旅に想う

「一つ前のバス停まで歩こう!いや、二つ前!」
数時間前、疲れて脚が痛いと言っていた彼は、わずかに見えるバス停の灯りへと走り出した。

旅先で、あるイベントを見に行った。夕方からのイベントを終えて出ると、最寄りのバス停は人々が押し寄せていた。疲れた脚と待ち時間を思い憂鬱になっていた。
 
彼の考えは正解だった。二つ前とはいえほんの数分の距離なのに誰もいない。そして先客のいないバスに乗り込んだ。彼の誇らしげな顔に私も幸せな気分になった。
 
普段は反抗することも多い思春期真っ只中の息子。旅先では頼りになることも増えてきた。近づいた背丈で前を歩く背中に逞しさも感じる。それでも、初めて見るものにキラキラと輝く幼い頃から変わらぬ瞳に、私はほっとする。
 
彼との旅。それは万福を与えてくれる時間。
日常では見ることの出来ない彼の姿が、私にとって一番の旅の思い出となる。



#旅する日本語 #万福

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