敢えずほっといてもこの遺跡の中に居れば良いだろうと言っていた。
困ったな。本当に。頭がごちゃごちゃして来た。
トールの通信機は全員とつながるようになっている。取り敢えず。まず取り敢えずだ。
「もしもし、レイ・カーターさんですか?」
『はい。トールさんから連絡があるとは、じゃあもう我々のエル・コンキスタ暗殺計画は聞いていますよね。ジャック・バーヤーから。ジャック・バーヤーが本当はエル・コンキスタを狙っているんですよ。ジャック・バーヤーその他、戦闘部隊はみんな狙っているんですよ。』
レイ・カーターは心理的にこちらを揺さぶって来た。こいつが本当にエルを狙っているかも知れないのか、ジャック・バーヤーは信じるべき相手ではないのか。本当のところはどうなんだろう。
『もう切りますよ。眠いんで。』
レイは中継を切ろうとしてきた。
「ちょっと待て。待ってくれよ。」
トールは必死に考えた。こんなことを言うレイ・カーターはジャックとの協力関係にある自分とジャックを切り離そうとしている。これは『離間の計』ともとれる。ますます怪しいと思った。どうすれば、どうすればエルは助けられるんだ。ああ、どうすれば。
「すまないが明日。遠征の成果があったらこっちへ戻ってきてくれ。」
『分かりました。ジャック・バーヤーがその場にいないことを確認出来たら戻ってもいいです。』
「分かった。じゃあそれで頼む。しかし、ジャックがいないことはどうすれば証明できる。信用する?」
『ジャックが何らかの理由で死んでいれば信用します。』
「そう言われてもジャックを殺すのは無理だ。ちょうど、日本国の生き残りのところへ行かせようと思っているがそれでいいか? お前らの家族はアグリッパに人質にされているのか?」
『ジャックがそう言ったのか?』
何故か電話口の戸惑っているようだ。
「そうだ。ジャックは確かにそう言っていた。お前たちのことを心配していたし、お前たちの家族の救出作戦を母船でアベル・コンキスタ氏としていると聞いている。彼らは諜報部隊だと言っていた。」
『そう・・・ですか。いずれにしてもあいつがいない環境で無ければ我々は行けません。アグリッパに家族を人質にされているのは事実です。だから我々は、エル・コンキスタを殺し、それを証明するためにジャック・バーヤーも殺すことが任務なのです。でもこちらではどうにもできない。でも、そちらならどうにでもなることがありますよね。』
「え? 何を言ってる・・・。暗殺者だということを認めるのか?」
どうにもならないけれどどうにでもなること・・・。なんだそれ。
『いいえ。我々は暗殺者ではありません。食料の調達を行い、帰還しますのでよろしくお願いします。ジャック・バーヤーを殺してください。分かりましたね。エル・コンキスタも殺しにもどりますから。』
通信はこれで終わった。
アグリッパ・・・あいつさえいなければ・・・。
ジャック・バーヤーの母船の部下、彼らは人質に取られた彼らの家族を救えるのだろうか・・・。ジャック・バーヤー、母船の部下にはアグリッパを暗殺して欲しい。
アグリッパ・・・あいつさえいなければ・・・。
アグリッパ・・・あいつさえいなければ・・・。
アグリッパ・・・あいつさえいなければ・・・。
エルも・・・ここにいなければ・・・。
いなければ・・・。
誰もいなければ・・・。
いなければ?
いなければ!
「どうしたんです? トールさん。」
エルが話しかけて来た。
トールは一瞬戸惑ったが今の話を冷静にすることにした。
「レイ・カーターがエル・・・君を狙っているんだ。」
「知っていますよ。ジャックさんから聞いています。あの場で殺されなくて良かったです。」
「ごめん。エル・コンキスタ。君はレイ・カーターから殺されることになる。俺には止められそうにない。ジャック・バーヤーにも死んでもらう。」
☆☆☆
自治体評議会への緊急連絡が届いた。
『レイ・カーターがジャック・バーヤー大佐とエル・コンキスタを殺害しました。レイ・カーターは取り押さえることが危険だったためその場で射殺されました。』
トールの泣きながらの知らせと共にその陰惨な状況が報告された。
母船内は不穏な空気が漂っていた。アベル・コンキスタは涙を流して娘の死を悼んでいる。その様子にアグリッパ・スリッパは笑いを堪えていた。
レイ・カーターも死亡していればもはや誰の差し金かも、アグリッパだとみんな思っていても証言しないだろう。レイ・カーターの遺族も、何も言えないだろう。言ったら子供を殺すと脅せば大丈夫だ。
アグリッパはアベルに最大のダメージを与えられたとほくそ笑んだ。
『それで、本題なのですが。エル・コンキスタ氏、ジャック・バーヤー氏、レイ・カーター氏の葬儀のためというのもあるのですが、今、日本国の自治体は百人しかいないのですが、戦闘状態に入りかねない状況もあるので我々には数の利が必要です。追加の開拓要員とこちらへ移住して来た者たちの家族、合わせて二百人。医療系、保育系の人材も必要です。家族の子供もそうですが十五才以上の子供の移住もお願いします。自動車やロードローラー、航空機。ドローン。建築用の重機なども送っていただけると助かります。材料や資材、食料を現地調達できる目途は立ちました。また、シュナイダー用の園芸装備と、戦闘用装備は送ってください。レーザーキャノン付きのシュナイダーが欲しいです。』
トール・バミューダからの事務的な報告と支援要請が終わった。
「アベル殿、娘さん。亡くなったのですね。お悔み申し上げます。やはり惑星開発は難しいものですね。」
思わずぶん殴りたくなったアベルはアグリッパの胸倉を掴んで言った。
「貴様が謀殺したんだろ! 罪を認めろ!」
しかし証拠はないとアグリッパは思っている。
「いいえ? 私は何もしてないですよ。それより良いんですか?現地の葬儀に行かなくて。」
「俺は評議員だ。今は必要な資材と人材を彼らに送ることが先決だ。私情に流されている場合ではないのだよ。アグリッパ。」
そういうとアベルはアグリッパの胸倉を掴むのをやめた。
☆☆☆
数時間前
「レイ・カーターがエル・・・君を狙っているんだ。」
「知っていますよ。ジャックさんから聞いています。あの場で殺されなくて良かったです。」
「ごめん。エル・コンキスタ。君はレイ・カーターから殺されることになる。俺には止められそうにない。ジャック・バーヤーにも死んでもらう。」
トールは少し笑いながらそう言いだした。
「何をニヤニヤしているんですか? え? 私死ぬんでしょ?」
エルは少し深刻そうにそう答えた。
「俺はな。エルさん。誰にもこの開拓で死んで欲しくはないんだ。せっかく上手く行きそうなのに。俺が死ねばいいと思うのはアグリッパだけだ。ただ・・・よく考えたら、この星は中に入らない限り密室と変わらないじゃないかということに気が付いたんだ。」
「どういうことですか?」
エルは首を少し横にかしげた。
「エルもジャックもレイも死んだことにしちゃってさ。皆で口裏合わせちゃえば三人くらい死んでもバレない。いけるぞ。これなら。ついでに次の人材の要請は二百人規模で最初の百人の家族もつれて来るという約束にしたから、アベル氏が動いてくれるはずだ。アグリッパに人質にされる人を減らせるだろう。何よりエル、ジャック、レイという邪魔者や知っている奴が死んだとアグリッパに信じさせれば惑星開拓もより順調に行けるかも知れないぞ。」
トールはそういう答えを出してくれた。しかし父は許すだろうかとエルは思った。
ジャックにも同じ話をとおし、レイ・カーターその他全員に同じ話をしなければならない。大規模な通信で話すと敵に知られてしまうかも知れないということで、トールはエンジニアのマークを呼んで秘匿回線で話せるよう準備した。
トールは各代表と話をつけることにした。
『こちら、ジャック・バーヤー。トール氏、俺に連絡とは何の用だ?』
まずは当事者たちに作戦を連絡した。
『なんて雑な作戦なんだ。でも、俺もそれしかないと思っていたところだ。細かい打ち合わせはこちらとレイ・カーターとで策謀することにする。戦闘部隊には俺から説明しておく。一応、俺とエルは葬儀を行い。その様子は中継しよう一応エル・コンキスタは評議員の娘だ。葬儀では目から脳に弾丸が命中したことにして眼帯をつけさせよう。レイは簡易的な葬儀としよう。この星の初の犯罪者だからな。あまり丁寧にはすべきではないだろう。』
後は急いで口封じしなければならない。
『こちら、ミッチェンです。トールさん何の用ですか?』
ミッチェンにも同じ内容のことを説明した。
『了解です。農耕部隊もだんまりするように指示します。』
ミッチェンの了解も取った。
後はエンジニア部隊のマークにも念を押して置いた。あとは母船のアベルと連絡を取るだけだ。秘匿通信でアベルに連絡を取った。
『誰だ。非通知の電話なんてかけて来たのは。』
「アベル・コンキスタ様の電話で合っていますよね。私はトール・バミューダです。」
アベルの最初の一言は結構横柄で怖いなあと思いつつ名乗ってみたらそういう態度が変わった。
『トール君か。何だ一体?』
「単刀直入に言います。エル・コンキスタ嬢の命を狙う暗殺者の情報を掴みました。あなたの娘さんが明日、殺されます。」
トールは冷静にアベルに状況を説明した。
『それは本当か? その情報を掴んでいても、俺はエルを助けられない。情報を掴んで連絡して来たということは何かしらの対応策があるというのか?』
「あります。この星は入らなければ密室と同じです。全員でエル・コンキスタ、ジャック・バーヤー、レイ・カーターは死んだことにします。そうすればアグリッパは喜ぶでしょう。」
『なるほど。良い考えだ。詳細はジャック・バーヤーと相談して詰めておいてくれ。』
アベルは落ち着いてそう答えた。
「ついで、船内に残っているここに移住して来た者たちの家族はアグリッパの人質になりやすいと思われます。なるべく全員船内からこちらへ脱出して頂けたらと思います。労働力も足りないし、働ける人口を少しでも穴が無いように人口比率を調整していく必要がありますので、これからは子供も送り込んでください。」
『分かった。評議員の力でごり押しで移住を進めて行こう。』
「あと私事のお願いがあるのですが・・・この件が落ち着いたらエルさんを僕の妻にください。」
トールは電話越しではあったが頭を下げてお願いした。
『事件が終われば娘は死んだことになるのだろう・・・ならばよかろう。エルの気持ち次第で良ければ構わない。ファミリーネームもコンキスタを名乗るのは目立つ。エル・バミューダとして生きていく方が良いかも知れない。その代わり事件をしっかり終えてくれ。俺は君たち移住部隊に期待している。がんばれよ。若者よ!』
アベルは電話越しに前向きにそう言ってきた。トールはアベルの期待を感じた。よし、やるぞ。トールはガッツポーズをした。
「そういうことだから、エル。俺と結婚してくれ!」
「順番逆だと思います・・・。でもそういうところがトールさんらしくて可愛いですね。ちょっと古風な感じで言いますが、不束者ですがよろしくお願いします。」
エルは少し顔を赤らめてそう返事を返した。
☆☆☆
日本国の世捨て人たちにも連絡が伝わった。
「分かりました。エル氏もジャック氏もレイ氏もあったことがないが死んだことにするんだな。分かりました。」
彼らにも口をつぐんでもらわなければならないし、争えない。
しかし、交易を取るため、道を作らなければならない。と、トールも思っていた。ゲルグの部隊も道作りが始まれば駆り出されることになっている。
「ここはどういった土地柄なんですか? 何年こちらにいるんですか?」
ゲルグはここに住んでいる年長者に聞いた。
「ここは緑地帯なんだけれどほとんどの植物が食べるのに適さない毒草ばかりなんだ。だから小さい昆虫は結構いるがでかいのはいないな。そこの畑で、白菜とかレタスとか葉物野菜をメインに作っているし、田で稲を育てていたり、小麦も作っている。農産物には困らないな。何でも作れる。害獣の鹿っぽい生き物はタンパク質がたくさん取れるから狩りもしている。毒草に囲まれた地域だから、葉物野菜を作ってもそれを食う昆虫類やなんかはまぁまぁいる。大体来てから十年くらいは立ったかな。人数がもっといたら更に広々と田畑が作れるだろうが。何分我々は補給がない。ちょっと助けて欲しいくらいだ。」
「でかい昆虫・・・嫌な予感がするんだが砂漠地帯で発見された赤い蟻もいるのか?」
「まぁなぁ。以前来た人々は奴らをコントロールしようとしていたようだが。あれは抜け殻だからな。あれより一回り以上サイズが大きい蟻が砂漠にはいるだろうな。集団で千匹くらいで何組いるか分からんが、ここら辺は毒草だと分かっているからなのか奴らの攻撃はないが、砂漠はちょっと危ないかもしれない。」
毒草を持ち帰って周辺を覆うか引越しした方が良いかも知れないとゲルグは思った。
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