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[AOF]第二話 ミッション①~水を手に入れろ!

 前回までの Age of frontier No,122 は
 人々は宇宙船で旅をしている。その旅の目的は地球人が住める星を探す旅だ。開発公社企画課のトールと市役所産業建設課職員エルは二人きりで人間が住める星でのミッションに挑んでいる。
 本当は来たくなかったクローン人間で何度も死んで来たトールという厭世的な男と、ここを探査するやる気があるエルという楽観的な美女がNo.122に着陸し、探査を開始した。探査前はトールはパワハラ気味にエルに八つ当たりし、ここの探査を拒否しようとしていたが結局二人で行くことになった。
 モンスターに襲われて何もできずに死亡しそうだったトールをエルが自前の銃で助けたことで、二人の関係は少しずつ変化していく。

第二話 ミッション①~水を手に入れろ!

 物資の補給に関するミッションは長距離の移動しかなかったが、ミッションは続く。
 そこで終わりではない。
 次のミッションは水辺を探し、ろ過して飲むという人体実験と、この星の生き物を調理して食べるといういずれも人体実験である。
「大丈夫です。私、料理が得意なんです。」
 ・・・いい笑顔だな。しかし、いくら料理が得意でも・・・そもそも食べられるかどうか・・・。それが問題だ。
 しかし、いずれにせよ先に食べさせられるのではある。一応逆関節式二足歩行型トラクター『シュナイダー』には毒素があるかどうかをチェックする機能もあるが未知の毒ということもありうる。
 物資は前回のミッションで調達したため、食料に関してはしばらく問題ないが、住むところが無い。宇宙船が降り立ったのはこの星の生態系が分からないため、砂漠の中心なら安全であろうということで、そもそも居住空間は無いし、帰りの燃料も無いのだ。
 だからそれも作って行かなければならない。
 必要な資材は適切な場所を探し、そこから信号を送り、そこに送ってもらい、基地を建設する手はずになっている。
 水辺の探索ミッション・・・調査衛星からは捕らえきれないからといって闇雲に歩き回り探索するというものでもない。シュナイダー・・・逆関節式二足歩行型トラクターは歩くことでさまざまな情報を収集しながら自動的に地図を作製している。こうして衛星から捕らえきれない情報を収集するのだ。
 ちなみにシュナイダーは工具を装着することで農耕を行なうことも可能な便利な乗り物なのだ。
「シュナイダー・・・音響探査モード。」
「スタンドバイ。オンキョウタンサモード。マスター」
 水を含む地下資源の探索もこれ一台だ。
「ださっ・・・。」
 小さな声でそう言ったエルの言葉をトールは聞き逃さなかった。
「ださいだと? ださいと言ったのか小娘! 貴様はシュナイダーの素晴らしさを何も分かっちゃいない!」
 太陽電池と小型原子炉を動力とし、この星の過酷な環境に耐える素晴らしいマシーンの良さをエルは分かっていないとトールは思ったが。いちいち格好をつけて機械に音声操作で指示をだしていて機械に自分のことをマスターと呼ばせてしまうことが格好悪いと思うエルにも一理はあった。
 地下の水脈を辿り出口は海へ、入り口は山へと繋がっていると思われる。
 そのことを踏まえてどちらへ行くことが利口か・・・。
 トールが腕を組み、あごに手を当てて考えていると、エルはL字型の金属棒を両手に持った。
「何をするつもりなんだ?」
「ダウジングです。迷った時はこれです。」
「馬鹿か。そんなまじないみたいなことで水辺に辿り着けるとでも思っているのか?」
「冗談ですよ。何をムキになっているのですか?」
運というものに人生を任せてもうまく行った試しがないトールはそういうオカルト的な発想は好きではなかったため、その方法で水辺を探すことは却下した。
トールは運を信じていないその割にはパチンコが好きだ。
 二人はとにかくシュナイダーが作った地下水脈の地図を頼りに歩きだした。
 出来るなら淡水の湖を探す必要があるため、上流を目指すことになった。
 相変わらず、エルは徒歩だ。
 日光が容赦なく照り付ける過酷な環境だ。肌に汗が付きべとつき、そこに風で舞う埃や砂がまとわりついて気持ちが悪い。
 特にエルは薄着だ。
 トールが目のやり場に困ってしまうような恰好である。察するに砂ほこりの気持ち悪さは彼女の方がすごいだろうとトールは思った。
 しかし、あえて何も言わない。
 見通しが立たないのでは駄目だと思い、双眼鏡で周囲を見渡してみる。
 水がありそうな森などは見当たらない。
「なあ。小役人・・・訊きたいことがあるんだがいいか?」
 トールが口を開いた。
「私のことをそうやって馬鹿にするのはやめてもらえませんか? 私はエル・コンキスタというちゃんとした名前があるのです。」
「すまない。名前で呼ぶのは照れ臭いから代名詞で呼びたいのだが丁度いいものが思いつかなくてな。」
「馬鹿じゃないのか。『あなたは』とか『さん』をつけて呼べばいいでしょう? トール・バミューダさん。」
 口を開くと喧嘩になってしまうような二人だった。昨日、猛獣からトールを救った事で若干立場が変わっている。
「すまなかったよ。エル・コンキスタさん。ところで訊きたいことがあるんだがいいかい?」
「ええ。何ですか?」
 ここで聞く質問を間違ってはならない。
 例えば彼氏はいるのか? 他にも質量(体重)やスリーサイズなどは訊けない。
 宇宙船のルールで、AIが産まれた時から結婚相手は決められている。だからその質問に意味はない。それより重要なことがある。
「この星には植物はあるのか?」
 予想を裏切る普通の質問だった。
「植物・・・地球では酸素を作る細胞を持っている生物ですね。まったく同じものは厳密に言えばいないですが近いものはいるようです。それにこの星なら我々が持ち込んだ植物も生息できるはずです。この話は打ち合わせでもしましたよ?」
 エルはそう答えた。
 酸素を作り、根を生やして生きる生物がいるのならばこの星には住むことが出来る。
「不思議なものだな・・・。」
「何がです?」
「人間という生き物も本来この星になければこの星にとっては異物。本来なら住めるはずがないだろう。こうやって宇宙服も無しに生きられる空間があるという事が不思議だとふと思ったんだ。」
 エルはトールの言っている意味がよくつかめず、首を傾げた。
 人類が地球という星を捨てて以降、宇宙船が新しい人類の住処だった。
 そこには作られた空気と作られた環境があり、それはいつ小さな小惑星と当たって壊れるか分からないくらい・・・快適すぎるが綱渡りと同じくらい不安定な空間だった。
 だからこそ、第二の故郷となる星を人類は求めて旅をしている。
 今は、水を求めている。
 
「うーん。参った。」
「どうしました?」
 かれこれ数時間も歩いているがなかなか水辺が見当たらない。
 植物の生い茂る森があればそこには必ず水もあると踏んでいたトールだったがそれが見つからない。
 おそらく半径三十キロ以上の範囲には無いようだ。しかしこの真下に水脈の途切れた場所がある。
 昨日、十キロメートルの移動に四時間も費やした。
 水脈の調査も途中で途切れた。
 おそらく地下に大きな水たまりがあり、そこから先に流れていないか、そこから湧き出ているのだ。
 トールは状況をエルに説明した。
 水脈が途切れたということはここに穴を掘ると、水が出て来る可能性がある。
 それも大量に・・・。
「どう思う。コンキスタさん。」
 水脈が途切れたのであればここに穴を掘り、ベースキャンプをここに設置するしかない。
「私が思うところだとここから離れた方がいいと思いますが・・・。」
「どうしてそう思う?」
「見て・・・足跡がここで途切れているのです。」
 自分たちの足跡が途切れているのであれば分かるが、周りを見渡すと確かに他の動物の足跡が円を描くようにここで途切れている。
 まるで突然ここから消えたかのように。
 しかも消えたのはかなり大きな生物の足跡だ。
 トールはシュナイダーが作り出す画面ばかり見ていて周りが見えていなかった。
 もし、ここで巨大生物に襲われたら確実に死ぬ。
「私、小さい頃に見た地球の資料映像で聞いたことがあるんです。象という生き物は水を求めて何百キロ以上もの道のりを旅するって。しかも水の匂いを頼りに進むことができると・・・トール・バミューダさんもそれを知っててここまで来たのでは?」
 そんなことは考えてもいなかった。シュナイダーにはある程度この星のマップが登録されているが、詳細はここで調査していく。
 確かに。合理的に水を探すなら植物よりも動物の足跡を追った方が手っ取り早い。
 ・・・例えば昨日襲ってきた四つ目虎の後を追った方がもしかしたら効率よく水を見つけられたかも知れない。いや、あいつを追いかけるのは自殺行為で無理だった。
 
突然、地面から槍のような植物が芽を出した。
 
竹みたいな植物だ。
 あと数センチ伸びる位置がずれていたら確実に死ぬ勢いだ。
「ワーニング。ワーニング。」
 シュナイダーから警報音が鳴り始める。
 エルは素早く走り出した。その場から一目散に逃げる。
 トールも一瞬出遅れたがシュナイダーを操作して走り出した。
 地面から飛び出す竹やりのようなものが二人を追いかける。
明らかに意思を持った何かが二人を殺そうとしている。
約五百メートル。
全力で走ってようやく二人は逃げ切ることに成功した。
 二人とも話す余裕もなく無言で逃げた。
振り返ると竹でできたオアシスが出来ている。中央部には湖も見える。
 決して足を踏み入れてはいけない楽園。
 もはや戦うという話ではない規模の森が目の前に広がっていた。
 
 そうして一日が過ぎて夜の一日が来た。
 印象として、このオアシスは生きているというイメージだ。
 実際、動物が食われてこれの養分となってしまっているかどうかまでは分からないが、あの勢いで出て来てオアシスから外に出るとピンポイントでエルとトールを追いかけてきたことから考えるとこれは巨大な肉食植物なのだ。
 二人は交代で森を観察することにした。
 昼の暑い時間には森は湖と一緒に地面に沈んでしまう。夜中と明け方に生える生物だということがわかった。
 幸いまだ宇宙船からの水も食料もある。
 エルは先に眠った。今日も過酷な一日だった。
 昼間二十四時間活動するのは単純に人間にはキツイ。なおかつこの重力下ではなおさらだ。今は柔らかそうなエルの身体もそのうちガチガチのボディビルダーみたいな肉体に変わってしまうかも知れない。
 トールにとってどうでも良いことだった。
 早くゆっくりと休める拠点を作らなければならないと疲れて眠っているエルの寝顔をみながらトールは思った。
 
 
デス・オアシスと名付けた目の前の森を望遠鏡で観察していると、周囲から動物が集まって行くのが見えた。動物たちに見つからないようにトールは息を殺した。
 昨晩襲ってきた種類の生き物も中へと入って行く。
 葉と葉が擦れる音と動物の悲鳴が聞こえる恐怖の森。
 地面からのびる槍が突き刺さると地面に引きずりこまれていくのが観察できる。
 森を制圧するには、もちろん森に潜む敵ではなく、森そのものを制圧しなければ中央部の湖から水を手に入れることはできない。
 湖で水を飲むことは出来るらしい。
しかし動物たちはそれを飲み普通に帰る途中で槍に刺さって死んでいるので、湖の水に毒が入っているという事は無い。
しかし水欲しさに入って行って死ぬのでは・・・惜しいがここは諦めるしかないとトールは考えた。
 
☆☆☆
 
 八時間後、トールはエルを起こし、交代で眠りについた。
 夜の砂漠は放射冷却現象でとても冷える。
火を起こさなくてもシュナイダーのそばにいれば暖は取れるが、トイレも風呂も無い生活はエルのような若い女性には耐えがたいものだ。
 活動拠点を作るという考えは心の底から二人は一致していた。
「デス・オアシス・・・動かないただの森ならいい拠点になるのに・・・。」
これはエルの独り言だ。
寒さで体が震えるのか恐怖で震えるのかエルは身体が震えていた。
とにかく不気味な森だ。
 トールは既に他を探すことを考え始めていたが、エルはこの森を攻略する糸口を探していた。
 大人しく座って行動しないのは性に合わないエルは眠っているトールを起こさないように周囲を散策することにした。見たことのない生き物がこの星にはかなりいるという事がこのオアシスを見て分かった。
 夜の闇に光り輝く虫、獰猛そうな肉食生物。おとなしそうで大きな草食動物。草食動物なのに狂暴そうなものまでいろいろなものがいる。
 エルにとっては好奇心が刺激される環境だった。
 襲われた森の入口まで歩いて着いた。
 石を拾って中に放り込んでみる。
 何も起きない。
 どういうルールで森に襲われるのか・・・エルは探ることにした。
 この森をよく観察すると虫は住んでいる。
 虫は特に森に殺されたりはしない。
 動物は・・・ネズミのような生物を見かけるがそれは殺されない。
 殺されるのはもっぱら大型の生物のようだ。
 エルは少し大きめの石を拾い、森の中に投げ入れてみた。
 重さが十キロぐらいの岩で、エルは投げた衝撃で肘に少し痛みを覚えた。
 何も無い地面では森は何の反応もしない。
 岩を竹にぶつける。
 すると、今度は岩が落ちた地点から突然竹が伸びて岩を砕いてしまった。
 エルは左のホルスターから衝撃波を放つ拳銃『虎』を抜いた。
 『虎』は衝撃波を連射できるタイプのマシンピストル。
 フォアグリップを立てて両手でしっかり持つことで射撃姿勢を保持すれば、正確に連続射撃を行う事も出来、ある程度の狙撃も可能だ。
何度か威力を調整して通り道を探る。
 竹に衝撃波を当てるとそこをめがけて別の竹が攻撃をする・・・そういうシステムになっていることをエルは理解した。
 つまり、竹にある程度の加重がかかることでこの森は獲物を探知するのだ。
 触れないように進めば水に辿り着ける。シュナイダーは絶対に入れないというわけだが、このイライラ棒のようなものをクリアすれば人間一人くらいは入れそうだ。
 エルはそう森の仕組みを理解したところで森の中へ入って行った。
 
 エルは早速、その森の特性をトールに話すことにした。
 森を攻略できると分かると嬉しくて足取りも軽かった。
「起きて下さい! バミューダさん!」
「何だ? やけに元気だな。まだ暗いぞ?」
 眠い目を擦るトールだがすでに眠ってから八時間は経っているから眠り過ぎなくらいではある。
 夜も二十四時間近くあるからあと八時間は眠っていられる。
 エルはもうすでに森の中央部まで侵入し水を汲んで帰ってきたところだった。
「見て下さいこれ。」
 嬉々としてエルは水筒を出した。
「何だ? 水? 飲めってことか?」
 トールが水筒に口をつけて飲もうとするのでエルは彼の頭を叩いて止めた。
 乾いた音が響きわたる。
「バカ! まずは水質調査が先です。ろ過も必要でしょう!」
「は? 何を言っているんだ?」
「聞いてください。実は私・・・。」
 エルがトールに事情を説明しようとした時、水筒が破裂した。
「何これ? え?」
 トールが寝ぼけている。エルもいきなりの事で驚いた様子だ。
 往復二時間、緊張しながら歩いてようやく手にした水が爆発するとはエルも思っていなかった。この状況に目が覚めているはずのエルにもついていけなかった。
「何だ? お前・・・おでこに赤いニキビ? が光っているんだが?」
「何を言っているんです? ニキビなんてない・・・はず・・・。」
 苦労して手に入れたせっかくの水が爆発して泣き出しそうなエルは思わず屈む。
「ワーニング! ワーニング!」
 突然、シュナイダーが騒ぎ出した。
 蚊がなくほどの小さな音だがエルの耳元を何かが通り過ぎるのが分かった。
「どうしたシュナイダー!」
「半径五百メートル以内、西カラノ銃撃ヲ探知シマシタ。火薬、モシクハレールガンヲ使用シテイルト思ワレマス。マスター逃ゲテ・・・」
 シュナイダーに弾丸が命中したらしい。シュナイダーのボディに穴が開いていた。
「走って!」
 エルはトールを無理に立たせて森へ向かって走った。
 二度目の銃撃でエルは敵の姿をはっきりと目で捕らえていた。
 
 
 トールは良く分からない汗で手が濡れていることも含めてエルが森へと走って行くことが分からなかった。
 あの水が森の中央部から持って来たものだという事も知らない。
「敵はスナイパーのようです。銃はP990。ブルパップ方式のサブマシンガン・・・実弾銃です。レーザーサイトとスコープのついた銃でこちらを狙っていました。」
「サブマシンガンだと? そんなもので? 狙っているのか? まじか? ていうか、銃声で何か分かるような訓練してるのか?」
「うるさい! さっさと逃げるのです。」
トールには珍しくエルがすごく苛立っているように見受けられた。五百メートル先から狙われているのにそんなものが見えるとは目が良いなんてものではないぞとトールは思った。
「私は視力を遺伝子操作で強化されているんで見えました。銃声も学習してます。」
 何を言っているんだろうと言う感じの顔をしているトールを見て自分のことを教えてあげた。それより森へ向かって走って行くということの考えが理解できないことの方がトールには恐ろしい。
「ここで敵を撒きましょう。森へ入ります。絶対にここに生えている竹状の植物に触れないでください。死にます!」
 エルはトールの手を離し、慎重に森の深くへと進んで行った。
「どういう事だ? エル! 説明してくれ!」
「敵のことですか? そんなの知りませんよ! 私たちを狙っているとしたら別の自治体か、同じ自治体から派遣された暗殺者です。私がコンキスタだから狙われているのかもしれません。」
 エルはそう答えた。
 トールはエルの後について歩いていく。
「森の中にもし、万が一敵が乱射して来たら・・・ごめんなさい。恐らく銃弾ではなくこの森に殺されます。」
 エルはそう言った。
 スナイパーと言っていたから無駄に撃っては来ないと踏んでいるのだろう。
 それより、森に入ってどうしていいのか分からないことの方がトールには恐ろしい。
「敵じゃない。敵はこのさいどうでも良い。森の歩き方が俺にはよく分からないんだ。」
「敵が聞いていたらまずいから静かに・・・。私の手から離れないであと竹には触れずに移動します。とにかく竹に触れなければ何も起きません。」
 小さな声でエルはそう言い、静かに森のルールをトールに説明した。
 エルには考えがあって森に入った。この地雷原の塊のような森に一人で入り、そこをすすむ術を身につけた。その信じられないほどの勇気なのか馬鹿でなかったら、今頃は銃で撃たれて死んでいただろう。
 エルが考え出した最適なルートを通り、森を進んでいく。
 追手も森へと入って来た。
 エルの考えでは敵はそこで死ぬ算段だった。
 しかし、敵は二人を見つけると容赦なく撃ってきた。
 植物に当たる度にそこを植物が攻撃する。
 思わず植物に触れそうになりながらそれでも二人は前へと進んでいく。
 エルはレーザーピストル『竜』を右のホルスターから抜いた。
「あいつ!」
 エルが激昂し、銃を構えて撃ち返す。
 これならば植物に当たっても加重をかけずにレーザー銃は貫通する。
 しかし当たらない。
「落ち着け! エル! お前はただの公務員だっただろ! そんなもの撃っても当たらないだろ!」
 トールはエルを落ち着かせようと思って良かれと思って言ったが逆効果だった。
「うるさい! バーカ!」
 エルはレーザーピストル『竜』の出力を最高値に設定し、撃ってくる方に向けて発射した。トールの目の前が閃光で一瞬眩んで見えなくなった。
 確実に撃った方の竹が無くなり敵の姿が確認できる。しかし竜の閃光は当たらなかったようだ。
 エイリアンでも殺してしまいそうな未来的な形をした銃でこちらを狙っている。
「残念だったね! もう詰みだよ! エル・コンキスタ!」
 スナイパーはどうやら若い男のようだ。五十メートル先で男がそう叫んだ。
 トールは誰なのか知らないが、エルを狙ってきたことだけは確かなようだった。
「詰んだのはあんたの方。死ねぇえ!」
 エルは『虎』を低出力で連射した。
「何やってるんだ。そんなの何の意味も無い。無駄無駄!」
 スナイパーは馬鹿にしたようにそう叫んだ。
 五十メートル先のスナイパーには衝撃波は命中しなかった。
 サブマシンガンを構えてスナイパーもまたこちらに向かって数発撃つ。
 しかし、弾丸が届く前に、既にエルが仕組んだ罠が発動した。
 衝撃波はエルがレーザーピストルで倒した竹に命中し、スナイパーの足元から無数の竹が伸び、身体を貫いたのだった。
 
二人は敵スナイパーを殺害したあと、エルが当初予定していた通りに水を採取して森を脱出した。
 エルはレーザーピストル『竜』のカートリッジを外すと、シュナイダーで充電した。
 最高出力『閃光』は一カートリッジにつき一発しか撃てないという欠点がある。
 エルとスナイパーの激戦により、森は竹だらけになってしまったので脱出には余計時間がかかった。
シュナイダーは無事だった。二人が離れた隙にシュナイダーを破壊しておけば確実に二人を仕留める事が出来ただろう。トールはシュナイダーに装備した工具、水質調査機能付ろ過装置に汲んできた水、一リットルを注ぎ込む。
「シュナイダー! チェック開始だ!」
「ハイ。喜ンデ。」
 何か返事がおかしいがおかしいと思ったのはエルだけだった。
「コレハ。ろ過スル必要ノナイウマイ酒。」
 しばらくしてシュナイダーはそう答えた。
「シュナイダーろ過せよ!」
「コレハウマイ酒。」
「シュナイダーろ過だ。」
「コレハウマイ(ry。」
 トールが命令してもシュナイダーはそう答えて聞かない。
 何か陰謀を感じたトールだった。
「良いじゃないですか。もう疲れたので飲みましょ?」
 エルはにっこりと笑ってトールにまずは一杯勧めた。
 トールが一口飲んでみると確かに口当たりの良い甘めの酒だった。
「どうやら飲めるようですね。もう一杯いかがです?」
 エルが更に勧めるのでトールはもう一杯おかわりした。
 人体実験だとは知らずに・・・本当に大丈夫と分かったところで酒に弱いエルも一杯だけこの星の自然に湧き出る酒を飲んだのだった。
 恐らくあの竹状の生物が発酵して酒になっているのだろう。本当にうまい、とトールもエルも思った。
                                       ☆彡

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