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推し映画について語る1:「人生フルーツ」

noteでは”好きなものについてだけ語ろう”と決めています。先週までは「推し映画館」について語りましたが、あらかた語り尽くした感があるので、次は「推し映画」について綴っていこうと思います。(そのうち「行ってみたい推し映画館」「今は無いけど好きだった映画館」語りはしてみたい)

推し映画。映画館での鑑賞は大好きですが、マニアかと言えるほどの本数は観ておらず、たいして知識が深いわけでも無いので、ただただ自分が好きだなあ、と思うことだけ綴っていこうと思います。

推し映画-1:「人生フルーツ」について

2016年、東海テレビドキュメンタリー劇場第10弾作品です。一番好きな、ドキュメンタリー映画です。そして映画館でしか観ることのできない作品です(2020年現在。たぶん。もし発売されていたら教えてほしいくらい)。近場で自主上映されていたり、アンコール上映されていたら駆け付ける。これまで計3回観ましたが、毎月でも観たいくらい、好きな作品です。

風が吹けば、枯葉が落ちる。
枯葉が落ちれば、土が肥える。
土が肥えれば、果実が実る。
こつこつ、ゆっくり。
人生、フルーツ。

建築家ご夫婦に密着したドキュメンタリー映画。日本住宅公団のエースだったご主人、90歳の津端修一さんと、なんでも手作りしてしまう奥様、87歳の英子さんのおふたりの物語です。ナレーションは樹木希林さん。

国内外の数々のニュータウンを設計してきた津端先生は、ご自身がマスタープランを作った愛知県春日井市のニュータウンに300坪の土地を買い、そこにちいさな森とモダンな平家を建て、「全部、自分たちでこつこつつくる」生活を送られています。森の中におふたりが住んでらっしゃる、という表現がぴったりで。70種の野菜と50種の果実が実る、豊かな自然がめいっぱい凝縮された素敵なおうちでした。

鑑賞のきっかけ

「人生フルーツ」は、映画の趣味が合う母からお勧めされて知りました。母からは「とても素敵なお庭だし、津端先生が、亡くなったおじいちゃんにそっくりだからぜひ観て」と言われてたのですが、もう、本当にそっくりだったので、びっくりしました。笑

私が子供の頃に亡くなった父方の祖父なのですが、背が高くてすらりとしていて、おしゃれで、髪型が津端先生にそっくり。そして家は山の中のニュータウンにある、こじんまりとした平屋の一軒家。家よりも庭の方がやや大きい、本当に庭づくりが好きな祖父母でした。

庭の小ささをカバーするための工夫だったのか、手前の方は小ぶりな盆栽、奥の方に行くにつれて、大きめの樹が植わっていく…多分、小さな森が再現したかったのじゃないかと思います。小道があって、奥まで行くと、祖父のお気に入りの、ひときわ可愛らしい盆栽たちが置いてあったのを、よく覚えています。
こじんまりとしているけれど、とても趣きがあって、子供心にも“丁寧につくられた、いいお庭だなぁ”と、大好きだと思っていました。
祖父母が亡くなった後、家も庭も無くなってしまって、仕方ないことだけど、喪失感がすごかったです。あの庭の風景は、今でもスケッチできるくらい鮮明に覚えています。そんな祖父の庭の空気を、「人生フルーツ」を観ながら思い出していました。

津端先生のお仕事

スローライフな日々を追うだけの2時間…ではなく、津端先生の「人生最後の良い仕事」も重要なストーリーで、胸に刺さります。「プロジェクトX」や「プロフェッショナル」が大好きなこともあり、最後まで素晴らしい建築家で在り続けた津端先生のお仕事ぶりや、真摯な姿勢に、観るたびに尊敬の念でいっぱいになります。

中盤、津端先生の後輩にあたる筑波大学の教授が「ばりばり仕事できる人なのに、スローライフみたいな余生をおくってるなんて…」と呟くシーンがあるのですが、その生涯最後の「良い仕事」のクオリティの高さは、まさしく最前線のプロの仕事でした。一生をかけてやり遂げたい仕事って、何だろう?と常日頃考えている自分に、強烈に刺さった場面がたくさんあったし、最後は、めちゃくちゃ泣けました。

そして、このドキュメンタリー映画を作り上げた東海テレビ制作チームの方々も、本当に素晴らしい仕事をされたんだなあ、と思います。パンフレットの制作日誌がめちゃくちゃ面白かったのですが(失礼)、ここまで「人生」に踏み込んだ映像を撮れるのは、撮る方と、撮られる方の間に、濃くて太い信頼関係があってこそだなと思うのです。(パンフレット、買って良かったです!)

津端先生との思い出を綴られた、素敵な記事を拝見しましたので、リンクさせて頂きます。泣きそうだ。

英子さんのお仕事

英子さんの”自分たちでこつこつつくる”のお仕事っぷりにもときめきます。こちらの本を購読しましたが、本当に素敵でした…!料理もお菓子作りも、キッチンガーデンでつくった作物で。自給自足の暮らしっていいなあ。

パンフレットとこちらの本を読んでいて思ったのですが、なんというか、畑で育てる農作物のローテを考えるのも、土の肥やし方も、非常に科学的だなと思ったんですよね。楽しそう!いつか実家に戻ったら、おふたりの暮らし方を真似てみたい。

さいごに

津端先生が、春日井市のニュータウンで暮らしておられたのは、第一線から退かれたのではなくて、もっと広く、かつ高い視点から、ひとの営み(暮らし)を追求したかったからなのかな…と思っています。

自然と共に生き、日々を丁寧に暮らす、そういう暮らし。子供に、孫に、土地を残していけるように、今を生きる。安宅さんの「風の谷構想」に繋がるのかな、と思ったりもします。

自分の一生をかけて考えて、追及していきたいことを教えてくれた、大切な映画でした。またアンコール上映がかかったら、観に行きます。必ず。

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