新型コロナ時代想(11)・・・いよいよ3月

冬眠生活の始まり

2月末に休校宣言、北海道の緊急事態宣言と世間への強いメッセージが立て続けに出され、また有名人の感染者も報道され出した結果、もはや時代は不可逆的に動き出したように見えた。
この段階で当面の危機をやり過ごすための「冬眠生活」コロナショック後の新しい世界に想いを馳せざるをえなくなった。
冬眠生活をするためには、ドングリをため込まなければならない。すでにマスクは市場からは枯渇しており手の施し様はなかったが、とりあえず二週間程度籠城できる食糧と生活必需品を妻の抵抗を排して調達し(どうせ消費するものなので家計の貸借対照表上は全く問題ないものなのだが、目先のキャッシュフローにこだわる妻には理解できなかったようだ)、外出を控える生活様式に転換し出した。一番残念だったのは、ランニングのやり方を変えなければならなかったことである。今までは家から10〜20キロ先のショッピングモールや観光地などにジョグで行き、休息して公共交通機関で帰宅する、というのが楽しみだったのだが、感染リスクや周囲への配慮を考え、自宅発着のルートにせざるを得なかった。通勤や都内の移動なども格段に慎重に対応するようになった。

一週間の休暇取得

ストレスたっぷりの通勤生活に疲れたので、3月の中旬に一週間の休暇を取得した。会社の福利厚生で何年かに一度連続休暇が与えられているのだが、未消化だったのでコロナを機に取得することにした。本来ならどこかに旅に出て、リフレッシュしたいところなのだが(5日かけて箱根まで走る一人箱根駅伝をやりたいと思っていた)、今は状況が許さないので大人しく近所を走り回っていた。会社の方はまだ「会議は対面でないと、、、」という意見も強く、「定例会を一回試しにやってみようか?」といったいったレベルだった。後で試しにやっておいてよかった、と判明することになるのだが。

やることもないのでワイドショーの類も見ていたが、すぐに食傷してしまった。PCR検査をする、しないの宗教論争とか、オリンピックの精神だのほとんど我田引水の主張が蔓延っていて事実と意見をごちゃ混ぜにして、政府の、あるいは実際にアクションをとっている人を批判するものばかりのようだった。そして国会で質問というか演説している野党議員もその延長でしかなかった。

事実と意見を区別しよう

ここで少しだけ「事実」と「意見」について整理したい。アメリカの訴訟では当事者や関係者の持つ資料や情報をかなり徹底的に開示し合うディスカバリーという手続きがある。費用の面やその濫用などから批判はさまざまあるがこのてつのお陰で事実に近づくことができるのは確かである。そしてこの手続きで重視されているのは事実と意見の峻別である。特に関係者を尋問する証言録取という手続きにおいては素人の証人は基本的に事実のみを証言することを求められる。意見を述べていいのは一定の領域で専門的知識を持つ専門家だけである。そしてその専門家の意見の根拠となる事実とそこからの推論については尋問で厳しく吟味される。この種の手続きに仕事で永らく関わってきた私としては、事実か意見か、意見の根拠は何かについて掘り下げてしまう職業病がでてしまう。そしてワイドショーで口から泡を飛ばして叫んでいるテレビ局員は素人の意見でしかないし、新興の女王も自説を叫ぶだけで自らの存在価値を示す以上に社会に貢献しているとは思えなかった。

「復活の日」

時間はたっぷりあったので、アマゾンプライムの無料映画を片っ端から見ていた。あるとき、ニュースで「南極大陸以外の全ての大陸に感染が拡大しました」というセリフを聞いた。ん?どっかで聞いたことがあるぞ、と思い出したのが「復活の日」である。角川映画の全盛期に草刈正雄主演でジョージ・ケネディやロバート・ヴォーン、そしてオリビア・ハッセーなどの豪華メンバーを招いて作成された大作である。これもプライムのリストに載っていたので早速見てみるとほぼ今の状況が予言されていた。冷戦時代の東側で開発された生物兵器ウイルスが流出し全世界にパンデミックが広がり、南極観測隊員と一部の潜水艦乗員以外は滅亡してしまうというシュールなストーリーなのだが、最初は「イタリアかぜ」と呼ばれていたり、東京では医療崩壊が起こる状況が描写されていた。公開当時は全くの絵空事と感じていたのだが、今見るととてもリアルなストーリーだった。

日常の再開

休暇も終わり、また日常が始まった。新年度に向けてのビジネス計画の検討や社外の同業者との会合など、今まで通りの活動を少し注意をしながら進めていた。さすがに不要な会合は延期したり電話会議に変更したりしていたがきっかけがないと思い切ったことはなかなかできない。以前から20人規模の職場の飲み会が企画されていたのだが、この会合はこの状況になっても幹事役が頑として開催を譲らなかった。仕方なしに参加したのだが、この判断をすぐに後悔することになろうとは思ってもみなかった。


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