再びの緊急事態宣言
明日、1月7日に再び緊急事態宣言が一都三県に発令されることになった。別にこれは驚くべきことではない。この秋から冬にかけての弛緩した生活様式からすれば昨年の春先の「8割の接触削減」という観点からはせいぜい3割ぐらいの削減しかできていなかったように感じていた。色々な理屈を並べても実行再生産数が1を超えれば感染は拡大するのが当然なのでそこを直視しなければいけない。
レトリックの罪
「旅行自体が感染を起こすことはない」というようなことがGoToトラベルの開始・継続を正当化する文脈で語られていた。またGoToトラベルの利用者のうち感染者数は少ない、ということ言われていた。これらのコメントを受けてGoToトラベルは実行されていたわけだが、これらは非常に危険なレトリックである。おそらく政権側からの圧力を受けて発言させられた尾見氏は「旅行」という言葉に「自身」という限定をつけて自らの抵抗を示していると感じる。さらにここで使われている「旅行」と言う語はおそらく「感染対策をした移動」+「感染対策をした宿泊(含飲食)」ということを指しているのであろう。またGoToトラベルの利用者の感染者が関与した感染規模については語られていない。
似たようなレトリックとしては「子供・若者は感染しにくい/重症化しにくい」と言われる。しかし、実際には感染者に20代の若者が占めている割合は大きく、濃厚接触による家庭内感染等が起こっている。さらに通勤電車の中で誰も喋らないなか大声で会話しているのは大抵学生達であったりするし、比較的密集していることも多い。そういったことを考えると理論的な観察と現実的な観察を合わせて評価する必要がある。
今の政府はEvidence Based Policy Making (EBPM)を重視しているようだが、実際には都合のいい情報を我田引水しているに過ぎない。そして実際に起きている「不都合な事実」から目を背けているから全ての施策が後手後手に回るのである。
今回の緊急事態宣言について
昨年4月の段階と今では何が変わったのだろうか?
変わっていないもの
・ウイルス感染の構造・感染ルート
・ワクチンの入手(今のところ日本では)
・特措法の効力
変わったもの(プラス)
・医療資材(マスク・消毒用アルコール等)の入手容易性
・PCR検査・抗体検査能力
・治療方法(含、治療薬)
・テレワーク等の体制整備
変わったもの(マイナス)
・医療従事者の忍耐力
・事業者の体力
・国民のコロナ耐性(コロナ疲れ、コロナを甘くみる、正常化バイアス)
今回の緊急事態宣言の対応においてはこれらの変化を考慮に入れて精度は設計されて良いと思う。例えば一時期クラスターが発生していたカラオケにおいては、おそらく消毒等が実施されたところで一人カラオケをやっていても感染しないだろうから自粛要請は不要かもしれない(昨年の宣言時には消毒用資材の枯渇などの問題があった)。しかし、スナックでの「昼カラオケ」などは依然感染リスクが残っているので規制が必要だと思う。他方、今回の宣言においては国民の自発的な自粛効果は前回ほどは期待できないであろうから、その点についてはより強い施策が必要だと思う。
以上のような観点から、再び西浦教授の予測が議論されているのは好ましいことである。西浦教授の予測は非常にシンプルに表現されているが、その裏には精緻な理論とデータ分析がある。我々の聞きかじりの知識では評価できるものではない。今は一億総感染症評論家になっているが、この分野は専門家に任せようではないか。ただ、テレビやネットに蔓延っているエセ専門家を見抜く力を磨こうではないか。