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IT人材 2024年トレンド予測:人材流動化の停滞と、採用チャンネルの変化

今回は2024年のITエンジニア動向予測についてお話ししていきます。noteの週間投稿が途切れないようにしたいとの一念で投稿は大晦日です。

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企業が採用できない理由

引き続き有効求人倍率は高いと見ていますが、実際に採用成功に至っている企業は限定的です。

スキルレベル別にエンジニアを下記のように分類した際、それぞれの層が採用できない理由は下図のように分類されます。

  • 新卒

  • 第二新卒

  • ミドル層:中堅、即戦力人材 

  • シニア層:難易度の高い業務ができる

レベル別 企業がエンジニアを採用できない理由

第二新卒やジュニア層については人材紹介経由で採用ハードルの低い大量採用SESに流れているので活況に見えますが、ミドル層・シニア層については下記のような背景で採用できていません。

  • 要件を求めすぎ

    • 必須要件が多すぎるため該当する人が居ません

  • 任せたい内容が不明

    • どういった業務が任せられるのか分からない求人であり、何をさせられるのかリスクすら感じられるものです

  • 渋い年収提示

    • 現年収据え置きの提示や相場に合わせたダウン提示が増えており、転職を後押しする一番の理由がなくなっています

  • 入社して得られるものが不明

    • 待遇だけ出せばITエンジニアは入社するものではありません。多くの場合、将来的なキャリアに繋がるものを期待するため、入社によって給与以外のどういった経験やスキルが身につくのかを期待します

  • 競争率が高い

未経験層・ジュニア層については積極採用企業が入れ替わり立ち替わり登場します。この辺りは下記のループを大手複数社が数年おきに入れ代わり立ち代わり繰り返しています。

  1. 人材紹介会社に対して40%程度のフィーを払いながら採用をする

  2. 多額の予算と費用対効果に疑問を持ち始める

  3. 採用計画を見直す

  4. 代替案を組むが即効性が見られずに2-3年後に1に戻る

2024年もプレイヤーが変わりながら繰り返していくことでしょう。

人材流動化にブレーキが掛かったことによる「望まない現職残留層」の顕在化

2015年から2022年にかけてのエンジニアバブルでは「転職すれば年収が上がる」という風潮がありました。しかし2023年には提示年収が鈍化しており、転職に背中を押すケースが減っています。

2022年までは毎年転職をしているような方も居られましたが、定着性に疑問があっても「採用人数目標にコミットする」ようなタイプの企業や、ハロー効果に弱すぎる企業の需要はあったため転職に問題はありませんでした。2023年には高すぎる採用コストを前に厳選採用が進んでおり、こうした方々は内定が出にくくなっています。

言うなれば『毎年ガチャを回し続けて来たけども、⭐︎5どころか⭐︎3や⭐︎2で勝負しなければならなくなった』という状態の方も見られます。こうした人達がどう動くのか、我慢できるのか、我慢できずに動いて良い選択肢を得ることができるのかなど非常に気掛かりです。残留を継続するにしても、今まで毎年転職していた層が複数年在籍できるのかも気にしています。

キャリア相談をPittaなどでお受けしていますが、ここ数ヶ月は実に半分以上の方に現職残留を推奨しています。特に1-2年未満離職が続いている方を中心に、現職での異動や働き方の工夫を交えながら定着とキャリア戦略の落としどころについてのアドバイスをしています。

採用チャネルの変化

次に採用チャネルの変化についてお話ししていきます。

高級化と大衆化の二極化が進む人材紹介

人材紹介は高級化と大衆化が進んでいます。

年収800万円以上の人材に対して人材紹介フィー60%以上で決めていくのが高級化の路線です。このあたりに登録する候補者は「年収を上げたいが交渉が面倒なので任せたい」というシニア層の方も居られるので、交渉力のある人材紹介担当者が求められます。また、無限に同じ上客が同じテンションで採用を続けられるわけではないので、トレンドのキャッチアップや顧客の冗長化も必要です。ある人材紹介会社ではスタートアップ投資と人材紹介をセットでやっていますが、この立ち位置は非常に強いですね。

一方、下記の人材も人材紹介を利用していきます。

  • 初めての転職で右も左も分からない層

  • スキル的に未経験・微経験・ジュニア層であり自力での転職が難しい層

  • 45歳以上で自力での転職が難しくなってきた層

こうした人材についても需要は続くでしょう。これが大衆化の路線です。特に上記2点については年収があまり出ないため、数を決める方向になります。雑な人材紹介は続くと考えています。

逆に言うと上記に当てはまらない年収レンジ600-800万円の層を得意とする人材紹介は減っていくと予想されます。企業の要件も高く、提示年収が低いために現職残留を選びやすいためです。

人材業界の縮小

こうした二極化に対し、2021年、2022年に中の人を増やしすぎた人材系企業は厳しくなっていくと予想されます。

採用ハードルを下げて大量採用した人材紹介企業もあり、教育や研修がおいついていないため、未経験・微経験・ジュニア層を高速で回す担当になりやすいです。雇っている人数と、紹介対象と紹介先の状況によっては縮小していくと予想しています。介護・看護領域に異動する方も居られると予想しています。

また、スカウト媒体もごく一部を除くと返信が返ってこない状態のため、費用対効果に疑問を持っている企業が増加しています。こちらも同様に淘汰、もしくは縮小していくでしょう。

リファラル採用の拡がり

採用経路としてはリファラルがより拡大していくでしょう。いわゆる社員紹介制度ですが、採用コストが社員に奨励金を払っても安い他、ある程度の人となりが担保されることが期待されます。中には社員の7割がリファラル入社であるという50名規模の会社もあります。

SESであれば常駐先の他社SESを口説くという手法が取れますが、それ以外の場合であれば友人知人の輪に限界があります。

そこで期待されるのがDevRelであり、技術広報・採用広報側面の広まりです。こうしたイベントを通して意欲的なエンジニアとの繋がりを作り、然るべきタイミングで声が掛かるように緩く輪を広げていきます。

一方で全くリファラルが発生しない組織もあります。採用ハードルが高過ぎて尻込みしてしまうケースもありますが、多くの場合は組織が殺伐とし過ぎていて『紹介したくない』というものです。会社の雰囲気をなんとかしましょう。頑張れば1-2年で環境改善ができます。ただし環境の悪化は3カ月もあれば十分です。

タレント採用の拡がり

採用広報や直接応募の側面でも期待されるのが業界著名人を採用する『タレント採用』です。古くはライブドア社の小飼弾氏の頃から知られる手法ですが、企業の認知が採用に大きく影響する現在においても注目が高まっています。

著名人の動向をチェックしつつ、自社の採用候補としてリストアップをします。対象者がキャリアの悩みを溢していることをキャッチすると即座にCEOが全力で口説きに行ったりしています。

コア人材の採用はこれくらいの寝技が拡がっていくと考えています。

PdM、BizDev、PMOに期待される「事業の立て直し」と「組織内でこぼれたボール拾い」

下記はSaaS上場企業のマルチプル(企業価値若しくは株式価値に対する売上や利益、純資産などの特定の指標の倍率)です。SaaSを中心に2020年、2021年の景気が良すぎたため、現在は閉塞感が漂っています。

調達額は鈍化傾向続くも件数は拡大、上場企業は調整局面に入るが業績好調|Japan SaaS Market 23.Q3

そこで重要となっているのがビジネスサイドと開発サイドを仲介し、プロダクトをしっかり売り上げるために動く通訳者としてのポジションとしてPdM、BizDevです。

PdMはこれまではエンジニア、PjM経験者がなるパターンが4-6割程度でした。営業職やマーケティング職が残りを占めてきました。

ここに来てコンサルからのPdM転職が見られます。システム開発経験者からコンサルになった方で、低迷する事業の仕切り直し、テコ入れが期待されているとのことです。ただし年収はダウンして入社することが多いそうです。コンサルはここ数年経験者から第二新卒に至るまで急拡大を続けてきました。案件に対して各社抱えているコンサルが多すぎることから、次のキャリアが模索されています。フリーのコンサルになる方も居られますが、そちらも供給過多の印象があります。キャリアのメインストリームの一つになりうるのか注目しています。

またPMOの需要も自社サービス、コンサル共に高まっています。PMOは本来は『組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う部門や構造システム』を指します。ただ現在需要があるPMOを見ると、『ジョブ型を進めて行った結果誰も拾わなかった球を拾うポジション』のような側面があります。PMOとして出向き、炎上したり立ち往生したプロジェクトを交通整理することが期待されることが多いのですが、結果的に事務処理を代行するケースもあるそうです。求人は当面ありそうですが、その実、入ってみないと分からないポジションとなっているように見えます。

有効求人倍率に関する疑問

有効求人倍率の高さの背景としては下記のようなものもあります。

  • グループ会社で被っている求人

  • 「いい人が居れば歓迎する」という薄い期待の求人

  • 募集枠は一人だが年収枠が広いと応募がないので分割している求人

  • 欲しいポジションではあるが、実際に正社員雇用すると1-2年で当該業務が終わって持て余す専門人材求人

  • 取り下げるのを忘れているインアクティブな求人

こうした背景なので、精査していくと世の中の有効求人倍率はもっと減ると考えています。

経済産業省 平成28年 「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」(委託先:みずほ情報総研株式会社)

「エンジニアが不足しているからエンジニアはブルーオーシャンである」とは往年のプログラミングスクールの常套句でしたが、精査していくと求人票はだいぶ減ると考えられます。プログラミングスクールや情報商材、人材系企業がこぞって使うみずほ総研の上記グラフですが、こちらの図は平成28年に発表されたものであり、当時とは状況が随分と変わっています。

NTTデータでは2024年度より開発に生成AIを取り入れ、人月契約の見直しを検討しています。人月に関する考え方が見直されて業界内に考え方がSIerに広がっていくと、SIerの↓についているSESやフリーランスエージェント経由のフリーランスなどにも波及していくと考えられます。

これまで特に準委任契約の現場では大筋のスキルセットの人材を一人月いくらで貸し出すかという確保工数の商習慣があります。アウトプットについての納品義務はなく、あくまでも確保工数であるため「一人月と言われて一カ月居たが、アウトプットがない/見合わない」という話は昔から枚挙にいとまがありません。中には入場後に体調不良などを理由にほぼアウトプットがないものの、それを理由に支払についての交渉をすると弁護士がすぐに出てくるという、弁護士もグルであると疑われるようなフリーランストラブルの事例も入っています。多くの発注側企業が何とかしたいと言いながらも、準委任か請負かの選択肢の中で妥協してきた項目だということもあり、ついにメスが入る可能性もあるのではないかと考えています。

そこで議論が予測されるのが「エンジニアの何に対して、どの程度の金額を払うのか」というものです。生成AIにおんぶにだっこで一人月90万円、年商イッセンマンというフリーランスが想定より早く出てきているため、こちらの議論も2024年中にはある程度進むと思われます。

業務委託であっても生成AI対策済みのプログラミング試験結果をセットで提案するフリーランスエージェントの登場も予想されます。一部フリーランスエージェントや人材紹介事業で近しいものが存在しており、人材仲介業の介在価値の一つとして技術的な証明を添付するというのは差別化として十二分にありだと感じています。

採用から定着・活躍への変遷

エンジニアバブルの時と比べ、弊社への純粋な採用に関するお問い合わせは随分と減りました。追加のコストをかけてまで採用を成功させたい、採用目標人数を必達したい企業さんはSESや派遣事業といった人月ベースの企業さん以外は少ない状況です。今後は定着・活躍まで見据えた需要が広がっていくと感じられます。

2024年も激動が予想されます。お互い生き残りましょう。2024年もよろしくお願いいたします。

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