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子育ては、一人じゃないよ

とある日曜日、週末はいつも仕事の夫が休みで家族が揃ったので、ずっと行ってみたかった老舗喫茶店へモーニングを食べに行った。

うまくいかないことや疲れが募って落ち込みがちだった私はこの日をとても楽しみにしていた。

お店に入ると、木製の家具に柔らかな照明、店員さんのちょっとレトロで清潔感ある制服、穏やかに談笑する常連らしき年配の方々。

開放的な窓の向こうには、樹齢数百年の大きな欅の木を眺めることができる。

あぁ、期待通りの素敵なお店。

来れてよかったね〜嬉しいね〜と、頼んだモーニングセットを楽しみに待つ。
8歳の長女はミックスサンドを、4歳の次女はジャムトーストを頼んだ。

次女は最近ますますお転婆娘で待つ時間をじっとは座っていられず、私と夫の席を行き来、それに飽きると家族へのいたずらを始める。

一方、繊細な性格で周囲の目が気になる長女は、そんな次女の様子が周りの人に迷惑がられ怒られるのではと心配で、しきりに「しーっ、静かに!」と気ままな妹を制しようとしていた。

しばらくして、注文した料理が運ばれた。長女の前に置かれた見ただけで美味しいと確信できるような出立ちのサンドイッチ。それに魅せられた次女は「これがいい!!」と姉の皿から瞬く間に2切れを奪ってしまった。

楽しみにしていた長女は、妹の行動に怒りを抑えきれず半泣きで足をジタバタ。でも、奪い返せば妹が大き声で泣きわめくのは目に見えている。
家なら力任せで取り返して大喧嘩になるところだが、とにかく人目を気にする長女はグッと堪える。でも抑えきれない怒りの矛先は隣に座る私に向かい、ぎゅっと私の袖を引っ張ってはなんとか取り返してくれと小声で訴え続けた。

妹に説得を試みるも虚しく、無理に取り返して大泣きで店を出る羽目になることだけは避けたい私もなす術なく、私のスコーンをあげるから、と諭すも長女が納得できるわけもなく…。

そうこうしてる間に妹に奪われたサンドイッチはきれいになくなり、長女は怒りで歪んだ顔のまま残りのサンドイッチを食べた。

自由すぎる妹は親のお皿からも一通り奪って自分の好きなものだけササッと食べ終わり、食事にも飽きてガタガタと席周りを動き始めた。

はぁ、ここまでか…と、私はスコーンを味わうのもそこそこに、鬱屈した様子の二人をお店の外に連れ出した。

やっぱり子どもたちを連れてくるには早かったかなぁ。いつか一人で来ようかな…と自分の残念な思いをなぐさめつつ、せめて目を癒そうと、お店の駐車場を回り込んだ先にある欅の大木を子どもたちと眺めに行った。

ゆったりと広がる立派な枝ぶりに、ホッと心が洗われる。

長女のご機嫌もすぐに治り、縁石を渡る遊びを始めた。

その日は雨上がりで駐車場には所々に水たまりがあった。長靴を履いていた次女は迷わずバシャバシャと嬉しそうに水たまりに入り始めた。そのうち裸足になって、ぴょんぴょん飛び跳ねて。

おいおい、まじか。。
と内心つっこみつつ、車にあった小さな雑巾で足を拭く用意していると、別の車から年配の女性がでてきて子どもたちに近づき、タオルを差し出してくださった。福祉施設で働いていて、たくさん古タオルをもらえるのよ。あとは雑巾にでもしてくれていいから気にせず使ってね、と。

女性は水たまり遊びを満喫する次女に、楽しいよねーそれでいいのよーと優しく笑いかけてくださる。足を拭いてはまた入り、を繰り返す次女に、これも使ってとまた新しいタオルをくださった。

「お子たちを大切にね。そのままでいいのよ」
と私にもそっと言葉をかけていただいた。



憧れのお店でのモーニング、思い描いていたものとは違ったけれど…

子どもの無邪気な育ちを温かく見守って、未熟な母にそっと力を分けてくださる先輩の存在に、子育ては1人じゃない。と、たった2枚のタオルから力をもらえた日曜日。

今でもいただいたタオルを使うたび、その優しさを思い出す。

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