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【フォトログ】『新平家物語』吉川英治
父は、たれ?
ーとなると。かの女以外に、この秘密は、所詮、解けない謎となってしまう。
どうして、そんな単純なことを、なぞと考えなければならないのか。
生まれて、二十年もの後、その子清盛をして、悩乱せしめなければならないのか。そのことと自体の方が、よほど、ふしぎといってよい。
だが、こういうあやしい渦因をつくるものの素地は、やはりそのころの時代が持っていたものであろう。
優美と繊細を極めた平安朝芸術にくるまれた貴族生活の
‘‘陰翳の美(いんえいのび)‘‘
が自然に宿す黴の一つというほかにはない。
だから、幾世紀ものあいだを、貴族の中で送ってきた人びとの風習と性道徳にすれば、べつに奇とするほどでもなかったかも知れないのである。