#27 バックウォーターツアー -アレッピー
※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです
南インドの水郷地帯アレッピーにやって来た。
ここに来た最大の目的、バックウォーターツアーに参加した。
網の目のように入り組んだ水路、うっそうと茂る木々、その間を器用に進んで行くカヌー。突如視界が開けて、大きな河に合流したかと思うと、また細い水路に迷い込んでいく。何時間もゆったりとカヌーに揺られて過ごす、贅沢な時間。そこで、この水郷地帯の村々に住む人々の生活を垣間見た。
川では豪快に水浴びをしている人や、髪を洗っている人がいる。
その数メートル先には洗濯をしている人、食器を洗っている人。
更に少し先に目をやると、釣り糸をたらしている人。
わたしがもの珍しく眺め、小さく感動している光景は、ここで生活している人々の日常だ。
このツアーは朝食・昼食つきで、どちらもカヌーマン(カヌーの漕ぎ手)の家を訪れて、彼の奥さんが作るケララ州の伝統的な食事をご馳走になった。質素な小さな家。お米を炊くためのかまどは家の前に据え付けられていて、もうもうと湯気を立てていた。
彼の家でランチのバナナリーフのミールスを食べながら、ついていたTVを観るとはなしに眺めていると、LINE(日本のインスタント・メッセンジャー・サービス)のCMが流れてきた。
インドの水郷地帯にある小さな村の壁がむき出しの家の中で、突然の不釣合いな取り合わせに驚いたけれど、考えてみると、ここでも携帯電話を持っている人は沢山見かけたし、ずいぶんと原始的に見える生活 (と勝手に思ってしまう) の中にも、きっと便利なモノやサービスの波はどんどん押し寄せてきているのだろう。
この旅を始めてから3ケ月。
これまでに訪れた東南アジアの国々でも、現代の日本の暮らしとはかけ離れたように見える生活スタイルの人々を見る機会は沢山あった。最初の頃は大きな驚きがあったけれど、意外な光景を繰り返し見てくると、それはやがて日常化して、驚きや感動は徐々に小さくなってくる。
でもそれは決して「感動が薄れてしまった…」と悲しむべきことではない。
限られた期間だけれども、慣れ親しんだ日本の生活とはかけ離れた生活に触れ、それを日常のように感じられるのはこの上ない贅沢だ。
このバックウォーターツアーに一緒に参加したフランス人のカップルと簡単な自己紹介を交わした時、「どのくらいの期間、旅行するの?」と尋ねられた。わたしが「2年くらいで、世界を巡るつもり」と答えると、彼らは盛んに「You are so lucky!」と言って羨んでいた。無論、彼らは経済的な面を指して、わたしを羨んでいた訳ではない。
自分自身の決意と覚悟に従って、行動できる自由。
決断するまでの壁は決して低くは無かったけれど、それを乗り越えた今、わたしは大きな幸運を手にしているのだ。