Sia( マディ・ジーグラー)「Greatest」/怒りや悲しみが美しさに変わる時
Cheat CodesというEDM系のアーティストにどはまりして、先週ずっと聞いていた。昔から何かを好きになると、集中してそれを知りたくなる。最近はいいなと思うとTwitterやYoutubeなどでエゴサーチをし、誰かの感想だったり、関連する作品だったりを探すのが常だ。
マディ・ジーグラーを久しぶりに見たのも、彼女がCheat Codesの楽曲で踊っていたからだった。
マディ・ジーグラーは2002年生まれの才能溢れるアメリカのダンサー。アメリカで放映されている「ダンス・マム」というリアリティ番組で天才ダンス少女として人気に火がつき、今は女優やモデルとしても活躍している。
彼女がその名を世界に知らしめたのは、Siaというアーティストの「Chandelier」という楽曲のMVへの出演がきっかけだ。
このMVは2017年6月現在までに、16億回再生されている。世界中が釘付けになるのはダンスの技術もさることながら当時12歳にも関わらず彼女の表現力がすさまじいからだ。
そんな彼女が踊るCheat Codesはさすがのできばえ。といっても見かけたのは短いクリップ。久しぶりに彼女が出ている最新のMVがみたい。
そう思って何気なくみたのがこの「The Greatest」だった。
「The Greatest」はSiaがアメリカのフロリダで起こったゲイクラブでの銃乱射事件に心を痛めて作った楽曲。彼女が心を痛めたのは49人もの命が奪われたからだけではなく、「ゲイクラブ」という場で起きた事件に対して「ざまあみろ」そんな誹謗中傷を見かけたことに起因している。まだまだLGBTに対して偏見を持つ人が多い。それに対するSiaの嘆きと怒りがこの曲に、そしてこのMVにこめられている。
一瞬でこのMVに夢中になった。Siaが、そしてマディ・ジーグラーがこのMVで表現しているものは、私の中にも時々頭をもたげる、行き場のない怒りや悲しみといった負の感情だ。それが楽曲と踊りという形で、とても美しいものに昇華されていた。
ネット上で見かける剥き出しの負の感情に辟易することは多い。どうせ口にするのであれば嬉しい、楽しいといったポジティブな感情がよい。私はずっとそんな風に思っていた。
ただ自分に対するあせりや憤り、将来の不安、そして老いへの恐怖。そんなできれば蓋をしておきたい自分の中にもあるどろどろした思いが「The Greatest」のような美しいものに昇華する可能性があること。そのことになんだか、私はとても救われた。
それを「The Greatest」のような形にするまでの過程に、どれだけの葛藤と苦しみがあるのか、今の私には想像がつかない。ただ、それを私も、いつかこんな風に、表現できるようになれればいい。そう思う。