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「一緒に大学院生になろう」〜恩師が押した四十路の背中
46歳の冬のある日。
わたしは、大学院に行こうと思い立った。
計画的に考えていたわけではない。
大学院に行くと決めた日は、
前ぶれもなく、突然やってきたのだ。
なんというか、
運命に背中を押されてしまった、とでもいうのだろうか…。
背中を押されたできごと
はじめは、転職をしようと考えていた。私立小学校で教諭として勤務していたのだが、いろいろと思うところがあり、公立小学校で仕事をする選択肢を探っていたのだ。
中学校時代の恩師に、進路について相談があると連絡をした。恩師はわたしのひとまわりくらい上の年齢だ。そろそろ還暦くらいかな。
時間を作っていただき、食事をしながら昔話にも花を咲かせつつ、公立学校での勤務の可能性について、いろいろとご助言をいただいていた。
ふと、わたしがつぶやいたことば。今思えば、このつぶやきが、わたしの運命を動かすきっかけとなった。
「わたし、いつか大学院に行ってみたいんですよね。」
わたしのことばを聞いて、恩師はものすごく驚いたように見えた。いや、実際にかなり驚かれたそうだ。むしろ若干動揺したような様子にも見えた。
恩師はご自身のカバンからある書類を出し、わたしの前に置いた。それは、ある国立大学大学院の願書だった。
「あのさ、このタイミングでなんでMAKIがそんなこと言うんだ、と驚いているんだけど。じつは、大学院を受験しようと思っている。」
ええーーーっ。
と、わたしが驚いたのは言うまでもない。
校長先生を勤めていらっしゃる、そろそろ還暦の恩師が、まさかの大学院受験?しかも、今?!
それは、とある年の瀬も押し迫った年末のこと。「こんな時期に入試があるんですか?」驚くわたしに、「国立大学の二次募集が出たんだよ。だから、応募するんだ。」と。
恩師は理科の教員なので、教育学研究科の理科教育SPを受験されるとのこと。でも募集は若干名で、狭き門。
「MAKIのやりたいことは何?英語教育?」「そうですね、あるいは国際理解とか、多文化共生、異文化コミュニケーションにも興味がありますね」
「そうか。この大学は若干名の募集だから、かなり狭き門だと思うけど、他の国立も出てるかもしれないよ。」「どうせ仕事を辞めるなら、このタイミングで進学という選択肢もあるんじゃないの?調べてみたら?」
そして恩師は、
「一緒に大学院生になろう。」と、笑ったのです。
願書提出まで、たった3週間。
いやいや、いやいや、大学院?いま?このタイミングで?わたし、もうすぐ47歳なんだけど。
しかも、長男が大学受験、次男が高校受験の今年じゃなくてもいいんじゃない?母も合わせてトリプル受験とか、ほぼネタだよ…
と、突然ふってわいたこの進路に、進まないための言い訳はたくさん思いついた。
しかし、調べてみると、恩師が願書を出す大学院の募集は若干名だったが、以前からずっとわたしが憧れていたある国立大学には「大学院の全てのプログラムを合わせて27名募集」という、チャンスがあるんだかないんだかわからない二次募集が出ていた。
しかし、願書提出期限まで3週間しかなかった。
27名。
そのなかに、どうやったら入れるんだろう。
いつの間にか、大学院に行くか行かないか、ではなく、どうしたらその27名に自分が入れるのかを考え始めていた。
そう、もう答えは自分のなかで出ていたのだ。
「大学院に、行きたい!」と。
わたしは、大学院に行くと決めた。
自分と向き合い、知力と経験を注ぎ込んで作成した願書
とはいえ、大学院受験のための書類はそうそう簡単に作成できるものではなかった。願書の他にも研究計画書やレポートなど、知力と経験を注ぎ込まねばならない、たくさんの書類が必要だった。
わたしは何がやりたいのか。
何をなすために、大学院に行きたいのか。
自分と向き合う苦しい時間だった。しかし、その苦しさにもなぜか楽しさが同居している。
10代の頃に、高校や大学を受験したときとは明らかに違う感覚。
なんだろう、この、決められたレールに乗っていない心地よさ。入試なのに、ワクワクする感じ。
自分が、自分のために選ぶ道。
そう、失敗したって、
別になにも失わない。
それを受け止めて、
また異なる道を選べばいい。
それがわかっている大人だから、
こんなにワクワクするんだろうか。
まさかの合格
そして、3月。
合格発表は、コロナ禍による緊急事態宣言のなかだったため、オンラインで行われた。
掲示時刻になり、webを開いた時の高揚感。
そして、自分の番号を見つけた時の喜び!
受かった!憧れの大学院に!
信じられない!
なんと親子3人で、トリプル受験を突破した。晴れて高校生、大学生、大学院生として入学式を迎えた。(はずだった、2020年春。コロナにより全員入学式なし…)
まあまあ。
とにかく、四十路でママの大学院生が誕生した。
恩師に合格の連絡をすると「おめでとう!」のことばとともに、「一緒に大学院生だな!」と返事が来た。(通う大学院は別だが)
彼もまた、還暦間近の大学院生なんだな。
「私は受かる自信あったけれど、実はMAKIが受かるとは思っていなかった」とのこと。いい意味で期待を裏切らせていただいた。
2020年春。
わたしの学び直しが始まった春。
大人の学び直しには、
ワクワクしかない気がしていた。
恩師が押した四十路の背中は
後ろを振り返らず、
新しい一歩を踏み出したのだ。