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古民家の声を聴け(新潟県十日町市竹所・島根県大田市大森)
古民家再生とは
古民家(*)再生による地域の賑わいづくりが全国で盛んに行われています。築100年以上の風格ある古民家を改修したノスタルジックな雰囲気のカフェやレストランなどを一度は見たことがあるのではないでしょうか。古民家再生=地域活性化のイメージが定着していると思います。
(*)古民家・・・築50年以上の木造軸組み工法の住宅。総務省統計局が2013年に行った「住宅・土地統計調査」では全国に156万軒残っている。
しかし以前は多額の費用がかかることから、古民家再生は金持ちの道楽として思われていました。
「建て直した方が安い」と地元の工務店や設計士が提案するので、新しい家が建ち、どんどん古い町の景観が壊れていきました。結果としてまちの魅力も失われていきました。
平成の大合併(*)が終わる2010年前後から、持続可能な地域を目指すための様々な取り組みが各地で活発化します。そうした流れの中で、古い町並みを取り戻して「町の活性化を図ろう!」という動きが広がります。
(*)平成の大合併…人口減少・少子高齢化等の社会経済情勢の変化や地方分権の担い手となる基礎自治体にふさわしい行財政基盤の確立を目的として、平成11年から21年までの間、全国的に市町村合併が積極的に推進された。当初、与党が目的としていた1000自治体には届かなかったが、平成11年に3232あった自治体は1730にまで減少した。この合併を機に各地で地域活性化の機運が大きく高まった。
今回、紹介する2本の動画は古民家再生に取り組んできた民間人として、政府から最も高い評価を受けている2人です。古民家を再生することは日本文化を守ることであることがよくわかります。
事例動画①「カールさんが教えてくれたこと」(新潟県十日町市竹所集落)
カール・ベンクス、クリスティーナ・ベンクス夫妻
平成28年度ふるさとづくり大賞・内閣総理大臣賞
2017年5月に3日間現地で取材
「日本人は宝石を捨てて砂利を拾っている」。これは技術的に価値のある古い建物を壊して、簡易に新しい建物をつくる日本人に警鐘を鳴らしたカール・ベンクスさんの名言です。かなりインパクトありますね。
この言葉だけを聞くと恐そうな人に思えますが、全くそうではありません。笑顔を絶やさないやさしい人です。カールさんのピンク色の自宅「双鶴庵」をはじめ、カールさんが手がける古民家はどこか可愛らしさがあります。
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はじめてお会いした時に握手をして驚きました。すごく手が大きい人だったからです。これは私の勝手なイメージですが、でっかい手の人はでっかい器の持ち主です。
カールさんの人生は波乱が満ちたものであったことは動画をご覧いただければわかると思いますが、厚みがあります。あの手の厚みは人生の厚みのよううに感じました。
谷崎潤一郎の「陰影礼賛」が愛読本であるカールさん。私も知らない日本文化の魅力を教えていただきました。これからも日本人が砂利と宝石を間違えないよう、時に厳しく発信していただきたいです。
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事例動画②「登美さんが教えてくれたこと」(島根県大田市大森集落)
松場登美さん
令和2年度ふるさとづくり大賞・内閣総理大臣賞
2021年10月に3日間現地で取材
「なんて目力が強い人なんだ」というのが登美さんの第一印象でした。登美さんが竈婆を務める「暮らす宿 他郷阿部家」での会食が初対面だったのですが、いきなり圧倒されてしまったことを鮮明に覚えています(苦笑)。実際は花鳥風月と小さな小物を愛する可愛いらしい方です。
動画の中ではあまり触れていませんが、ご自身の内面についてもいろいろ話をしていただきました。
子どもの頃、「変わった性格」」だったため、クラスメートからいじめられていた。人とはあまり話さなかった。
高校時代、美術部の先生から「人と異なることが個性であり、魅力である」ことを教えてもらい、人生観が大きく変わった。
本業である服飾デザインは全て我流で、特に影響を受けた芸術家、デザイナーはいないこと。
私は登美さんから誰かと競うのではなく、異なる存在であり続けることの大切さを教えてもらった気がします。
ちなみに、私は「他郷阿部家」になんと一人で泊めていただいたことがあります。人生で最も贅沢な時間でした。「人生が変わる宿」と言われていますが、わかる気がします。古民家、日本文化の魅力、そして登美さんの目力の強さを体感できます(笑)。ぜひ、宿泊をお勧めします。
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まとめ
2015年、政府系の金融機関である日本政策投資銀行は「古民家再生の潜在的な市場規模は約1.8兆円である」と試算しました。地方創生を掲げる政府や自治体だけでなく、大企業や異業種も古民家再生事業に参入して活況を呈しています。
古民家再生が進むことがとてもよいことですが、地域住民に望まれない補助金ありきの「再開発」では意味がありません。
「朽ちていく古民家が可哀想で仕方ない」カールさんも登美さんも古民家再生を行う理由は全く同じです。移住者や観光客を増やすことは第一の目的ではありません。地域のプライドを取り戻すために私財を投じてきました。
古民家の声が聴ける2人の存在は日本の宝です。多くの人に知ってほしいと思います。