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ノベルゲームを「読む」から「体験する」へ

このnoteは僕がノベルゲームを制作していく中で、 作品は「読む」もの ではなく「体験する」もの と認識が変化していった経緯をまとめました。

技術記事みたいなのは書けないので、僕のゲーム制作における足跡を書いておきます。


企画の詳細

ゲ制クリエイターズアドベントカレンダー2024 の参加企画のnoteです。
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僕は誰ですか

まきなです。
ひっそりゲームをつくったり配信活動や企画してます。
社会をぷかぷか漂って生きてます。

VTuber 高天原まきな

本題

あなたの制作しているノベルゲームは「読む」ものでしょうか。

僕はノベルゲームの制作を続ける中で、自分が作っているものが「読む」ものではない と自覚していきました。どのような経験と思考の経緯でそうなったのか、自分向け備忘録も兼ねて記事を書いています。

前提となる創作の目的

Light.vn の制作画面

人によって創作する理由はさまざまです。僕は自分の表現や技術の幅を広げるために創作をしています。

こういった動機が活動の根幹にあるため「この作品で自分がやりたいこと や 身につけたいスキル」を考えて制作を行っています。


1作目 基礎のため長編作品

僕はプログラムは少し触ったことがあるものの、シナリオはしっかりと書いたことがありませんでした。なので はじめて作る作品は「シナリオを書くこと」を重視した作品にしようと考えました。

目的

  • 文章を多く書くことで、文章技術を上げ、読める文章が書けるようになる

どんな人に届けるか

  • 自分が好きなジャンル が好きで近い属性の人

作った作品

いつか父親になるAVG 虚構英雄ジンガイア

父親をメインテーマとし、様々な題材をちりばめ、連作として数年かけてシナリオを書きました。またシナリオを書くことに集中するため、演出などは極力作らないという制約を自分に課しました。

目的は達成できたか

文章を書くことに抵抗感がなくなり、文章表現も様々なものを取り入れることができました。

どんな人に届いたか

  • 男性が9割、女性が1割、20~30代の男性が多い

  • 長編同人ノベル コアユーザーには届いていた

※ 発表の場は即売会でのパッケージ版のみ
(某点数サイトになんかめっちゃ書いてありました)

分析と評価

プレイ時間20時間ほどのSFファンタジー

本作品が僕に教えてくれたのは「長編シナリオの素晴らしさと、現時点で見える険しい道」でした。

様々な人間の生き方を描くことができたのは楽しく、ユーザーさんにも恵まれたくさんの感想をいただきました。今後、この作品が自分の基礎となっていくのだと思います。
しかし高速化するエンタメの中、長編制作は難しいものもありました。現状ではスマホでのプレイや動画での視聴に適さず、ユーザー層も絞られている状況。このまま次の創作を目指したとき、「ジャンルや趣向によるニッチ化 と 予算および販売物の高額化の道」に向かうしかないように感じました。

判断が必要でした。「このままの道でいくか」「別の道を開拓するか」

自分は後者を選び、新しい表現とユーザー層の開拓を目指しました。
…おそらく同人・インディーとよばれる小規模な制作チームでは、潤沢な資金がない限り、ニッチ化の道へ進む方が合理的ですが。

この時点で僕はまだ「ノベルゲームという読み物を作っている」という認識を強く持っていました。しかし次の作品でその価値観が大きく変わっていくことになります。


2作目 検証のための短編作品

別の路線を開拓する にはどうすればいいでしょうか。一般的には自身の強みや市場を分析し、ユーザーを絞り込み、その界隈に向けて作品を作ると思います。

ですが僕は考えた末に全く違う手法を行うことにしました。それは1作品まるまるを「今後のユーザー層探しのためにつぎ込んではどうか」と考えたのです。
このような結論に至ったのは、自分が「表現や技術の幅を広げたい」という動機で創作活動をしているからかもしれません。

目的

  • 僕の作風が好きそうなユーザーを探す

  • 探索が目的のためプレイしやすさを重視し、1時間以内の短編にする

どんな人に届けるか

  • 不明 虚構英雄ジンガイアの面白さが伝わるユーザ層を探す

作った作品

創作物と自分をテーマにした作品です。面白さの作りの部分は 虚構英雄ジンガイア の手法を踏襲しています。大きく違う点は「構造」を根幹としたシナリオ構成です。

発生した予想外の出来事 と ターニングポイント

本作の発表からしばらくしたあと、とある有名な方に実況いただきました。

自分も大好きなキヨさんに実況いただいたのです。DL数やらアクセス数などが跳ね上がることになります。

そしてこの出来事が、のちの創作に大きな影響を与えます。

目的は達成できたか

1時間以内で作品を作り上げ、実況を通じて自分の作風が好きなユーザーを見つけることができました。

どんな人に届いたか

  • プレイヤーは男性が多め

  • ただし実況視聴を含めると女性が多め

  • 実況を通じライトユーザーの多くに届いた

※発表の場はフリーゲームサイトおよびBooth

分析と評価

どうせお前はヒロインを使い捨てる SFホラー救済ギャルゲー

彼女系生命進化論パーフェクト☆ガールが僕に教えてくれたことは「社会との繋がりの強さと脆さ」でした。

本作は実況を通じて多くの方々と繋がりました。小さな作品がどうやって社会と繋がるかを教えてくれたのです。虚構英雄ジンガイアの時に感じていた「ジャンルや趣向によるニッチ化 と 予算および販売物の高額化の道」という課題にどう立ち向かうか、その1つの答えだったと思います。

しかし同時に新たな難しさに直面しました。
「実況を通じなければ社会と繋がることのできない脆弱性」
この課題が圧し掛かってくることになります。

そしてひとつ、生まれた疑問がありました。それは「実況を通じて作品を知った人は、なにを面白いと感じているのか」でした。作品を読むではない別の概念がそこにあります。課題と疑問を解決するためには、自分がなにを作っているのかを見直す必要がありました。


自分が作っているモノはなにか

外伝 非実在系彼女の終活

自分が作っているモノがなにか、理解している人はいるのでしょうか。僕はなにもわからないまま作っています。
ですが自分の作品からなにかを感じた人たちがいました。僕が作っているモノの答えは、ユーザーの中にあるはずです。

頂いた感想や実況を何度も見返しました。すると実況者の方が気になる発言をされていました。
「TRPGやマーダーミステリーが好きな人にオススメ」
彼女系生命進化論パーフェクト☆ガールをそう評価した人がいました。

調べてみるとユーザーの一部はそれらのジャンルと一致していました。僕が「読む」ものであると考えていたノベルゲームを「演じる」方たちが気に入ってくれていたのです。
「演じる」方たちはさまざまな作品の世界を楽しんでいました。TRPGやマーダーミステリーで世界を体験していました。
…もしかすると僕が作っているものは「読む」ではなく「体験する」なのではないか。登場人物たちの人生を「体験する」ことに価値があるのではないか。そして実況とは「体験の共感・共有」なのではないか。

小さな言葉の違いかもしれません。ですが漢字に音読みと訓読みがあるように、言葉に無数の意味があるように、1つの文字から広がる表現は、枝分かれしてやがて大きな違いになります。

そうして僕は「体験する」を意識して新しい作品を作りはじめました。


3作目 実証のための作品

体験を主としたシステムを根幹に入れたノベルゲーム。物語を読むのではなく、体験することを強く意識した構造。かなり実験的な作品になりました。そして創作へのアプローチは大きく変化しました。

目的

  • ユーザーに物語を「体験する」を提供する

  • 共有したくなる仕組みをシステムとして提供する

どんな人に届けるか

  • 物語体験を好む人

作った作品

マーダーミステリーのシステムとノベルゲームを掛け合わせ、新しいゲーム体験を作りました。パーフェクトガールで行った「構造」を根幹としたシナリオ構成にしつつ、2人でプレイするという「体験の共有」もシステムに組み込みました。

目的は達成できたか

物語体験をシステムを通じて表現することができたと感じています。また共有したくなる仕組みにより口コミで多く広がったと思います。

どんな人に届いたか

  • 女性比率が高い

  • ボリュームゾーンとしては20代が多い

※発表の場はBoothのみ

分析と評価

マーダーミステリー の遊びに ノベルゲーム を組み込んだ 異色作

本作品が僕に教えてくれたのは…1つは「体験する」のマーケティング面での強さ。もうひとつ課題は…それはまたどこかで書けたら。
作品を作る度、作品は僕に気づきを与えてくれます。僕はその気づきに悩みながら次に向けての答えを探します。

この作品で浮かび上がった課題はなんだったのか。作品でまた、検証していきたいと思います。

…次の作品は、今までの積み上げを一度壊すことになりそうですが。スクラップ&ビルドしないとできないこともありますよね。


ここまでの歩みを振り返って

非実在系彼女の終活 のワンシーン

自分の創作を表現する言葉はクリエイターによって違うと思います。
僕にとってその言葉は「体験する」でした。その言葉を手に入れるために遠回りをしているなぁとも思います。こんな回りくどいことをしなくても、すでに理解している人は大勢いるのでしょう。
しかし「知っている」ことと「わかっている」ことは違います。知識があること と 感覚があること は違うのです。昔、転んで覚えた自転車の乗り方のように。

情報が溢れ、最適化されていく社会の中で僕らは生きています。インディーという場も、いつか ”最適解という知識” が飽和するときがくるのでしょう。ですが、人には漂うことでしか得られない感覚があります。

僕が好きなインディーゲーム らしく。今後もぷかぷかと社会を漂って、目や耳や皮膚や言葉で感じたものを創作していきたいと思います。


余談

…こうみると僕は

  • 作品のたびに界隈の移動をしている

  • 発表の場がSteamではない

  • 男女比の逆転が起こり、現状は女性ユーザーの方がおおい

と相対的にみて特異な位置にいる気がします。
他の人の参考になるのだろうか…似たようなタイプのクリエイターさん、お友達になりましょう。

それでは 現在制作している 滅亡するクロックパルス の作業に戻ります…!