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#30 弟たち₋3 -アレッピー

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

アレッピーで滞在していたゲストハウスの一階のソファ。
そこが、すっかりわたしの特等席となり、かなりつたないわたしの英語で、”弟たち”と一緒に他愛もない話をして、笑い合った。

ゲストハウスの掃除と留守番を担当している一番若手のジンスからは、特に色んなことを教わった。ここアレッピーのあるケララ州の伝統的な料理や、習慣等々。
南インドについての予備知識を持たずに来てしまったわたしは、ケララ州の言葉が、数あるインドの言語 (主なものだけでも30以上!) の中のマラヤラム語であることも、彼から教えてもらって、初めて知った。

ある時、なぜアレッピーがこんなにも落ちついていて、安全な雰囲気なのかを尋ねると(インドに来るまでに抱いていたイメージを良い意味で大きく裏切ってくれた)、ケララ州がインドの中で最も識字率・教育水準が高いことや、アレッピーの人達の多くが自分の仕事を持っており、家族の繋がりをとても大切にする伝統があることから、人々は自ずと責任ある行動をとるんだろう、というような説明をしてくれた。英語のツタナイ外国人から自分の文化について素朴な質問を受けた時、決して難しい単語を使うことなく
サラリとこんな風に説明してくれた彼に対して、素直に尊敬の念を感じた。

この旅に出てから、わたし自身も他の国の旅行者から、日本に関する素朴な質問を受けたことが何度かあったけれど、「答えたいのに、それを説明する英単語が出てこない…」というもどかしさを、たびたび感じてきた。
けれどもおそらく、シンプルにブレのない考察があれば、英語だろうが日本語だろうが、シンプルな言葉だけで説明できるものなのだ。 そうありたい、と思った。

名残惜しいままここを去ると決めた日の前夜、彼らが、フェアウェルパーティーだと言って、ケララ州の伝統的なベジタブル・カレーを作ってくれた。小さなキッチンで、みんなで場所を譲り合いながら野菜を切ったり皮をむいたりしていると、まるでキャンプの夜のようにワクワクした。
「初めて作るから、味の保証はできないよ!」と何度も言いながらも、あれこれとスパイスの配分を試行錯誤して、完成したカレー。できたてのまだ湯気が立ちのぼる鍋からみんなで分け合って、買ってきたパロタと一緒に食べたこの日のカレーは、口の中でほんのりと野菜の甘みが広がり、インドに来て食べたカレーの中で、一番美味しかった。

インドに来てから、すっかり辛さにヤラれてしまったわたしのために、辛さを抑えて作ってくれたけれど、なぜだか涙が出そうになった。慣れない右手だけを使って、わたしは必死になって、そのカレーを頬張った。

チャパティを伸ばすリシャード
焦げ目がついて、ふっくらと焼けてきたチャパティ
取っ手の無いフライパンで必死になって玉ねぎを炒めたら、アメ色のいい香りがキッチンに充満した
世界一のベジタブル・カレーとチャパティが完成!

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