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32/100 村上春樹著「東京奇譚集」/とある日の偶然の一致について

ラ・ブランシュというフレンチのレストランに行った。この店を知ったのは、一時期定期的にごはんを食べにいっていたシェフ見習いのHさんが「東京でいちばん行くべき店」と断言していたからだ。その後今のパートナーと一度行って、「さすがHさんの薦めた店だね」と舌鼓をうった。

また行こう、という話になったのは、その後あちこちを食べ歩いて「どこが今までいった中でいちばんおいしかったか」なんて話の中で「ラ・ブランシュ」が頭に浮かんだからだ。スペシャリテのイワシとジャガイモのテリーヌがおいしくて、ちょっと前にテリーヌが有名なお店に行った時も、何だかそれと比べてしまった。とある別の有名店でも、そこでは鮎とジャガイモのテリーヌが出たのだけど、ラ・ブランシュの方が、と頭の片隅にあった。

そんなわけでずっと頭の片隅にあって、今回の訪問となった。Hさんの言葉と、あとは前回の訪問からずいぶん時間が経っていたから、脳内でずいぶんと過大評価しているのではないかと行く前は少し気になった。ところがそれはまったくの杞憂で、一皿めから、前回の記憶以上の味だった。最後のデザートの皿では普段辛口の彼までもが「今まで食べたデザートでいちばんかも」なんていいながら絶品のブラマンジェを口にした。

その夜は村上春樹の「東京奇譚集」を読んだ。ここ数週間何だかずっと持ち歩いていたのに一ページも読まず、なのにその日に限って一気に最後まで。前に読んで面白かった記憶があったのだけど、それを凌駕する面白さだった。なぜこんなに面白い本を、あれから一度も読み返せず、と不思議な気分になった。

偶然の一致というのは、ひょっとして実はとてもありふれた現象なんじゃないだろうかって。つまりそういう類のものごとは僕らのまわりで、しょっちゅう日常的に起こっているんです。でもその大半は僕らの目に止まることなく、そのまま見過ごされてしまいます。
(中略)
しかしもし僕らの方に強く求める気持ちがあれば、それはたぶん僕らの視界の中に、ひとつのメッセージとして浮かび上がってくるんです。その図形や意味合いが鮮やかに読みとれるようになる。
村上春樹著「東京奇譚集」

この一節を読んだ時、二度目の訪問・二度目の読書、小さな偶然に思いを馳せた。そして東京奇譚集に収録されている「ハナレイ・ベイ」の映画を深夜にみて(Amazonプライムでなんと無料でみれた)、久しぶりにたくさん泣いて、今日1日の出来事を連なりとして思い返して、その晩はなんだかちっとも寝付けなかった。
この日に何かメッセージがあるとしたら、それは今まで通過してきた出来事の中には見過ごしていた、素敵なものが含まれているということ。最初に行った時、手にとった時に価値が分かるとは限らなくて。

それはとても、素敵なことに思えた。この気持ちとシンクロしていたい、そんな心持ち。


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