#32 サキさん -ハンピ
※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです
カルヤンゲストハウスの”女将”サキさんは、ハンピに住んでいる唯一の外国人(もちろん唯一の日本人)。インド人と結婚して、もうすぐ2歳になる息子のサイ君を育てながらゲストハウスを切り盛りしている。そう聞くと、どんなに豪快パワフルな女性が出てくるかと思いきや、ふんわり温かい、とても親切な女性だった。実際に会うまで彼女のことをほとんど知らなかったけれど、そんな珍しい境遇にあるため、日本のTV番組から取材を受けたり、本を書いたりしていた。
滞在中、著者本人からその本を借りて読ませてもらった。
今年の春に出版されて既に販売されているものを無償で借りて読むのはなんだか気が引けたけれど、ここを訪れた多くの旅人の手を経て来たことがすぐわかるくらい、その本はかなり年季が入っていた。
ハンピを訪れたことがある人なら誰しもハンピに住んでいる彼女のことを「うらやましい!」と思うにちがいない。けれども決して楽しいことばかりではない様々な苦労や悲喜こもごもが、彼女の人柄らしく、最後には笑って「良かったー」と思えるようなエビソードとして書かれていて、読んでいてスカッと気持ちが良かった。
ハンピのベスト・サンセットポイントであるマッタンガーヒルに登ろうとした時。
ちょっとわかりづらい道なために、頂上まで辿り着けずに戻ってきてしまう人が続出しているということで、「もし良かったら案内しますよー」と声をかけてくれた。そのコトバに甘えて、連れて行ってもらったのが大正解。道がわかりづらいだけでなく、道とは言えないようなかなり急な岩場が続いていて、所々に”崖”のような部分もあったりして、本気で「ここなら死ねそう…」と思った。
高所恐怖症の私には、到底、日の入り間近の薄明かりの中を進むことはできなかったと思う。
わたしの足が震え出すと、サキさんが笑顔で手を差し出して、しっかりとした足取りでわたしの手を引いてくれた。ハーハー、ゼイゼイ息を切らせて登りながらも、色んな話をした。サキさんが本には書いていないエピソードを聞いたり。
実は、彼女も世界一周経験者。
そして驚いたことにその世界一周中、彼女もわたし同様、一度出た東南アジアの国を、そこで出会った人達にもう一度会うために再度訪れた経験者だった。
それについて彼女は、
「一度会っただけだと、メールアドレスやFBを交換したとしても、その後の交流を続けることは難しいと思う」
「でも2回会えば、絆はずっと強まると思う。その先も交流を続けられる可能性は、ぐっと高まると思う」
その言葉は、わたしにとってひどく納得のいくものだった。
わたし自身も、まさにそういう思いを抱いて、ラオスに戻ったのだから。そして、インドで激しく心惹かれた地、アレッピーに戻ってみようと考えていたから。
彼女と話していると、同性で同年代の感覚、価値観、どうやって自分の幸せの種を見つけてそれを育てていくか、について、共通する部分がとても沢山あると感じた。
ただ一点だけ、彼女は20代のうちに飛び立つ決意を固めることができて、今まさに自分が本当に幸せだと思える日々をゆっくりと築きつつある、そのことを、わたしは心の底からうらやまいと感じた。