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サン=テグジュペリ「あのときの王子くん(星の王子さま)」

10回に分けておとどけしてまいりました「あのときの王子くん(星の王子さま)」(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ作 大久保ゆう訳)を、今回は通しでまるごとお送りいたします。

この作品には、名言といってもいい言葉が幾つも出てきます。
あなたの心にのこるのは、どのシーンのどんなフレーズでしょうか…🌟

『星の王子さま』は映画や舞台など、いろいろなかたちで上映、上演されてきました。
私も何本か観てきましたが、なかでも印象的な一本を拙著でも取り上げていますので、それを次にご紹介いたしますね🌟

子や孫に贈る童話100

牧野節子・著『子や孫に贈る童話100』(青弓社・2014年 刊)

第二章「美しきものたち」より
 映画『星の王子さま』(監督・制作 スタンリー・ドーネン 1974年)


 ミュージカル映画の傑作『雨に唄えば』(1952年)のスタンリー・ドーネン監督が、原作の芯を大切にして撮った『星の王子さま』。こちらもミュージカル映画です。
 少年時代、絵が大好きだった男は、「象を飲みこんだウワバミ」の絵を描きます。けれど絵を見た大人はみんな「それは帽子だ」と言い、理解してくれる人はいませんでした。
 男は画家の道をあきらめ、パイロットになりました。パリからインドに試験飛行しているときのこと。飛行機が故障して砂漠に不時着し、そこで彼は、小さな王子に出会います。
 王子は「羊の絵を描いて」と言います。男が羊を描くと「違う」と首を振りますが、「小さな穴があいた、羊が入った箱」を描くと、「こういう絵が欲しかったんだ」と喜びます。
 王子は絵に描かれた箱の穴をのぞき、なかの羊を「見て」います。
 男は、さびしくつぶやくのでした。「大人の私には、羊は見えない」と。
 王子は、自分の小さな星のことや、そこから旅立ち、いろいろな星を見てきたことを話します。いばっている王の星。星の数を日々数え、それが全部自分のものだと言い張る実業家の星。記録することだけに執着する歴史家の星。戦うことばかり考えている将軍の星。やがて地球に降りた王子はヘビやキツネと会い、その後パイロットと出会ったのでした。
 この映画の、私が好きな見どころシーンは、いくつもあります。
 王子とパイロットが、水を求めて砂漠を歩くシーン。二人は歌います。
「どうして砂漠は美しいの」
「それは井戸を隠しているからさ」
 夕日で赤く染まった空が、星空へと変わっていきます。
「どうして夜の砂漠は美しいの」
「夜の砂漠は太陽を隠してるからさ」
 やっとオアシスを見つけ、水のなかではしゃぐ二人の幸せそうなこと。観ているこちらまで、うれしくなってきます。
 ヘビ役のボブ・フォッシーのシャープなダンス・シーンにはぞくぞくします。彼はダンサーで振付師。映画『キャバレー』(1972年)や『オール・ザット・ジャズ』(1979年)の監督でもあります。
 キツネ役のジーン・ワイルダーも、何本もの監督作品がある俳優です。原作でもキツネはとても大事な役どころ。キツネと出会って友達になる過程で、王子はキツネにさまざまなことを教わり、自身でも多くのことに気づくのですから。キツネと王子の別れのシーンでは、ワイルダーの情感豊かな演技に目が潤みます。
 原作でキツネが口にする言葉は、映画ではキツネの手紙として書かれ、より印象的になっています。
「ものを見る目は心のなかにある。大切なものは目に見えない」
 ラスト、ヘビに噛まれることで、王子の魂は、自分の小さな星に帰っていきます。
 パイロットは、倒れた王子を抱きかかえ、涙を浮かべて歌うのでした。
「忘れかけていた希望や夢が僕のなかによみがえった。君のおかげだ。君の瞳のおかげだ」
 ウワバミのなかの象を、箱のなかの羊を、砂漠の井戸を、夜の太陽を、感じることができる心をもちたいものです。それができたなら、きっと、世界はもっと美しいと思えるに違いありません。