ヘルプ商店街
「死にたい」
深夜一時、聡は疲労で倒れそうになりながら家路についていた。
仕事漬け。もう嫌だこんな人生。
「ん?」
いつの間にか、もやに包まれていた。
視界が晴れると、聡は活気のある商店街の真ん中を歩いていた。
「おお! お客さんか」「寄っていって」と声をかけられる。みな陽気でにこにこしている。戸惑いながら進んでいく。
「あ」
駄菓子屋の陳列棚に子供のころ好きだった大玉飴があった。
駄菓子屋のおばちゃんが目ざとくそれに気づき、
「これかい? 一個あげるよ」とそれを聡の手に乗せた。
「ありがと」
飴をなめると、その懐かしい甘さに涙がこぼれた。
「辛かったんやね」
おばちゃんが痛いくらいに背中をさすってくれる。
「辛かったらな、逃げていいんよ。何度でもやり直せるんだから」
「うん」
頷いて顔をあげると、おばちゃんも商店街も消えうせていた。
口の中にはおばちゃんがくれた飴玉が一つ。
「会社をやめよう」
聡は久しぶりににっこり笑った。
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