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いいこでいすぎるのはじぶんをころしてる。
きれいな言葉をつかいましょう。
うつくしい言葉をつかいましょう。
他人を傷つける言葉はやめましょう。
汚い言葉はやめましょう。
無意識のうちにわたしたちは言葉を選んで話している。たくさんの言いたい言葉を飲みこんで話をする。気づけばそれが当たり前になっていて、実は小さなストレスになっていることに気づいていない。
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先日、会社の上司につれられて飲み屋に行った。
ことのはじまりは、職場での個人面談。
通常ならば各個人と部門長との面談なのだが、今回は職場環境に疑問をもっている中堅社員が結束して複数人で部門長と面談をおこなった。
今まで散々直属の上司に相談したが、だれも改善しようと動いてくれなかったため苦肉の策として要望を出したのだ。
案の定、部門長は現場の小さなトラブルまでは把握しておらず、そこから生じている人間関係の歪にも気がついていなかった。
すぐすぐ解決できる案件もあれば、時間のかかる問題もある。
とりあえず、飲んで、話して、スッキリしようということで、飲み会が開かれることになった。
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思えば部門長と中堅社員だけの飲み会はしたことはなかった。飲み会は若手社員の扱い方を中心に進んだが、結局は「中堅社員の頑張りが足りない」と聞こえてしまう内容で、中堅社員のみんなは腑に落ちない一次会となった。
部門長があと30分だけ飲もうと言ったので、部門長の知り合いの小さな飲み屋で二次会をすることになった。
その小さな飲み屋のママさんとの出会いが、中堅社員の心を震わせる、素晴らしいものとなったのだ。
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飲み屋のママさんは口がめちゃくちゃ悪い。
ブスだのバカだのデブだの汚い言葉のオンパレード。自分に対して言われたら傷ついて立ち直れないのではというぐらい、次から次に暴言が飛び出す。
けれど、なぜか汚い言葉に愛が感じられる。
そして言われた人も、聞いた人も、ママさんのことを嫌いにならない。むしろどんどん好きになってしまうのだ。
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ママさんは「死ね」など、相手の精神に攻撃する汚い言葉は使わない。
「あの子はブスだけど、服のセンスもよくて、頭も切れて、とにかくいい子なのよ〜!だからブスだけど彼氏はイケメンばっかりだったわ!ブスなのに!」
ブスという単語は出てくるけれども、相手に対するリスペクトや愛情の方が上回って聞き取れる。だから汚い言葉をつかっていても不快にならないのだ。
普段は朝からお弁当を作る会社で働いているというママさん。
「仕事が楽しいから全然辛くない」
「それにこの年になると朝目が覚めちゃうからさ、時間がもったいないじゃない?丁度よかったのよ。」
パワフルに、嬉しそうに語る。
「それにね、給料も上がったのよ〜!」
「私、ずっと料理の仕事をしているでしょ?お弁当の盛り付けが気になって、ひと手間加えるようにしたの。それを上司が見ていてくれてね。」
「前の職場はホントに最悪だったわ。何か変えようとすると“社内規定に反する”ってばっかりで。トマトの湯むきもできないデブのくせに!」
「社内規定とか、固定観念とかに縛られすぎなのよみんな!いいと思ったことはすればいいじゃない!」
「一生懸命に取り組んでいたら、人は分かってくれるものよ。それでも合わないなら、やめちゃえ!!」
部門長の顔は凍りついていたが、中堅社員のみんなの目はキラキラと輝いていた。
そして、中堅社員の心に一番響いたママさんの言葉がこれだ。
「私みたいに、自分が大好きで自分が一番って思ってる人はね、他人になにを言われても変わろうなんて思わないのよ。他人を見て、自分のなかで変わらなくちゃ、って自分で気がつかないと変わらないのよ」
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すべての謎が解けた気がした。
個性が尊重される時代に生まれ育ってきた若手社員は、自分が大好きで、自分が一番なのだ。そんな時代で育ってこなかった、敷かれたレールの上を何も考えずに走らされていた中堅社員の頭だけでは、彼らの考え方が分からなかった。
気づかせなければいけない。
中堅社員は、一生懸命働くしかないのだ。
ただ、そこに若手社員を変えるという業務を追加する必要はない。
自分に与えられた業務を、与えられた役割を、ただただ一生懸命とりくんでいくしかないのだ。
そして若手社員が何かに気づいて、変わってくれたらそれでいい。
やっぱり働きにくいのなら、その時は退職するしかない。
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気がつけば、中堅社員のみんなも声を大にして汚い言葉を使っていた。ブスだの、デブだの、日頃のストレスを吐き出すように。
飲みの場だから許される行為。
抑圧された日常からの解放。
汚い言葉をつかうことが、こんなに気持ちのいいことだったとは。
いい子でいすぎるのは自分を殺してる。
会社にとってのいい子、
家族にとってのいい子、
恋人にとってのいい子、
仲間にとってのいい子、
社会にとってのいい子。
真面目な人ほど、誰かのためにいい子であろうと日々神経を使っている。
だけど、たまには、いや、本当は
いい子でなくてもいいのかもしれない。
自分の好きなように、
自分の言いたいことを、
自分がいいと思ったことを、
一生懸命していたら、
きっと周りはついてきてくれる。
愛してくれる。
脱いい子しちゃっても、いいんじゃない?
牧 真姫子🍙エッセイスト(@makicome1986)
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