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パンク

先日、車のタイヤがパンクした。
その日私は仕事で気持ちがすっかりパンクして、ああ、たまには図書館にでも寄ろうと思っていた。

勤務先の駐車場から、お気に入りの音楽をかけながら出ると、ボコボコとした変な音が後からついてくる。この曲にこんな音ついてたっけ?ボリュームを切ってみると、どうやら車からだ。
駐車場の出口のバー付近まで来てしまったので、とにかく出ないことにはどうにもならない。

そこから図書館までは数分の距離だったので、着いてから確認しようと思った。
実は数日前に、旦那がスタッドレスタイヤを交換したばかり。その時、タイヤが外れるなんてことないよねぇ、なんて二人で笑いあった。

というのも10年程前に、母の車のタイヤが外れたことがあるからだ。
母方の祖父が入院していた大学病院から、母の運転で伯母さんと二人で帰宅している途中だった。

こんなような冬の寒い夜だった。
当時、実家にいた私に母から携帯に電話がかかってきた。
「あのね・・まきちゃん・・車・・」
と笑いを噛み殺しながら一語ずつ伝えてきて
「タイヤ・・とれちゃったのよ」
という、大オチを言ったあと伯母さんと二人で電話口で大爆笑していた。

兎にも角にも、怪我がなくて何よりだったからこその笑い話である。

その時の状況を後日、母から聞いた。
すると、走りだしてからやたらポンポンと伯母の座る助手席から音がしたので二人で「ポンポン漁船みたいだなー、この車。秋刀魚でも獲りにいくのかね」と軽口を叩いてから直ぐだった。
車が止まった。
母は慌てて、小雨降る冬の夜の田んぼの一本道に出た。
伯母が心配そうに「どうしたんだ?」と訊いたら、肩を震わせながら母は告げた。
「姉ちゃん・・タイヤが取れちゃったよ」
伯母も「はあ?」といったきり、二の句が継げなかったという。

とりあえず、転がっていったタイヤを見つけなくてならない。
この暗闇一面の田んぼに、落ちているかもしれない。
この雨の中、女二人で到底探し出せるとは思えない。
母は、女、男、男、女の四人きょうだいの末っ子だ。
そこで二人は、長男の伯父さんへと連絡した。

伯父さんはすでにお風呂に入った後で、いい気分でこたつでウトウトと横になっていた。
そこに、姉である伯母と妹である母からの緊急事態。
父親の見舞いの帰りだという理由で、長男である伯父がタイヤを見つけることになった。
冬の冷たい雨が降る中、カッパを着て懐中電灯で照らして探してまわった。
しばらくして、「おうい!見つかったぞー!」と伯父さんは真っ暗な田んぼからタイヤを見つけたという。

今でも、母ときょうだいのエピソードとして語り草となっていて、私も何回となくこの話を笑いながらきいた。

だから、この異音がタイヤが外れる前兆だったら、どうしよう・・と思いつつ、図書館へ着いた。後ろをみると、タイヤがパンクしていたのにも関わらず、妙に安心した自分がいた。

とりあえず、旦那に電話して事情を説明し、その後レッカー搬送してもらった。幸いにも図書館という場所が暇つぶしの宝庫だったので、本を借りて読んで待っていた。

とはいえ、レッカー搬送の業者がきて、駐車場へ行き。
また戻って、借りる本を探して館内を歩き回る。
旦那から電話が来て、外に出る。
仕事用のヒールで小走りで行ったり来たりして、ヘトヘトだった。

外に出て旦那と電話した後、ママ友でもある娘の友達の家族に会った。
先日、図書館で本を借りようという学校の社会科見学があったので、本を返しにきたというのだ。

「まーちゃんも返しに来たの?」
とママ友に言われたので、事情を説明して駐車場で少し話をした。
娘の友達は、娘に会いたいというので「もう少ししたら来るよ」と告げた。
けれど、それらしい車はなかなか来なかった。
すると今度は、今から家を出るという電話が来た。
私はさっき出たのかと思っていたので、用事があるのにずっと待たせててごめんね、と言って彼女らと別れた。

入れ違いになるように旦那が迎えにきて、ディーラーへと向かった。
本来ならば営業時間は、過ぎていたけれど月末ということで開いていた。
タイヤの状況によってはパンク修理で治らないかもしれないというので、念のため代車もお願いしていたが、治せる部分だったので代車の必要はなくなった。パンクの原因は小さな金属片が刺さったことによるもの。朝の通勤時はいつも通りだったから、駐車場にそんなものが落ちていたのか。説明を受けながら、横にいる旦那の表情からは「とにかく俺のせいにされなくてよかった」感が満載だった。

夜もすっかり遅くなったので近くのショッピングモールの回転寿司で夕食にした。パンク代と外食代・・思わぬ出費だ。
あの瞬間はパンクで安心したけれど、本当なら美味しいおつまみとお酒でも買って、夕ごはん食べてお風呂に入ってゴロゴロしてたんだよなぁ・・と思うと、パンクによって、それらがグチャグチャになったのを恨めしく感じた。

でも、もしかしたら仕事でパンクしてた私に、少し立ち止まってみたら、と神様がくれた時間だったのかもしれない。

ただ、運動不足と慣れないヒールで歩き回った脚はパンパンになって夜中にこむら返りを起こした。私はその度に絶叫し旦那を起こし「今度こそは運動しよう」と心に誓った。


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