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2023年 個人的年間ベストアルバム

まえがき

2023年、世の中にほぼ日常が戻りこれまでの反動なのかアーティストの来日が特に多い一年でした。自分も例に漏れず人生で一番ライブに数多く行った年だったと思います。

そんな今年もベストアルバム記事を書こうと思いましたが、ちょっと体力的にも精神的にもやられてた時期もあって、特に後半はディグどころか新譜を全然追えなかった年でした。とはいえ、感想の日記ぐらいは残しておきたい。なので、今年は完全に自分の趣味に振り切ることにして、現時点で個人的に良かったと感じたアルバムを雑な分類に括って順位なしでまとめていきます。記事の最後に貼ったプレイリストを片手にどうぞ。

昨年の記事はこちらから。



New to me

特に今年初めて知ったアーティストや初めて聞いたアーティストのアルバムを中心にグッときたやつ。新たなる出会い。

『Echo The Diamond』 / Margaret Glaspy

Songwhip

USはニューヨーク拠点のSSWの3rd。ギターボーカル、ベース、ドラムのミニマルな構成でシンプルかつ無骨なロックサウンドを鳴らしているのが格好いい。彼女の力強いボーカルとトーン絞り目のブルージーなギターとの相性がめちゃくちゃ良くて楽曲にくっきりした輪郭を与えており、とにかく自分の性癖にぶっ刺さる超好みの音だ。

『Rat Saw God』 / Wednesday

Songwhip

USのインディーロックバンド。2021年の前作も聞いていたものの今作で大化け。一曲目「Hot Rotten Grass Smell」冒頭のギターノイズからガツンとやられ、続く二曲目「Bull Believer」ラスト1分の救いを求めるように絞り出す叫び声を聞いて、強烈なインパクトが残った。こういうエネルギーに満ちてカオティックさが垣間見えるオルタナサウンドは好きに決まってる。ノイズにまみれた荒々しいインディーロック全振りなのかと思いきや、中盤からはポップな一面も覗かせてコントラストが効いている。自分たちで"カントリーゲイザー(カントリー+シューゲイザー)"と称しているらしく、随所でカントリーっぽいフレーズが顔を出すのも好み。

『Raven』 / Kelela

Songwhip

官能的なボーカルとシンセの質感がうまくマッチした作品。あまり熱を帯びることなく淡々と進んでいくけど、R&Bをベースに時にはアンビエントっぽく時にはダンサブルにビートが変化していく。眠気でまどろんでいたところで時々引き戻されて覚醒する、そんな感覚があって心地良く気分をフラットにしてくれる。何となく上期の出張移動でよく聞いていてお世話になった作品。

『KARPEH』 / Cautious Clay

Songwhip

USのR&Bシンガーによるメジャーデビュー作の2nd。ジャズにネオソウルにインディーポップなサウンドが混ざってごちゃ混ぜサイケな雰囲気が感じられる。後半に行くほどジャズ色が強くなりつつも、ラストはしっとりR&Bで終わるのがとても良かった。真夏の昼下がりエアコンの効いた部屋で聞きたい作品。

『Black Classical Music』 / Yussef Dayes

Songwhip

UKジャズシーンの天才ドラマーの作品ということもあり、聴いてると軽快でドラムの音が耳にスッと入ってくる。上手く言えないがドラムが色鮮やかに鳴っていて、繊細で大胆でそれでいて押し付けがましくない。ドラムとベースから繰り出されるグルーヴ、それに乗る上モノが互いに絡みあうサウンドが心地良い。ラテンやネオフュージョンの要素も感じられて聞いていて飽きない作品。在宅勤務時に前ノリで仕事したいときのお供に。


マイフェイバリットアーティスト

お馴染みアーティストのアルバムの中でも特に心惹かれたやつ。少々色眼鏡がかかっているのは否めない。

『First Two Pages of Frankenstein』  / The National

Songwhip

まさか2023年にThe Nationalの新譜が2枚も聞けるとは思わなかった。そのうち4月にリリースされた1枚目の本作は、The Nationalの過去から現在までの集大成的アルバムになっていると思う。比較的落ち着いた雰囲気の曲が多いけど、ボーカルは一本調子でなく高揚感あるメロディーの曲が多くてとても温かなムードだった。優しい歌い口で包み込むSufjan Stevensをフィーチャーした一曲目「Once Upon A Poolside」から、これは今までの雰囲気とは少し違うぞと思わされた一方で、彼らの代名詞(だと勝手に思っている)のドコドコドラム、悲哀を感じるバリトンボイスが響く曲も健在でバランスが取れている。「Eucalyptus」、「Grease In Your Hair」がお気に入りトラック。2枚目の『Laugh Track』では「Weird Goodbyes (feat. Bon Iver)」や「Space Invader」などの良曲を収録しているのであわせてどうぞ。残すは至急来日求む。マジで。とりあえずみんなこのライブ映像見るところから始めてどうぞ。

『the record』 / boygenius

Songwhip

3人のSSWからなるスーパーグループから生み出された何よりも美しいアンサンブルレコード。1曲目「Without You Without Them」の3人のアカペラから幕を開ける時点で拳を突き上げ勝利を確信できる。楽曲が優しくもとてもエヴァーグリーンで、なによりどの曲においても3人のコーラスワークにとにかく惹き込まれる。特に「Not Strong Enough」ではメロディーの良さはもちろん、メインの歌い手が順々に交代していくことで楽曲から受ける印象がどんどん変化していくポイントが面白く、本作の聴きどころだと思う。彼女たちをUSインディーロック界からメインストリームへと押し上げた作品。

『Camera Obscura』 / People In The Box

Songwhip

8thアルバム。個人的には『Weather Report』ぶりにちゃんと聞いた作品。彼らの一番の特徴は楽曲のポップさと変態性を同居させるアレンジだと思っているけど、それに一段と磨きがかかってる。「石化する経済」のパートごとに拍が変化する楽曲とか、普通にやると破綻しそうなもんだけどきっちり成立させてくるよね。また以前の作品と比べて各パートが明瞭さを増したように感じられて、聞いていると変態的な部分にスポットがより当たりやすくなった気がした。「DPPLGNGR」のラスト、<<また会えたね>>からの1オクターブ下げて<<別人だよ>>にはゾクッとした。

『Almost There』 / GRAPEVINE

Songwhip

活動26年目にしてまた捻くれたアルバムを作ってきたな、というのが冒頭2曲を聞いたファーストインプレッション。コード感がぼやっとしたギターリフで幕を開ける「Ub(You bet on it )」と、"好き勝手弄り倒したけど文句ある?"みたいな開き直ったアレンジ&曲構成に関西弁の歌詞で煙に巻く「雀の子」に翻弄されたところで、「それは永遠」〜「実はもう熟れ」の3曲でもの凄いグッドメロディーを放り込んできてググッと惹き付けられる。そんな連続のスリリングさすらある絶妙なバランス感覚、それが癖になるアルバムだし、GRAPEVINEというバンドの土台が固まっているからこそできる芸当だと感じた。マイフェイバリットは名曲感がひときわ際立つ「Ophelia」。


ここから入門

主に知ってたけど今まであまり聴いてこなかったアーティストだけど、今作からハマったやつ。

『The Ballad of Darren』 / Blur

Songwhip

Oasis派?Blur派?なんて質問が昔からあるが自分は馴染みよいメロディーが正義と思っている節があるので断然Oasis派だった。Blurはベスト盤とせいぜい『Parklife』、『Blur』を聞いて有名な曲は知ってるってぐらい。トリッキーで抜け目ないバンドって勝手なイメージを持ってたけど、今作の落ち着きっぷりには驚かされた。円熟味と奥行き、エレガントな大人の余裕なんてワードが似合うゆったりとして良い意味で力が抜けたトラックが並んでおり、"何生き急いでんの?もっとゆっくり行こうぜ"みたいなメッセージを感じた。これが今年の自分にはどうやらピタリとハマって、かなりリピートして聴いてた。これが年齢のなせる技なのか、狙ってやってるのかは分からないが、来年はこのアルバム聴きながらもう少しイージーに生きてたい。サマソニで見たライブでも”過去じゃなく今のバンド”という印象が強く、自分の中のBlur観がかなりアップデートされた体験だった。

『The Novembers』 / THE NOVEMBERS

Songwhip

THE NOVEMBERSはこれまでに何度かおすすめされて、トライしてはイマイチ取っつけずに跳ね返されてきたバンド。そんな中で今作は最初に聴いた時点から割りと馴染めるんじゃないかって感覚があった。彼らが通ってきたであろう所謂ロキノン系、もしくはさらにその大元となっているオルタナやニューウェーブの要素をうまく今作のサウンドに昇華している印象を受けた。それが個人的にフックを感じられたポイントかなと感じてる。年末に出た作品なのでもう少し聞きこんでいきたいし、ここから再び過去作にもトライしてみたい。

『タオルケットは穏やかな』 / カネコアヤノ

Songwhip

カネコアヤノは前作までも強い人気があるのを横目に見てたけど、今までピンとこなかったアーティスト。今作はとにかくギターをフィーチャーした作品であると言わんばかりに、1曲目冒頭から轟音でギターを掻き鳴らし、随所でフレーズが耳に残るギターロックな作品ですんなり彼女の世界に入り込めた。アレンジがシンプルになってバンドが牽引するパワーが増したのに加えて、以前より伸びのあって口ずさみやすいメロディーが前面に押し出されてるし、歌い方もこれまでの印象にあった刺々しさが中和されてると感じた。<<いいんだよ 分からないまま 曖昧な愛 家々の窓にはそれぞれが迷い>>と人々の迷いを肯定して歌うタイトル曲「タオルケットは穏やかな」が名曲。今までハマれなかった人へも新たな入門作としておすすめできるんじゃないだろうか。


2023年のマイモード

2023年の自分のモードだったやつ。聞くものに困った時によく流してた。

『Stereo Mind Game』 / Daughter

Songwhip

2013年と2017年にアルバムを出している彼らだけど、ちょうど自分がその頃新しい音楽を全く聴いていなかったこともあり本作が初体験。全体的に暗鬱な雰囲気を漂わせ、少し気怠くソフトに歌い上げるボーカルはストリングスと合わさって楽曲の物憂げな表情を強調していく。聴いていくにつれ徐々にボーカルがバックサウンドとの境界を失って溶けてしまいそうな感覚にも襲われ、ラストトラック「Wish I Could Cross The Sea」でどこかミステリアスに幕を閉じる。正直、通して聞いたときにしっくりこない感じが残るんだけど、それによってもう一度聞こうと何度も思わせられてしまった作品だった。

『Obrigaggi』 / Diles que no me maten

Songwhip

メキシコを拠点とするポストロックバンドの3rd。知ったのはKEXPのライブ映像からで、2023年知れて良かったバンド1位。淡々と奏でられる演奏の上にエフェクトを掛けたスポークンワードを乗せるスタイルで、環境音でも奏でてるのかのようなバンドの佇まいとスペイン語でまくし立てるボーカルとの対比が妙にツボってしまった。スロウコア+ポストパンクのような音楽性に南米のエスニックなムードが混ぜあわさって、独特なエクスペリメンタルな雰囲気がある。自然の美しさを表現していこうという姿勢が根底に見える作品に感じた。バンド名を英語にすると"Tell Them Not to Kill Me"という意味らしく、ちょっとMogwaiの曲名っぽいところも好き。

『行』 / 5kai

Songwhip

あまりに殺伐とした空気が流れる作品。楽器(特にドラム)の鳴りがとにかく近く、このアルバムを聴くと音とは空気の振動であったことを思い出す。その上で、「four flowers」や「obs」などのトラックでは有機的なサウンドが分解・再構成され、あえて無機質さが際立たせられてている。一貫してそんな空気かと思いきやラストトラック「ロウソク」でエモさが爆発する。全てはこの曲のための前振りとも言える。ドラムが入ってくる瞬間はもはや恍惚でありズルい。いま自分の中で国内アーティストの中でライブが見たい上位に位置しているので、絶対どこかで見たい。


良く聞いたTOP5

2023年よく聞いたアルバムたちを5枚だけ選んでみる。

『Asphalt Meadows (Acoustic)』 / Death Cab for Cutie

Songwhip

昨年作『Asphalt Meadows』のアコースティックアレンジ盤。正直に言うと、元のアルバムってちょっとオーバーアレンジであんまり曲が入ってこない感覚が強かった。それがアコースティックスタイルになって余計なものがバッサリ削ぎ落され、曲の良さがもの凄く際立つアルバムに変貌を遂げている。特に冒頭2曲の「I Don’t Know How I Survive」~「Roman Candles」が、こんなポテンシャル持った曲だったのかとあまりのメロディーの良さに驚いた。ぜひ昨年作にハマれなかった人にほど聞いて欲しい作品。

『Desire, I Want To Turn Into You』 / Caroline Polachek

Songwhip

Chairlift時代の曲は有名な「Bruises」ぐらいしか聞いたことがなくて今作が実質的に初体験。「Welcome To My Island」の冒頭からすぐ分かる伸びやかな歌声の良さと、各所で使われている飛び道具的なボーカルがとても印象的だった。また自分持っていたイメージと違って楽曲からポップネスが溢れていて、また「Sunset」や「Blood And Butter」などでのカラフルなアレンジがとても良く、1枚のアルバムを通して彼女の世界(Island)を堪能できた。またフジロックの彼女のステージは歌唱力とダンスのパフォーマンスが最高で、現代のディーヴァが体現していたことも付け加えておきたい。

『Less』 / deathcrash

Songwhip

2023年、自分のスロウコアへの傾倒を最も象徴してた作品。スロウコア~ポストロックを行き来する雰囲気で聞きやすい。"静と動"ではなく”静と静といつの間にか動”ぐらいの突き抜け過ぎないドライブ感が絶妙なバランス。スネアとキックの一音一音から空気感がしっかり感じ取れるのが心地良く、何よりも低音の良さが抜群。久しぶりに前知識もなく心が掴まれてしまった作品だった。来日ライブに行けなかったことだけが心残り。

『Destiny』 / DJ Sabrina The Teenage DJ

Songwhip

ハウスって普段聞かないジャンルだし、41曲4時間という超特大ボリュームにビビったけど、ちょっと聞いてみるかと思って流したらノンストップでポップな多幸感がひたすら通り過ぎていったアルバム。極上の瞬間を取り出してそれをリフレインし続けているので、どこかで飽きることなく没頭できる中毒性はもはや合法ドラッグ。たぶんアルバム単位だと2023年最も流してたんじゃないかなと思う。

『ひみつスタジオ』 / スピッツ

Songwhip

自分にとってスピッツは人生で最も聞いてきたアーティストで自分の音楽体験の原点。彼らに対してそんな並々ならぬ想いはあるけど『とげまる』以降はあまり真剣に聞けてない、正直そんな感じだった。そんな中でたまたま先行シングルのカップリング曲「祈りはきっと」と「アケホノ」を聞いたとき、最近のスピッツへのイメージと違う引っかかりを感じて今作を真面目に聞いてみた。するとアルバムを通して聞いたとき近作の中では飛びぬけてバンドの力強さが感じられてちょっと驚いた。特にセルフプロデュースの「跳べ」と「めぐりめぐって」はサウンドも敢えてなのか荒々しく、バンドで演奏することの楽しさがひしひしと伝わってきて、そうそうこういうスピッツを求めたたんだよ!となった。その一方で「美しい鰭」をはじめとするタイアップ曲でのポップセンスは抜群だし、瑞々しさが溢れる「手鞠」、「讃歌」やアルバム中盤にフックのある「未来未来」などのトラックが耳に残った。誤解を恐れずに言えば若干のあざとさを感じる点もあったけど、それでも一つ一つの楽曲がスピッツらしい仕上がりになっている。17年ぶりにライブも見に行ってしまい、これを機にまたスピッツ沼へハマっていくのが楽しみ。


あとがきに代えて

まえがきで2023年は新譜を全然追えなかったとか言ってる癖に蓋を開けてみたら結局20枚も選んでしまい、自分でも何言ってんだこいつと思いました、すいません。ただ今年は普段なら選んでいるアルバムも選ばなかったしそもそも聞こうという姿勢にあまりなれなかった年でした。お気に入りに突っ込んだものの聞き逃しているアルバムやもう一度聞き返したいアルバムが沢山あるので、他の人の年間ベス記事を読みつつぼちぼち聞いていくのが楽しみです。

2024年が皆にとって良い年でありますように。

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