#65 ワイナポトシ登頂記-1
※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです
当初ボリビアで登山をするつもりなんて、全く無かった。
ラパスから行けるジャングル・ツアーがあると聞いて、それを探すために旅行会社を回っていたのだ。ところが運悪くストライキの時期にハマってしまい、ラパスからジャングル・ツアーの起点となる町ルレナバケまでの道が封鎖されて、飛行機で往復するしかないと言う。ボリビアのバスで行くジャングル・ツアーの魅力の一つはその”安さ”なのに、飛行機を使ってしまっては意味がない。
念のため、何軒も旅行会社をあたってみたけれど、全て同じ答えが返ってきてガッカリしていた時、ふと目に留まったトレッキングとクライミングのポスター。「話しを聞くのはタダだし」と、試しに尋ねてみた。
その旅行会社の女性は、パンフレットに書かれたルートの地図をなぞりながら、所々で写真も交えて丁寧に説明してくれた。どちらも通常コースは2泊3日で、値段もほとんど変わらない。
「どっちがおススメ?」とわたしが聞くと、その女性、
トレッキングについては、「This one, you can enjoy.」
クライミングについては、「This one, you have to survive!」と言ってニヤッと笑った。
「わたしにサヴァイブできるだろうか?」 好奇心がにわかにムクムクと膨らんだ。
これがワイナ・ポトシ6,088mとの出会い。
それでもその場ですぐに申し込むことはできず、丸一日ウダウダと悩んだ。
おそらく難なく楽しめるのはトレッキングの方。自然を見ながら歩くのが好きなことはもう十分に自覚している。トレッキングコースの写真で見せてもらった風景も、変化に富んで面白そうだった。
一方登山となると、登頂できなかった時の心のダメージが非常に気になる。今回は、ビジャリカ登山の時のようにリベンジすることはおそらくできない。悶々としながらも、明らかに、心は登山に惹かれていた。
次の日さらにいくつかの旅行会社を回って、最もディスカウントしてくれた会社で、翌日の登山ツアーを申し込むことに決めた。わたしがそのオフィスで説明を聞いていた時、たまたま入ってきた日本人男性が、横で勢いよく申し込んで行ったのだ。
「同じ日に申し込んだ彼と同じグループで登る可能性は高い」「初めての6,000m峰、日本人が一緒の方が何かと安心だし…」好奇心と同じくらい膨らんでいる不安を抑えて、その場で全額を支払った。
日本円で約14,000円(2014年6月現在)。
すぐにオフィスの二階の倉庫のような部屋に連れて行かれ、翌日必要なモノの準備が始まった。
ウエアの上下、インナーのフリース上下、手袋や帽子、バックパックetc…
今回は何時間も雪面や氷の上を歩くことになるので、トレッキング・シューズではなく、プラスチック・ブーツだった(スキー靴のような履き心地)。もちろん前回の教訓を活かして、足にフィットするモノを慎重に選んだ。必要なモノがそろうと、晴れ晴れとした気持ちで旅行会社のオフィスを後にした。
ところがその日の夕方から、なぜだか胸のムカつきとお腹の調子まで悪くなってきて、夜には熱まで出る始末。緊張のせい? まるで運動会の前の小学生のようだな、わたし…
「こんな状態で大丈夫なんだろうか…?」と自分に呆れつつもひとまず解熱剤を飲み、
「もし明日の朝も熱が残っていたら、潔く登山は諦めよう」と心に決めて、早々とベッドに潜り込んだ。