猫耳戦記 シーズン2 第十九話 どうなるシャッチョさん
こびとのぶきやのシャッチョはいきなり現れた九尾に驚いた。
「悪かったのう。キャプテンフック殿。こんな無駄な公共事業をさせてしまって。」
「いえ、おかげさまで芥子畑は無くなりました。ついでに財政破綻もしました。残っているのはこびとのぶきやへの借金、負債だけです。」
九尾は笑った。シンデレラ城はその城下町も含めてこの世界最大級の要塞となった。
「武器商人ごときが、欲をかくからそんなことになるのだろう。」九尾は続けて言った。
「お前らへのこちらの借金も棒引きする法律を作ることにしたから。」
「なんてことを・・・。」
シャッチョは戸惑った。
「我々をつぶしても新しい武器屋ができるだけではないですか? 現に北方の竜騎兵民族は別の武器屋が彼らに武器を供与している。そちらを利用するつもりでしょう。」
「まぁなぁ。武器が必要になったらそうするだろう。武器が必要なら異世界の武器屋から武器を買うから別に問題なかろうよ。」
「異世界との取引? 現実的ではないですな。」
「まぁそうだろう。」
シャッチョは拳銃を取り出して九尾を撃った。
この場にいる誰もが九尾は死んだと思っただろう。
その弾丸は会合に付き合わされているただの付き添いだと思われていた袋小路が左手でつまむようにして止めた。
「は? 何者? 銃弾を手で止めただと?」
中島のメテオストライクに比べたら銃弾など遅くて軽い。
「これが魔力を持った異世界人だ。」
袋小路は左手の平に乗せた弾丸をデコピンでシャッチョにむけて打ち出した。
「いっ痛い・・・。九尾様・・・つまり、異世界人で軍団を作ろうというのですか?」
「そうだな。それもある。もうあるのではあるがな。ま、今の射撃(デコピン)を全力でやればこの異世界人はお前を殺せただろうな。」
シャッチョにとって状況は最悪だった。
「わしはもう少しだけ利口な武器屋運営をするつもりじゃ。お前らの会社に金は払わんがお前らの従業員はわしが雇うからな。」
「そんな・・・。国が堂々と借金を踏み倒すなどと言ったら、国の貨幣価値は下がる。インフレを起こすと思いますよ。それでもやるんですか?」
「馬鹿だなぁー。そんな脅しは脅しにすらならぬ。そんな一産業を潰したくらいでそんなことにはならないだろう。お前らの巨額の資産も没収するし、武器の製造はお前らに代わって国営事業として行うのだから。」
中つ国・・・そこは基本的にはそういう国だった。民主主義を掲げていてもまだまだ九尾の独裁国家だ。
シャッチョは九尾を愚かな代表者だと馬鹿にしていた。戦争は金になる。
だから対立軸を作るためにこれまでこびとのぶきやは活動して来た。
ネバーランドが金を払わないとなるとすり寄る先は中つ国しかないが、それも無くなってしまった。まだ収入を増やしたいならあとは蓬莱へ行くか、竜騎兵民族に武器を売るしかない。しかし、そもそもシャッチョは生き残れるのだろうか・・・。
シャッチョが死んでもブッチョやシシャッチョが自分の後を継ぐから、企業としては自分が居なくても続いていく。
「私については・・・どうされるつもりでしょうか・・・。」シャッチョは身の心配をした。
「俺自身はシャッチョを殺す気はない。確かに、貴殿らが主導で人間を異世界から集めて奴隷労働させて芥子栽培をしていたことも武器を様々なところへ売ることについても黙認してきた。統治は面倒だから他のものをケルベロスなどを取り立てて来たが、お前らのことは・・・眼中になかった。それが戦争を招いてしまった。全部お前らが悪い。停戦の条件が九尾殿から出て来た。その条件の一つに俺の死と、お前らの身柄の引き渡しがある。」
「そういうことじゃ。お前らはぶっ殺すことにした。キャプテンフックは財産使いきったから異世界へ裸で追放することにしている。異世界で多少楽しんでからすぐに死ぬことになるだろう。お前らは違う。こびとのぶきやはカッチョより上の立場の者、取締役クラスはシンデレラ城で斬首の刑を科す。」
「そんな・・・何卒・・・何卒命だけは助けてください。自分や会社の資産の場所など全て洗いざらい、一切を隠さず中つ国へ報告させて頂きます。何卒、お願い致します・・・。」
シャッチョは全力で許しを請う。無慈悲な九尾には無駄かと思われる願いだったが、九尾はこう言い出した。
「おお・・・なんと殊勝な心掛けだ。ならば、お前個人の財産も含めて財産がどこにあるのか全部報告しろ。お前には一切の金を残さないつもりだ。後から見つかったら殺す。合法的で可もなく不可もない衣服に関する仕事は許可するが、お前の収入は生きて行けるだけの収入しか許さん。もしこれで儲けがどうしても出る時は全部納税してもらう。お前の収入は何をしようがわしが許す以上には与えぬ。それともう一つ、恥をかいてもらうことになる。生き地獄を味合わせてやる。」
シャッチョは何をされるのか分からない恐怖を感じていた。
〇〇〇
そのころマドンナは、メデューサと戦っていた。
この化け物を倒すか捕まえて血液を入手しなければならないからだ。
マドンナは『後光』と言う魔法で相手の目を潰し、狙いを定めさせず大量に用意した刀剣類を中つ国のある城に収められたところから空中に召喚して地面に突き刺すというどこかで見たことがある魔法でメデューサを捕らえた。石に変える目も刀剣で潰された。
そして、死なず殺さずの状態で捕縛したメデューサから毎日、血を抜き取りつつ、捨てられていた阿修羅の民を救出した。時間はかかったが、百日かけて全員を助けた。
〇〇〇
『馬鹿には見えぬ服を着たパレード』
ネバーランドの重役やこびとのぶきやの重役がシンデレラ城の城下町他、九尾の気が済むまで色々な都市で行われた。
「お母さん。なんであの人たち裸で行進しているの?」
子供はそんなことを親に聞いている。
「罪と言う名の服を着ているんだよ。」
そんな子供を見かける度に、九尾は行進を止めてそう答えてあげた。
このパレードは時間がかかった。
夏だろうが冬だろうが、全員を全裸で縄に繋がれて九尾やその部下が引っ張りまわした。
そういう過酷なことを強いたので幾人かは死んだ。
〇〇〇
「お前らが服を着ることは許さん。死ぬまで裸で過ごせ。恥で死ね。」
九尾はそう言い切った。
一通りのパレードが終わって、キャプテンフックは望み通り異世界へ裸のまま送られた。
魔力が尽きた時に、あっという間に歳を取って死ぬだろう。
そして、こびとのぶきやの重役たちは投獄されて一生服を作る作業をさせられるのだった。なぜそうなったかも誰もが忘れてもそれは変わらなかった。
了