脚本『伝 令和口裂け女』
19××年・夜道
男が夜道を歩いている
男の後ろにガーゼマスクをした女が突然現れ、「あの…すいません…」と声をかける
吉田 「はい?」
と言いながら振り返り、口裂け女の顔を見る
吉田 「ひぃ!」
口裂け「私、きれい?」
吉田 「は、はい…」
口裂け「これでも?」
といってマスクを外す
吉田 「わぁぁぁぁぁぁ!!!!」
といいながら逃げ出す
男が逃げるさまをみながら高笑いをする口裂け女
男の叫び声と口裂け女の笑い声が聞こえる中、口裂け女が様々な人を驚かせている。その中に、高校生くらいの女の子が同級生にいじめられている姿が混じる。
2020年ー緊急事態宣言発令下―
まったく人気のない街中。ターゲットを探すために、街を歩き回る口裂け女。どれだけ歩き回っても見つからず、一人立ち尽くす口裂け女。少し疲れている様子。
口裂け「こんなに人がいないとは…ここまで影響力があるのか緊急事態宣言…」
立ち尽くす口裂け女。すると向かいから女が歩いてくる
女がこちらに歩いてくること気が付いた口裂け女、目を輝かせ近づいてくるのを待つ。
ある程度近づいてきたところで、女がヘッドホンをしていることに気が付き、口裂け女は表情が曇りはじめる。女が目の前を通る直前、口裂け女は意を決して「あの…」と声をかける
気が付かない女
口裂け「あの…」
女は気が付かずに通り過ぎていく
口裂け「あ…」
女の後姿を眺める口裂け女
女とすれ違う形で、ほろ酔いな男・春日が歩いてくる
口裂け「今度はヘッドホンはしていない。よし! …あの」
気が付かない男
口裂け「あの…」
春日 「え?」
と言いながらイヤホンを外す
口裂け女は『Bluetoothだったかー!』と少し動揺するが
口裂け「私、キレイ…?」
春日 「あぁ、はい」
口裂け「これでも?」
口裂け、マスクに手を掛ける
春日 「ちょちょちょちょ、なにしてんの。まさかマスク外そうとしてたわけじゃないよね? このご時世で人を目の前にしてマスク外そうとするなんて正気か? あんたニュース見てないの? もしこれで俺が感染したら、あんたのせいだからな! 損害賠償だからな!」
と吐き捨て、去っていく。
いじめられていた時のことがフラッシュバックし呆然とする口裂け女
口裂け「帰ろ…」
○自宅
家に帰ってきた口裂けソファに腰かける
口裂け「やりにくい時代になったなぁ。昔は、マスクしてるだけでビビってたのに」
昔を思い出す口裂け女
口裂け女「あ、マスク。マスク見てくんの忘れた! まだあったっけなー」
マスクの箱の中を見るが残りはない
口裂け「やっぱり…あ、そういえば、国からマスクが届いてたような。どこにやったっけなぁ…」
部屋の中を探す
口裂け「あったあった! これさえあれば外に出れるっと…」
といいながらガーゼマスクをつけ、鏡を見る
口裂け「って、ちっさ! そーじゃん、裂けてるところ出ちゃうから使えないんだった。…でも、よく考えたら昔はコレつけてたような。馴れっていうのは怖いねぇ。ネットならマスク売ってるのかな…」
スマホで調べ始める
口裂け「たっか、5,000円のマスクなんて誰が買うんだよ。」
スマホをいじる口裂け女
口裂け「水着と同じ素材のマスク…? なんで? マスクしながら泳げるようにってこと? いや、息できなくて溺死するわ!!」
スマホをいじる口裂け女
口裂け「マスクカバー? はーマスクの上からつけるわけだ。なるほどねーこれいいじゃん! マスクが小さくても隠せるし、種類も色々あるし…あ、これかわいー!!試しに買ってみようかな…」
数日後…
テーブルの上には、マスクカバーが梱包されていた封筒
口裂け「やっちゃったー」
鏡の前に立つ口裂け女、可愛らしい花柄のマスクカバーをつけている
口裂け「完全に深夜テンションだわ…これから人を怖がらせるやつが付けるモノじゃないよなぁ…可愛いんだけど、これで外出るのはちょっと気が引けるな…」
スマホを手に取り、『マスクカバー』と入力し、新しいものを探し始める
口裂け「やっぱ、パッと見たときに恐怖を与えられるようなやつがいいよね」
数日後…
テーブルの上に、花柄のマスクカバーとマスクカバーが梱包されていた封筒
口裂け「これは…どうなの…?」
新たに届いた、中二病がかった派手なマスクをして鏡の前に立つ口裂け女
口裂け「たしかに恐ろしい感じはあるけど、中二過ぎるかな。いや、マスクに服装を合わせればワンチャン…」
マスクに合わせた服装に着替えて鏡の前に立つ口裂け女
口裂け「完全に中二病だわ。怖いけど、怖さのベクトルが違う。ただのバンギャだわ。目指してるものと違う。もう諦めて5,000円のマスク買お」
数日後
テーブルの上にはこれまでのマスクカバーとマスクの箱。散らかった部屋。ぼさぼさの髪型で昼寝をしている口裂け女。しばらく外出はしていない様子。
高校生らしき女子が同級生にいじめられている。
学校の屋上。きれいに並べられた靴と封筒。
口裂け女が見ていた夢であった。
悪夢にうなされ、飛び起きる口裂け女。焦燥した様子でマスクをつけ、外に飛び出す。
街中
辺りを見回すと、そこかしこにマスクをしている人々がいる。どこに行ってもマスクマスクマスク
口裂け「マスクだらけ…これじゃまわりと一緒だ…」
コンビニの前でへたりこんでしまう。ぶつぶつとつぶやいていると、後ろから声をかけられる。
中林 「あの、大丈夫ですか?」
口裂け「え?」
振り返ると、中世的な格好をした女性がたっている
中林 「なにかお困りですか?」
口裂け「いえ、大丈夫です…」
中林 「そんな風には見えませんけど」
口裂け「あの…私キレイ?」
中林 「え? えぇまぁ」
口裂け女マスクを外し始める
コンビニから出てきた女が「どうしたの~?」といいながら中林の腕と組む。
中林 「そこで座り込んでたから『大丈夫ですか?』って声かけたんだよ。そしたら『私キレイ?』って」
大橋 「で、何て答えたの?」
と言いながら口避け女の顔を覗き込む女
大橋 「おねーさん超キレイじゃん!」
口裂け「…」
大橋 「可愛いんだから自信持ちなって!」
口裂け「こんなに大きな口してるのに?」
大橋 「長澤まさみみたいで可愛いじゃん! いいなぁ私もそういう、あのほら、チャ、チャ?」
中林 「チャームポイント?」
大橋 「そうそれ! 欲しかったなぁ」
自分が生きてきた時代と違い、社会的マイノリティも受け入れられていることに気がつく口裂け女
大橋 「なに? どうしたの? へ!?」
徐々に体が透けていき、成仏する口裂け女
唖然として目を見張る、大橋と中林
大橋 「やば…」
終わり