#52 DUNE7 -ナミブ砂漠-
※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです
ナミビアの大西洋海岸沿いにあるデューン7という砂丘を訪れた時のこと。この砂丘は、ナミビアと言えば有名なアプリコット色ではなく、象牙色だった。
同じ日の早朝、朝陽を浴びてアプリコット色に染まったソススフレイの砂丘に散々登って来たにもかかわらず、風にさらされてきれいに波うつ砂の斜面を見ると、ここでもまた登りたくなってしまい、それほど遠くはなさそうに見える砂丘の尾根を目指すことにした。
そして、すぐに後悔…。
一見するとそんなに高さがないように見えるのに、砂丘を登るのは実は結構大変なのだ。柔らかい砂にいちいち足が埋まる上、そこで踏みしめた一歩が常に半歩分くらいずり落ちてしまう。まさに”三歩進んで、二歩下がる”状態。
一緒にナミビアを旅したコウタ君、マサキさんと「まさに人生のようだね…」なんて無理やり笑顔を作りながら、励まし合った。砂丘の中腹まで来て早々に諦めたわたしに構わず、大学生のコウタ君は若さを武器に、最後は駆け上がって頂上アタックしていた。それを見たマサキさんも、対抗するように頂上を目指してダッシュ。
しばらくすると、中腹で腰を下ろして一息ついていたわたしに、「マキさーん! 上からの見晴らしハンパない! 絶対ここまで来た方がいいよ!」と、既に上で悠々としている二人からの呼び声。「ここからの見晴らしだって十分いいのに…」と内心思いつつも、せっかくのお誘いに応えようと重い腰を上げた。
わたしの横を同じように息を切らせながら休み休み登っていた男性も、ちょうど立ち上がって歩みを再開したところだった。「この人も相当辛そうだなぁ…まだ諦めないのかな…」と思いながら、数メートル後ろについて四つん這いになって登っていると、既に頂上に達した人から「あと5歩! もう少し! がんばれ!」と掛け声。もう頂上は見えていたけれど、明らかに5歩で到達するのは無理な距離だったし、なんてたって “三歩進んで二歩下がる” んだから、普通の3倍の距離を登らなければならないのだ。ゼーゼー言いながら前を登っていた彼も「5歩じゃ無理だよ!」と訴えていた。
その彼が頂上に到達するのをゼーゼー言いながら後ろから見届けて、「もう少しでわたしも…」と思いつつずり落ちながら進んでいると、さっきまでわたしと同じようにあごを突き出して、上にいる人達から励まされていた彼が、今度はわたしに「5steps! You can do!」と叫んできた。
もちろんわたしも「No! More than10steps!」と意味のない反論を叫び返す。
それでも「ここまで来たからには何としても頂上まで…」と足を踏ん張る。
さっきまであんなに息を切らせて喘いでいた彼が、今度はわたしを励ます側にまわって声をかけてくれる、その連鎖が何だかおかしかった。
やっぱり5歩では無理だったけれど、頂上に着くと、確かに中腹から見るのとは違う壮大な風景が広がっていた。清涼な風を受けながら、爽快感。
先人の励ましを受けて苦労を乗り越え、そこで初めて得られる達成感。 まさに人生のようだと独り言ちた。
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