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iPhoneだけで映画を撮る之巻

本コラムは、ドキュメンタリー映画『劇場が終わるとき』のディレクターズノートです。 → 『劇場が終わるとき』公式サイト

Appleの公式動画はもちろん、最近では三池崇史監督のネットムービーとか、あれやこれやとiPhoneがあれば映画が撮れるなんていう宣伝は流れてくる。観れば普通の映像作品と比較しても遜色のない映像に驚かされる。でも世の中そんなに甘くない。そういった映像はiPhone以外に、様々なプロ用特機、照明、録音機材はもちろん、最高のスタッフとポスプロに囲まれており、そりゃあ凄い映像になるだろうさと、やっかみ半分で思ったりします。

貧乏映画監督の選択

『劇場が終わるとき』の撮影と録音は、普段使いのiPhone13を使用しました。付け加えるなら、DJIのジンバルは使っています。ついでに1カットだけドローンを使ったくらい。機材の選択は、手元にその機材しかなかったという理由ですが、「スマホしかないけど…」という後ろ向きな気分ではなく、「なんだスマホがあるじゃないか」という前向きな気分で始めたのはまちがいありません。サイレント映画時代のシンプルな技術だけでも傑作映像は撮れるわけですから、なんの不安もありませんでした。

好意的な結果を受けて

幸い試写を観た人からは「本当にスマホだけで撮ったの」と、好意的な評価を得られたのは一安心。今どきのiPhoneなら、照明さえ適正に当てれば、かなり高画質な映像は期待できる。もちろん撮影した本人からすれば、スマホならではのトラブルや、録音のノイズに悩まされたのは事実だし、常に適正な照明があったわけでもない。うるさいスポンサーもいないセルフプロデュース作品ゆえ、貧弱な機材でも横ヤリが入ることもない。要はおもしろい作品になれば、勝負のステージにはつけると突き進みます。

Power to the people

僕がテレビに関わりはじめたのは、ちょうどMXテレビが開局したころだった。MXテレビは当時発売されたばかりのDVカメラを報道ディレクターに渡し、一人取材&編集という手法を売りにしていた。僕らのような外注スタッフも、もちろんそんな感じで参入できた。世間的にはビデオアクティビストという勇ましい名称が流行り、ジャーナリズム、インディペンデント映画の世界は活況を呈した。この小さなカメラとパソコン、編集アプリがあれば、世界を変えられる!みたいな高揚感があったように思う。そんな時代を良くも悪くも僕は引きずっている。

忘れ難き人

この件で忘れ難い人がいる。大盛伸二さんという大先輩。琉球放送のディレクター、プロデューサーで、僕が映画監督デビューをしたころに、テレビドキュメンタリーの作り方などいろいろ教えてくれた人。大盛さんは、あちこちで「これからはスマホで番組も映画も撮れるから!」と、若者たちにハッパをかけると言うか、ムチャぶりと言うか、まあ型破りなことを言う楽しい人だった。そう言われると「だったらお前がやれよ」と心の中で突っ込みながらも、「俺が先に映画を作ってやる」と競争心を隠し持っていたのも事実。残念ながら大盛さんは2020年に亡くなられている。僕も年をとったせいか、何かを作るたびに亡くなった人の顔が幾人か浮かんでしまうのだ。そんでもって生前にしてもいない約束を、なぜか果たさなきゃないけない気分になる。たぶんモノづくりってのは、そんなことに支えられて、ずるずると続いていくのかも知れない。

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