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フジテレビ2度目の記者会見は不発    明らかになったのは、企業統治の不全

フジテレビは1月27日から28日にかけて10時間24分にもわたる記者会見を実施した。この長い長い記者会見をどう捉えたらいいのだろうか。まとめてみれば、フジは社長と会長は辞任したが、トラブルを認知した後の社内の動きや長期にわたる隠蔽とも取られかねない対応が明らかになり、結果的に同社の企業統治の不全が浮き彫りになった。言を左右にする会社側の回答に、一部の記者から怒号も飛び交い、「昭和感」満載の会見だったと言えるだろう。

会見後、新聞、テレビなど大手メディアからネットメディア、評論家、ユーチューバーまで、様々な形で評論されている。今回の記者会見は、1月17日の会見が出席者を制限し、テレビカメラも不可として非難されたため、フルオープン、カメラあり、時間制限なしで開催したことはある程度評価されても良い。もっとも、最初からこういう形でやっていれば、傷はもう少し浅かったかもしれない。

肝心の会見内容は、とても合格点をつけられるものではなかった。会長、社長の退任や新社長の就任、第三者委員会の設置などを発表したが、中居正広氏とフジテレビ関係者だったとされる女性の間にトラブルが起きた前後に、会社や社員がどう関わったかについては、曖昧なままだった。トラブルの後、週刊誌にすっぱ抜かれるまでの対応に関しては、上場企業としてもメディア企業としても首を傾げざるを得ないものだった。

全体として、この会見では、問題の解明には一向に近づかず、むしろ、フジの企業統治に大きな問題があることが浮き彫りになった。その結果、クライアント(スポンサー)がフジテレビでのCMを取りやめたりACジャパンの公共広告に差し替えたりする動きに歯止めは掛からず、フジ離れは政府や自治体にまで及んでいる。今、チャンネルをフジに合わせると、CMはほとんどがAC差し替えか自局の番宣、イベントの告知だ。

会見のポイントは5つ 深まる疑問


記者会見の内容をおさらいしてみよう。様々な質問が投げ掛けられたが、主要なポイントは次の5点だろう。
①被害を受けた女性の人権への配慮の不足などを謝罪。港浩一代表取締役社長と嘉納修治同会長が一連の問題への対応の責任をとって同日の臨時取締役会で辞任したこと、親会社フジ・メディア・ホールディングスの清水賢治専務の新社長就任を発表
②日弁連のガイドラインに基づく第三者委員会の設置を発表
③中居正広氏の女性トラブルについての社内の情報共有の不足について釈明
④中居氏と女性の間で起きたトラブルやそれに至る過程にフジテレビ社員の関与はあったのかどうかについては、トラブルのあった「その日については」関与せず、と説明
⑤日枝久取締役相談役は出席せず、直前の取締役会でも進退にも触れなかった、と説明

まず、①については、これまで、あまり触れてこなかった女性の人権について、ようやく触れ、謝罪したのは当然だろう。代表取締役である社長と会長の辞任は会社としては大きなことだが、理由は曖昧だ。

「一連の問題への対応の責任をとって」というのは何を指しているのだろう。1月17日の最初の記者会見の失敗のことか。確かに、閉鎖的な会見設定とテレビカメラの禁止、回答拒否を連発した内容には多くの視聴者が呆れ、海外投資家を「憤慨」させ、クライアントは雪崩を打ってCMをACに差し替えた。

もちろん、トラブルについてはクライアントに一切知らせていなかった。その言い訳を港氏は「唐突に番組をやめると女性のコンディションに影響が出る可能性があるので……」などとしているが、これに対し、「女性を盾にして問題を隠蔽したのではないか」という批判が1月27日の記者会見でも出ていた。
大半のクライアントは2月以降の番組提供やCM出稿を控える方針だ。両氏の辞任は、経営に大打撃となるこの経営判断失敗の「責任」をとったのかもしれない。

②の日弁連基準に沿った第三者委員会の設置は、前回の会見で、「第三者の弁護士を中心とする調査委員会」が「お手盛りの調査委員会ではないか」と批判されたため、修正したが、当初の方針は悪手だった。クライアントの間からも、あわよくば会社が調査結果とその公表についてコントロールできないか、という期待があったのでは、との批判の声が伝えられた。大手クライアントは多かれ少なかれ企業不祥事の経験を持つ。17日の会見でこの話が出た途端、「こりゃだめだ」となったことは想像に難くない。

コンプライアンス担当を避けるという決定的な愚策


③は、実は今回の記者会見でより深まった問題と言えるかもしれない。トラブルの発生は23年6月。直後に女性はフジテレビの管理職にトラブルの内容を伝えた。週刊文春によれば、話は部長、室長、局長レベルまで伝わった。だが、今回の記者会見で、港前社長は「トラブルを知ったのは、8月になってから」と明らかにした。当時、フジテレビ専務で編成担当だった関西テレビの大多亮社長は、先日の同社記者会見で、この件の報告が自分に上がった後、即日、港社長(当時)に報告したと語った。6月の発生直後に局長レベルまで上がりながら、なぜ、担当専務、社長へと伝わるまでに2カ月も掛かったのか? この謎については説明がなかった。

もっと不思議なのは、同社にあるコンプライアンス対策室にも全く情報が共有されなかったことだ。当然、コンプラアンス担当の遠藤龍之助副社長にも情報は上がらず、本件を知ったのは「(24年)12月中旬に文春さんが自宅にやってきて初めて聞いた」という体たらくだ。この点について、港前社長は「女性を刺激しないため、情報を知る人数を少なくした」と釈明した。しかし、会社にとって重大な危機的状況に、法律や危機管理、今回の場合なら医学面での知見も生かして対処するのがコンプライアンス担当ではないか。港氏以下の少数の関係者でこうした知見を持った人がいたとは思えないが、港氏らは自分たちだけで対処しようとした。

不可解なのは、その後も1年半にわたってレギュラー番組に出演させ続け、それ
だけではなく、いくつかのスポーツ特番にも起用している点だ。これについて、港氏は、「女性は当初、他社にも知られることなく仕事に復帰したいと希望していたので、番組終了で刺激しないほうがいいと判断した」「スポーツ局にはこの問題が共有されていたなかったので……」などと釈明した。その後、女性とはろくに接触できておらず、意思の確認もしないまま1年半も経ってしまった。24年の秋には、女性のコンディションが改善したこともあり、「番組終了を模索していた」としていたが、誰がどのように検討していたのか、どんな機関決定があったのかは、全く不明だ。外からみれば、一連のフジテレビの動きは、不祥事を隠蔽しようとしたと言われても仕方がないものだった。

フジテレビのコンプライアンス対策室というのは、肝心の大問題はスルーされる、そういう存在なのだろうか。記者会見の中継を見ていたクライアントの宣伝・広告担当者の多くは、1年半も中居氏を出演させ続けたことへの港氏の苦しい釈明を聞き、コンプラ室を無視した事実を知った段階でレッドカードを掲げただろう。

フジ社員の関与「当該日は一切ない」が意味するもの


④のフジテレビ社員のトラブルへの関与については、同社のホームページに「一切関与してない」旨のコメントを上げている。今回の会見でも「当社社員のAは、中居氏と女性の問題の会合については一切関与していない」という線を崩さなかった。ただし、今回は「当該の日については」という注釈付きである。

記者会見でフジテレビは、問題のトラブルの1カ月前の23年5月に、都内の中居氏の自宅で行われたバーベキュー・パーティーに女性がA氏に誘われて参加したという報道が事実であることを認めた。それ以前にも女性はフジの女性アナウンサーらとともに中居氏や他の芸能人が参加するパーティーに誘われ、参加したとされている。だとすれば、女性がA氏から中居氏らの参加する会合に何度も誘われて、携帯電話の連絡先を交換することになり、結果として中居氏と2人きりになった6月の会合も一連の会合の〝延長〟と思っていたという見解も一概に否定できない。会見では、こうした女性アナウンサーら女性社員を取引先やタレントとの懇親の場に、〝接待要員〟として動員する慣行があったのかどうかについても、曖昧なままだった。

グループ最大の実力者、日枝代表の責任はどこに


⑤長年、実質的にフジサンケイグループを支配しているといわれる日枝久フジサンケイグループ代表(フジ・メディア・ホールディングス取締役相談役、フジテレビ取締役相談役)の見解、責任はどうなのか。組合員が急増している労組が日枝氏の記者会見への出席を求めたが、出席しなかった。取締役会でも、同氏の進退に関する話題は出ていないという。親会社の金光修社長は、長年同じ人が取締役を続けることが悪しき慣習を生んだ可能性についても、第三者委員会で調べてほしい、との趣旨の発言をしている。

日枝氏は、親会社とフジテレビと両方の取締役相談役であり、何よりフジサンケイグループの代表である。フジテレビからほとんどのスポンサーがCMをAC差し替えや取り下げにして、このままでは数百億円の売り上げが吹っ飛ぶとも言われているなか、知らぬ存ぜぬで通るのか? バブル真っ最中の昭和末期から平成にかけて、「面白くなければテレビじゃない」というキャッチフレーズを推し進め、その後も同社の軽い「ノリノリの」社風を形成したといわれる日枝氏の責任は重い。

週刊文春はフジの2回目の記者会見の後、1月28日に「訂正」を出した。この記事の第1報では、事件当日の会食について「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」としていたが、その後の取材で「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の〝延長〟と認識していた」ということが判明したため、第2弾以降は、取材内容を踏まえた内容を報じてきた、という訂正だった。これを受けて、清水新社長は「なぜ、記者会見の後に出したのか。文春の記事を前提に会見しているのだから、事前に出ていれば、質問も回答も変わったはずだ」と強い不満を示した。これまで打たれっぱなしだったフジテレビの情報番組でも、一転して、週刊文春の対応をなじっていた。

確かに、当事者間に守秘義務があるとされる中で、取材が進むにつれて記事の内容が微妙に変化することはあるとはいえ、もっと早く訂正を出していれば、会見はそれほど混乱しなかったかもしれない。だが、週刊文春は2回の会見のずっと前、第2弾の記事で修正しているのである。筆者も記事を読んで、事実関係が少し変わったなと思ったが、それはトラブルの根幹に関わる話ではないし、女性が「〝延長〟と認識」していたとの説明で納得した。フジの清水新社長を始めとする経営陣は、週刊文春の自社に関する記事を毎号読まず、第1弾だけで議論しているのだろうか。それを前提に質問した一部の記者もそうだが、あまりにも〝情弱〟ではないか。

案の定、週刊文春の訂正記事では、フジ外しの潮流は変わらなかった。1月30日、林芳正官房長官はフジテレビで流している政府広報などの出稿を取りやめる、と発表した。この動きは地方自治体にも及んでいる。1月になってCMのAC差し替えや取りやめをしたクライアントも戻っていない。つまり、この会見の内容ではフジテレビの企業統治に対する疑念は晴れず、週刊文春の訂正もほとんど影響がなかったということだ。

フジテレビは、1月30日の定例取締役会で、社外取締役が要請していた経営改善小委員会を取締役の下に置き、若手社員による再発防止・再生プロジェクトチームを発足させることを決めた。第三者委員会の調査結果が出るのは3月末になるので、その前に会社としてできることをしようという趣旨だ。同社は3月期の広告収入が233億円減る見込みと発表している。このままでは、4月以降も出血は止まる見込みはなく、一刻の猶予もない。再生が可能になるかどうかは、まず、同社で何が起きているのか、という事実の解明を徹底的に行えるかどうかに懸かっている。

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