おヘソのハナシ②
この話は、前回の↑の続きになります。
K大学付属病院は隣県の郊外にあり、私の家からは電車とバスを使って1時間程だった。駅前からバスで数分の病院につくと木々に囲まれた中に大きな白い建物がいくつも見えてくる。おヘソ欲しいなんて言ったばかりに、とんでもないところに来てしまった・・。と思った。
大学病院での担当医は男性の大柄な先生と、女性で眼鏡をかけたおっとり女医さんの2人だった。問診ではとりあえず、虫眼鏡で観察され、写真を撮られ、後ろに座ってる実習生に説明したり・・まぁ大学病院ならではの歓迎のフルコースを味わった。これがあるから大学病院は嫌なのだが、おヘソが欲しいと言った手前、我慢するしかない。
問診は何度か行われて、手術の日程などを決めていった。先生からは、この程度であれば、局部麻酔で大丈夫でしょうから日帰りになると言われ、入ったばかりの会社のこともあり、私は安心した。
手術までは抗生剤を処方され、おヘソの消毒をするように指示があり、ようやく私のおヘソの痛みも落ち着いてきた。
日帰り手術でも立ち合いが必要とのことなので、当日は両親に来てもらった。
前開きの検査着のような服装に着替えて、手術室というより処置室のようなところに入った。陽射しが差し込む明るい部屋でベッドがいくつも並んでいて、各々病院によくあるパーテーションで区切られていて、絶妙にお洒落な(たぶんJ-WAVEかとTOKYOFMあたりの)ラジオがかかっていた。まるで歯医者さんのような雰囲気で、こんなとこでやるの・・??大丈夫か??と私は一抹の不安を抱えた。
横になって、おヘソの周囲に麻酔をし、感覚がなくなった後に、しばらくしてドリルのようなものを持ち出した。ますます大丈夫か?と思った。それで患部をとりのぞくという方法だった。
ひたすら流れるお洒落な音楽を横目にドリルのウィィイイイイイ~ンという音が鳴り響く。なんともシュールな絵である。でもこれでとれるなら、すぐに仕事に復帰にできるなら。そう思っていた。
しばらく経ってからだった。男の先生が女の先生に何やら言い出した。
「これ・・深いな・・」
え???ちょっと待って・・。どうゆうこと・・??たけのこ堀りやってんじゃないんだから、深いも浅いもないよね??問診でみてくれてたよね??
しばらくして、私に2人の担当医が
「これで患部をとり除く予定でしたが、思いのほか深く・・これ以上は麻酔が効いていない部分になってしまうので・・大変申し訳ありませんが、今回は中止にして、また改めて手術の日取りを決めましょう」
と言い出した。私はお洒落なFMラジオ局から流れてくる軽快な音楽を聴きながら「はぁ・・」という他なかった。おヘソをドリルで削られるのを必死で覚悟した私の一日を返しておくれ・・と思った。
外で待っている両親にも担当医から説明があり、頭を下げられた。そして当然だが、今日の費用はナシでいいとのことだった。
帰り道、両親と私と三人で駅前のレストランに寄ってご飯を食べて帰ったのを覚えている。今日一日ずっと緊張しつづけていたせいで、ようやくそこでホッとしていた。
ただ、次は本格的に麻酔をして1週間程度の入院になるというのも、新入社員の私にとっては非常に頭を悩ませる問題でもあったーー。
つづく。