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けさのこと #原稿用紙二枚分の感覚

 大きな音で目を覚ますと、窓のカーテンが落ちていた。

 舞子が窓際に立っている。聞くと、いつもよりちょっと強く開けただけなの、と。

 どこかの部品が古くなっていたらしい。変色したプラスチックの破片がぱらぱらと床や布団に散乱している。金属の太い針金のようなものが二本、枕元に落ちていた。舞子はそれを拾い上げた。どこの部品?と聞くと、彼女は答えずにそれをテーブルの上に投げた。

 時計は六時を少し回っていた。暗い赤のカーテンは片方が床になだれ落ち、もう片方は端だけを残して垂れ下がっていた。出窓の置物たちもなぎ倒されている。時計、ハンドクリーム、小さなぬいぐるみ、芳香剤。写真立ては床に落ちていた。ビーズで飾られた木枠に透明の板がはめ込まれているものだが、小さな傷がついていた。袖で拭くが、消えない。

 舞子はカーテンを踏みつけながらリラコを脱ぎ、仕事用のジャージを履いた。Tシャツと下着も脱いで洗濯かごへ投げたが、失敗して舌打ちをしながら洗面所へ入っていく。私は出窓の置物をもとに戻し、写真立ては引き出しの中に避難させた。これは付き合って一年のあの日、互いの親に会いに行き、それぞれから孫がほしかったのに許せないなどと言われた帰りに買ったものだった。カーテンはたたんでクローゼットにしまっておくことにした。擦りガラスだから、と言うと舞子は小さくうなずいた。

 太陽が見慣れない角度で部屋を照らす。

 舞子は食パンをかじり、皿を洗って食器かごに放り込んだ。振動で箸立てがひっくり返る。何やら声を上げながらそれを直すと最後にシンクの下の扉を蹴飛ばした。箸たちが一斉に跳ねる。声をかけると彼女は答えずにトイレに入った。が、すぐに出てきた。床にたたまれていたパンツをつかみ、ビニール袋からナプキンを取り出した。

「ごめん」と舞子はそれを私のほうへ掲げて、またトイレに駆け込んだ。

「了解」と私は答えた。


                           


                            完 (791文字)

 



 

 

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小川牧乃
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