たむらしげる「銀河の魚」「よるのおと」/年をとるのが素敵な理由
高校生の頃、私は物知りな大人になりたいと心から願っていて、その手段として本や映画を手当たり次第に消化する毎日を過ごしていた。具体的には本を月に20冊、映画は月に10本。残念ながらいまでは内容を覚えていないものがほとんどだ。あらすじを読んでもピンと来ないものまである。
それでもその時期に触れて、強烈にこころに残っている作品がある。そのひとつがたむらしげるの「銀河の魚」という作品だ。
たむらしげるは1949年生まれのクリエイター。ブロードキャスターのオープニング動画や、週間テレビジョンの表紙を手がけているので、作品を見かけたことがある人は多いんじゃないだろうか。彼は、絵本や漫画、映像作品など、さまざまなジャンルで活躍している。「銀河の魚」は1993年の作品で毎日映画コンクールの大藤信郎賞をとった。
私ははじめたみた時から、この映像作品のとりこになった。現実世界にありそうでない光景が、たむらしげるの作品の中にある。まだ行けてないけど、手を伸ばせば届きそうな場所。そんな現実と空想の狭間のような美しい世界を、たむらしげるは作り出す。
「よるのおと」はそんなたむらしげるの最新作だ。
この絵本はたむらしげるが幼少の時に見聞きした、ある俳句をもとに作られている。わずか数分たらずの時間が、それは美しく描かれている。混じり気のない、夜のブルーに水のブルー。それを月や星や家の光が、ほのかに彩る。
「銀河の魚」と大きく違うのは、その光景は誰もが手に届く光景だということ。「銀河の魚」の世界に劣らずこの世界も、本当は十分に素敵なのだ。そんなことに気づかされる。
そして何よりも、たむらしげるが幼少の時に触れた一つの俳句が、60年近くの歳月を経て「よるのおと」になったことに、私は胸が熱くなった。長い月日をかけて、ワインのように熟成されて、そして今、この世に出てきたこと。あとがきを読んで、その事実を知って、再度ページをめくりながら、その意味に思いを馳せた。
その日、ぼくは自分がこのすばらしい宇宙に存在する不思議に気がついた。そして、世界が今までとは少しちがって見えた。それを母に伝えたくても、言葉に表現できないのがもどかしかった。
9歳の自分の胸に広がった美しい波紋は、60年近くたった今もまだ広がり続けている。
たむらしげる「よるのおと」あとがき
誰の中にも「よるのおと」になりえるような素敵なものが、きっと今は、眠っている。それを熟成させていくことが、「歳をとる」ことなのかもしれない。 それはとっても素敵なことだ、そう思う。
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