電車の中のお姫様 私は、優しい彼氏を待っていました。 先ほどまで一緒だった元彼は、私をこの電車に置いて降りて行ってしまったんです。私の唇を奪い、私から去っていきました。ファーストキスだったんです。 体育会系の体のがっしりした人で、どんな時でも私を守ってくれそうな感じの男性でした。 でもその人は私が傍にいるのに、隣の女性に話しかけ、ナン
『涙の音』 息子の勉強机は小学生の頃からリビングに置いてある。「一流大学に現役合格する子はリビングで勉強してた子が多い」そんなマスコミネタの影響とはまるで違う理由で、置いてある。 机は入学祝いに息子に買ってあげた勉強机ではあったが、家具屋で本人が選んだのは当時流行りの組立て形のスチール机と違い、全て木製でニス仕上げの、ゴツイ作りの机だった。 配達された日、そのゴツイ机は、階段から2階の息子の部屋に上げることができず、リビングに置かれた。そして、それから8年、彼はずっとリビン
『鶏そば』 子供たちは元気してるかなぁ… 好き勝手言って、全てをあなたに押し付けて飛び出してもう十年になるのね。 「一度きりの人生まだまだやりたい事があるの。世界で自分を試してみたいから、暫く日本を離れてもいいかなぁ」 こんな私の我儘に、あなたは予想通りの返事したわ。 私はずるいの、あなたが反対なんかするはずないこと、わかってた。あなたは優しいから。知り合った頃から、あなたは私の決めたことには反対したことがなかったわね。 「君が決めたんだったら、いいんじゃない」
私は北関東の外れの小さな田舎町で、三男としてこの世に生を受けました。しかし、どうも歓迎されて出てきのではないようなのです。 両親は女の子が欲しくて『四十の恥かきっ子』にあえて挑戦したのですが、出てきてしまったのが私でした。 男の子ばかりで手を焼いていた母がたまに口にする 「おまえが女の子だったら」 と言う言葉 に、私は幼心に 「僕は、生まれてこない方が」 なんて思ったこともありました。 まぁしかし、末っ子だったからかなり可愛がられていた様に思います。そして1
「若い連中に媚びてんじゃねーよ」 あなたには 媚びに見えるのでしょえね 私にとっては普通のこと だって仲間ですから 「そんな事は、若い連中にさせればいいんだよ」 えっ! あなたは、なぜしないんですか? 誰がしてもいいんじゃないんですか? だって仲間ですから 「そんなんだから、若い連中になめられんだよ」 なめられるのが、そんなに嫌ですか? もしかしたら 怖いのですか? そんな事 どうでもいいじゃないですか 舐められる事を恐れながら 威圧して たくさんの後輩を持つより
昔、きまって酔うと、 「聞いてくださいよー、俺の友達がね」と語り出す癖のある後輩がいました。 遠い昔のある日、ある行きつけの小さな呑み屋さんでのお話しです。 気持ち良く酔いも回った頃、例の後輩君が酔いに任せて、語り出しました。 聞いてくださいよー、俺の友達でね、すっげぇAV好きの奴がいてー、普段は面白い奴なんだけどー、女の子の前に出るとなんも喋れなくな
【僕のお花畑】 愛菜《まな》が喜びそうなお弁当ができた。 彼女は学生時代にバスケットをしていた体育会系女子。僕と同じくらいの食の持ち主で、弁当箱も同じにした。 「上手くできたぞ」 時計を見たらバスの時間までもう十五分しか無かった。愛菜のお弁当に時間をかけ過ぎて、自分の弁当を作る時間が無くなってしまった。しかも、作ったおかずの七割近くを愛菜のお弁当に詰めてしまい、いくらも残っていなかった。 慌てて、見栄えは関係無く残り物を弁当箱
三十五光年の迷走 ここに引越して初めての手紙が届いた。 その手紙はここに届くまで一年かかったようだ。きっと僕が住まいを転々としたせいかもしれない。 僕が三十五年間探し続けていたものを、その手紙は届けてくれた。 そして、 今年もやっぱり朝から雨だった。 六月の下旬の梅雨真っ只中、今日は四十五回目の誕生日。僕が物心ついたときからの記憶では、晴れた日はあの日の一日しかなかったと思う。 誕生日だと言っても、特別何らかのイベント的なことがあるわけでもなく、ここ数年祝ってくれる家族も
雨の降る日の夕方、家にいると遠い昔の事を思い出すことがある。 その日、彼は学校からびしょ濡れになって帰ってきた。 自分の傘を誰かに持っていかれてしまったらしい。 「なんでもいいから、他の傘さして帰ってくるのよ!」 と彼を怒った祖母。 彼の応えは 「でも、そしたら、その傘のお友達はどうするの?」 祖母は、、 「そんな事はそのお友達が考えることよ、あなたが考えることじゃないの。」 確かに、この世の中には 《必要悪》は存在すると思う。 でもそれは大人になって学ぶことで、