17.6年ぶりの再会
プロローグから続いています。
横浜にあるホテルのロビーが待ち合わせ場所だった。
義父は少し歳を取っていたが
依然とさほど変わらない風貌、
見覚えのあるスーツを身に纏っていた。
麻貴、大きくなったね。
そんな義父の言葉に私は一瞬ドキッとした。
まるで何かのテレビで見たような、
実の父から久しぶりに会う娘に傾けるような
優しい眼差しを感じたからだ。
小学生になった弟に記憶があったのか定かではないが、
写真などで私のことを知っていた。
弟が戸惑わないように、
泣きたいくらいな嬉しい想いをぐっと堪え、
久しぶりだね!お姉ちゃんだよ。憶えてる?
そんな風に二言三言サラッと話した。
そして、
夕方まで私と弟は二人で過ごすことを許された。
私は弟を連れて、
まずショッピングセンターへ足を運んだ。
新しい服を買ってあげたいと思ったのだ。
綺麗に洗濯されている服を着ていたが、
見るからに小さなサイズの擦り切れそうな服を着ていたからだ。
次から次に試着させ、
抱えるほどの洋服を買って持たせた。
お昼になると弟の好きなものを食べさせたいと思い、
ハンバーグが食べられるレストランへ連れて行った。
まだ小学校低学年。
なのに、なぜかナイフとフォークを
大人さながら使いこなすことにビックリした。
弟に聞くと、
何だか分からないけど
みんなに上手だとよく言われるんだ!
そんな風に答えてた。
午後は遊園地。
みなとみらいにあるコスモワールドへ連れて行った。
はじめはぎこちなくなるかと思ったが、
6年の歳月を感じないかのように二人で楽しんでいた。
ジェットコースターに乗りゲームをし、
そして夕方になると約束どおり自宅へ送り届けた。
弟に案内されて、
数年前から住んでいるというマンションへ向かう。
そこは云わばラブホテル街。
そんなホテルの間にひっそりと佇むマンションが
弟たちの住処だった。
部屋に案内されると、
玄関からすべてが見渡せるワンルーム。
小さい家を毛嫌いしていた義父が、
弟と二人
ユニットバスが備え付けてあるワンルームのマンションに住んでいた。
部屋の中にはテーブルと椅子
小さなテレビとカラーボックス、
そして洋服を掛けるハンガーラックが整然と並ぶ。
その日は夕飯も一緒に食べることになった。
何を食べたのかは記憶に無い。
でも、3人で囲む食卓をが
不思議な感覚だったのだけは憶えている。
弟の手前だからなのか、過去の話は一切しない。
義父はずっとにこやかに私に話しかけ、
いくつものアルバム写真を見せてくれた。
その中には私が知らない弟と義父の生活が写っている。
きっとあれから数年後、
競売にかけられた家に買い手が付き弟と二人暮らしてきたのだろうことは、
皮肉にも法律事務所に働いていたお陰なのか容易に想像できた。
男手一つ、一からの子育ては大変だったに違いない。
そう思わせるような、
見るからにサイズが小さな洋服を着た弟が
義父と笑って写真に写っている。
でも動物園にも行っている。
海にも連れて行っている。
花見や学校での遠足の写真もある。
旅行に行ったという写真もあった。
部屋はホテル街の小さなワンルームだったが、
私の想像を遥かに超える幸せそうな父子がそこには写っていた。
あのとき義父は、
親戚一同から絶縁され友人知人は一人残らず離れて行った。
だからこの6年、
弟と義父はたった二人で生きてきたのだ。
きっとそんな証を私に伝えたかったのだろう。
誇らしげに、何頁も何頁も写真見せては説明してくれた。
けして裕福とは言えないが、
二人は幸せそうだった。
少なくとも私にはそう見えた。
もう、私が心配することは何もないかのように思えた。
二時間ほど滞在したのだろうか。
私が帰るとき、
弟は私を駅まで送りに付いてきてくれた。
何か困ったことあったらいつでも連絡してね!
お肉好きでしょ?今度送るね!
そんな風に話しながら、
私の携帯電話の番号を書いた紙を渡して横浜を後にした。
ちゃんとご飯も食べていたんだ。
ちゃんと生活出来ていたんだ。
学校にも楽しく通い友達が沢山いると言ってたな。
スポーツの習い事も始めたと言ってたな。
嬉しい反面淋しさが募る。
帰りの電車は、
なぜか行きより私の心は締め付けられていた。