【本】『「学ぶ・教える・考える」ための実践的英語科教育法』
「複雑系理論」をご存知だろうか。
私は、M1の春学期に履修していた「英語科の授業と教材・タスクB」という科目のなかで、この理論に出会った。この科目は第二言語習得の理論を扱いながら、実践に応用させることについてディスカッションを重ねていく大好きな授業だった。
酒井英樹・廣森友人・吉田達弘 (2018) 『「学ぶ・教える・考える」ための実践的英語科教育法』. 大修館書店
当時のわたしは、自分が「よりよい実践を実現するために研究をしたい」と気づき始めていて、でもまだ何がやりたいのかわからずにもがいていた。
授業では、①インプット仮説 ②インタラクション仮説 ③アウトプット仮説 ④生得主義 ⑤情報処理理論 ⑥スキル学習理論 ⑦普遍文法 を、言語学的アプローチによるものと認知的アプローチによるものに分類する課題が出ていて、その際の参考文献としてこの本が提示されていたのだが、ここで新しい第二言語習得理論として提示されていたのが「複雑系理論」であった。
この複雑系理論の短い2ページほどの記述は、「自分が教員として感じてはいたけれど、心のなかにしかなくて表現できないこと」が表現されようとしている、とまさに度肝を抜かれた思いだった。
なので、この本のなかの、複雑系理論について触れられている部分を紹介する。
SLAとはSecond Language Acquisitionの略で、第二言語習得を指す。
この「系(システム)」の考え方を、学校に応用して考えていく。
当たり前のことではあるが、わたしは教員だが、わたしひとりでは教育は成り立たない。教育を成り立たせるには、要素として「児童生徒」や「教員」、「教室内の様々な設備」(これは教室に限らないが)などが有機的に連携して「教育」というシステムを作り出している。
学校においてクラスの特性を理解しようとした時、クラスの個別の児童生徒ひとりひとりを個別に理解するだけでは、そのクラス全体の特徴はとらえられない。
同じ先生が担任をしても、毎年まったく同じクラスを作れるわけではない。だって、子どもたちが違うんだもの。
ここにさらに「動的な系」として、時間の経過とともにシステム全体が変化することも視点として加えて、第二言語習得をさまざまな要素が互いに相互作用を起こしていることを前提に考えていこうとする理論が複雑系理論だ。
面白い、もっとこの理論を勉強したいと思ったが、何せ新しい理論であるがゆえに先行研究や文献もほとんど見つけられなかった。特に日本では、この章を執筆された新多了という方が書かれているものを見つけるのがやっとだった。(2020年当時)
この当たり前のようで、言語化されていない理論にとても惹かれたが、新米院生が研究していくにはハードルが高いなあ、と眺めて通り過ぎてしまった。
結局、自分が研究していることも、先駆者はほとんどいない分野ではあるのだけれど。