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8.私の中の何かが変わった

プロローグより続いています。


一ヶ月滞在したフロリダは素晴らしかった。
私と一緒に日本を発ったのは10数名の日本人中高生。
同じ留学斡旋業者に頼んだ人たちの
子どもたちだからなのだろうか、
ホームステイに参加した人たちのほとんどが
自営業や会社役員
有名航空会社のパイロットの子や医者などの子ども逹だった。
みんな、中学生ながらにどことなく華々しい人たち。
明るく屈託のない人や
いかにも良いところのお嬢様なのだろうという人たちが多くいた。

フロリダに着くと
一人~二人ずつ既に決まっているホストファミリーに引き渡され
平日は各ホストファミリーの家から語学学校へ通う。
そして週末になると
ディズニーワールドやユニバーサルスタジオへ遊びに行く。

私にとって「パラダイス」以外の何物でもない。
自由時間には好きなだけグッズを買い
お小遣いだって決まっていたような決まっていないような感じだった。
別の週末になれば、モールへ連れて行ってもらえる。
友達に連れられて、
はじめて「バナナリパブリック」や
「ビクトリアシークレット」というブランドを知った。

中学2年生の私には未知の世界の物たちばかりだった。
同じような年齢の子たちばかりなのに
みんな値段なんてサラッとしか見ない。
私も真似てサラッと見るが、
100ドルくらいなら遠慮なく買うようになっていった。


そして、ホームステイ最終日程には
修学旅行的なものが組み込まれており、
フロリダから飛行機でニューヨークへ。
セントラルパークの見えるホテルへ泊まり、
ブロードウェイミュージカルを観に行き、
もう既に気分だけはアメリカナイズドされた感じだ。

右も左も何も知らないまま、
"煌びやかな部分だけ"しか目にしないアメリカという国に
この一ヶ月で魅了されたのは言うまでもない。



帰ってくるなり
高校はアメリカの高校に進学したい旨を伝えた。
義父は大賛成。
母も、義父の賛成するとおりに賛成してくれた。

一緒に行った友達とは仲良くなったか?
アメリカは凄いだろう!
私が魅了されたそのままの言葉が帰ってくるから、
この時ばかりは義父との会話が盛り上がった。

何かが私の中で変わっていた。



一方、地元の友達と遊ぶことも楽しかった。
その反面
私の中ではもう既に大学までの構想ができていた。
かつて六畳二間の祖父母との生活の時から
耳にしていたJAZZを学びたいと…

そうだ!
大学はジュリアードかバークレーにしよう!
それまで、高校で沢山勉強して英語もできるようになろう。
ちょっと淋しいけれど、夏休みなんて3ヶ月もある。
その度に日本に帰れば良い。
決めた。
JAZZピアニストになるために高校からアメリカに行こう!

そんな想いもあったからなのか、
地元の友達ともこれまで以上に遊ぶようになっていった。

もちろん、ますます可愛くなっていく弟を
自慢したい気持ちもあった。
そのため友達を家に呼んで遊ぶことが多くなっていく。

みんな最初は躊躇する。
マキの家は綺麗過ぎて…
そんなことを言われることもしばしばあった。
それでも、何度となく家に友達を連れてきては
お菓子を食べたり、アイドルの話をしたり
キャラクターグッズの話をしたり、
ちょこっと喋れるようになった弟を交えて
みんなでワイワイする時間が楽しかった。


ただ、その度に義父に聞かれる言葉は
私の胸の奥をチクチクさせた。
まるで私が忘れかけていたものを
思い出させるかのようだった。

あの子の親は何の仕事をしているだ?
あの子はどこに住んでいるんだ?
アメリカに行った時の友達の方が良かっただろう。
最近連絡はしないのか?


地元の友達は
公営の団地住まいやシングルマザーも多かった。
でも、私はいつもはっきりと答えることができなかった。
この恥ずかしいような感覚は一体なんなのだろう。
かつてシャッターを下ろしたはずの場所が
いつもチクチクと突かれるかのような疼きを感じるが、
それでも、何もなかったかのように
再びシャッターを閉めなおした。


そんな友人達の話を
後で母から聞かされた義父は
私に直接何かを言うことはないながら
毎回怪訝そうな顔をする。
時間を置いて、母から友達を選ぶように注意される。

反発したい気持ちもあった。
でも、なぜかまっすぐ反発できない自分がそこにいた。
私も同じような人間になてしまったのか?
そんな風に、思春期を迎える私の頭と心が一致しない。
そして更に自分の奥のシャッターを閉める。


この頃から、一人ピアノに向かうことも多くなった。
何時間も何時間も時間が経っていることを感じないかのように
ひたすらピアノに向かい感情を吐き出していく。
あの時、祖父母の家で「人間が小さくなる」と言われた記憶が
私の中に深く入り込んでいる
…はずだった。


大人になった私が、
友人たちを守るためにはっきりと答えていない
…はずだった。
でも、本当は友人たちが恥ずかしいのではないか。
堂々と、○○団地に住んでいるよ!
と言えない自分が
知らず知らず心の中で避けてきた義父のようになっているようで、
自分が悲しくなった。



もう、振り向きたくなかった。
アメリカへ行こう。
アメリカへ行けば何かが変わる。
私を知っている人は一人もいない。
そんな場所に一人で行けば…

きっと。。。


いろんな想いが入り混じりながら、
中学校を卒業するのと同時に
単身アメリカへ渡ることにした。


15歳。




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心理カウンセラー小園麻貴(こぞのまき)
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