挑戦しないのは「リスク」、恐れず女性に声をかけるキューバ人の考え方
キューバに行くと、びっくりすることのひとつに、ナンパがあります。
恋愛映画やドラマの主人公みたいなノリで、いかなる年齢層の男性も、いま会ったばかりの女性に熱烈に愛をアピールするのです。
忘れられないのは、ダンス留学していた日本人女性とハバナを歩いていたときです。モテる彼女は、すれ違うたび次々と声をかけられ、なかにはついてくる男性もいました。すると彼女はひとこと、ふたこと会話を交わしながら、上手に交わしていくのです。
「断ってもしつこかったら、こちらから道順などを聞いてみる。それで、ありがとう、さようならと言うと、それが彼らのもともとのミッションだったような錯覚になって、満足して去っていく」
そんな手があるのかと、恐れ入ったのを覚えています。おそらく心やさしい彼女は相当な回数、街で声をかけられ、上手に交わす術を得たに違いありません。
明日もずっとここで君を待っている
そもそも人なつっこい人が多くて「どこから?日本?」などと、挨拶がてら声をかけてくる人も多いキューバですが、街で女性に「かわいいね」などとほめ言葉をかける、スペイン語の「ピロポ」とよばれる文化もよくみられます。
私も、自分よりずっと若い男性に「君とは初めて会った気がしない」とうっとり見つめられて、内心ずっこけながら、つかの間のヒロイン気分を味わいました。
会ってすぐ結婚を申し込まれたり。「僕の目を見て。君が映っているよ」と真剣に口説かれたり。「明日もずっとここに立って君を待っている」と宣言されたりする日本人女性たちの話もたくさん聞いて、おもしろドラマチックではあるのですが…。
声をかけなければ可能性はゼロ
見ていると、こうした情熱的な男性たちはほとんどの場合、女性には、華麗にスルーされています。
とくにキューバ人女性の反応は素っ気ない。ちら見して無視か、視線さえも合わせない。こうしたナンパをする男性たちの心は折れないのか、少々心配になってしまいました。
あるとき、取材の通訳をしてくれていた、年配のキューバ人男性に尋ねてみました。どうして男性たちはナンパをする(し続ける)勇気があるのか。玉砕するのは怖くないのかと。
すると、以前は外交官を務めていたという、真面目で冗談もあまり言わない通訳さんが、こういったのです。
「キューバ人はこう考える。声をかければ少しでも成功の可能性はあるけれど、声をかけなければ成功の可能性はゼロになる。つまり、声をかけないのは、最大の"リスク"なんだ」
なるほど。
私だったら「チャンスがなくなる」より、「失敗して、ショックを受けたり、恥ずかしいと思ったりする」ほうがよほど大きなリスクととらえ、しりごみしてしまうようなあ、と考えてしまいました。
ナンパ、すなわち出会いということでいえば、そこで声をかけるチャンスを逃してしまえば、二度と同じ人に会えるか、わからないわけです。
失敗がこわいときに効く言葉
自分がキューバ人男性のような情熱的なナンパをするかどうかはともかく、「挑戦しないのがリスク」という考え方は、日常のこまごまとした場面でも背中を押してくれそうな感じがします。
たとえば外国語をしゃべるとき、間違って通じないと恥ずかしいから、話せない。仕事でアイデアを出そうとしても、きっと採用されないよなあと恐れて、機を逃してしまう。新しく始めたいことも、今から始めてもものにならないかなと、はなからあきらめてしまう、という具合に。
失敗をおそれるあまり、弱気の虫がさわいだら、「失敗はリスクではない。挑戦しないことこそリスクなのだ」という言葉をかみしめてみようと思います。