ビール傘(毎週ショートショートnote)→選出!
「田中部長、長い間お疲れ様でした!」
今日でバスケ部を引退する俺を、後輩達が拍手で送り出してくれる。この一年は長かった。色々な感情が押し寄せ、思わず長い溜息が出る。
「これでようやく荷が下りましたね」
次期部長の加藤が労ってくれる。
外は雨だった。傘を開いた瞬間、琥珀色の液体がざばっと頭に落ちてきた。思わず仰反る。地面に落ちたそれは、しゅわしゅわと発泡している。何てことだ、これはビール傘だ。
俺は慌てて部室へと引き返す。ドアを開けると、加藤がニを持ち上げようとしていた。両腕に青筋が浮いている。
「やっぱり僕には、ニが重いです…」
ここに落としていたか。ようやくニが下りましたね、と言った加藤。不安そうな加藤の顔は、一年前の俺に重なった。
「大丈夫、お前ならできると思ったから指名したんだ」
俺は加藤の肩を叩くと、片手でひょいとニを持ち上げ、ビール傘に装着した。再び部室を後にする。ビニール傘にぶつかる雨音が心地よく、今日は音楽を聴かずに駅まで歩くことにした。
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