整理解雇やレイオフが見られる中での開発者体験とは何なのか
一般社団法人 日本CTO協会でDeveloper eXperience AWARD 2023が発表されました。開発者体験(Developer eXperience)が良いイメージがある企業として、エンジニア615件からアンケートを取ったとのことです。
このランキングは新卒や若手エンジニアなども企業選びで参考にしているケースも見られ、影響力はあると捉えています。個人的には3点、気になるところがあります。
企業フェーズや開発組織規模がバラバラ過ぎるので、複数に分けてランキング発表するべきではないか
2023年1月10日~24日という集計期間が何とも言えないのですが、レイオフや整理解雇をしている会社も含まれている
同一業界内で先行するワードであるDXに被せて略称を使うことの是非
特に2点目が引っかかるところです。そもそも開発者体験とは何であり、エンジニアバブル後の世界ではどう捉えれば良いのかについて触れていきたいと思います。
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開発者体験とは何か
2019年11月に発表された下記の記事では、Developer Experienceは下記の要素があるとされています。
Fitting architecture
アーキテクチャの適合
Great tools
自動化なども含む優れたツールの利用
Processes to back that all up
バックアップされたすべてのプロセス
プロセスを定義することに依ってチームの規律を守る
Nontoxic team culture
お金を稼ぐことが唯一の目標ではなく、会社の目的が明確化されている毒のないチーム文化
レポート項目から見られる好感度ランキング
このランキングは記事内のコンセプトにもあるように「認知度コンテストにならない」ようにしているとはあります。レポート項目の一例にもありますが、好感度ランキングではあるようです。
開発者体験の議論に欠けているもの
開発者体験とセットで議論されるものとして、優れたソフトウェア開発の実現と、携わる開発者自身の満足度・幸福度が連動しているとされている話があります。まとめると下記のようなループが想定されています。
良い開発体験が得られる
良いプロダクトができる
良いエンジニアが集まる・定着する
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最終的には採用ブランディングの話になる傾向があります。
このループ自体は個人的にも理解できなくは有りません。ただし一つ要素が抜けていると考えています。それは売上と粗利です。
良い開発体験が得られる
良いプロダクトができる
売上が発生し、高い粗利が得られる
良いエンジニアが集まる・定着する
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先のnoteでも触れましたが、自社サービスの時価総額が低下し、札束で殴る採用を展開する企業が減少した今では、ハンドリングを間違うと空虚な言葉となってしまうのが開発者体験ではないでしょうか。
心理的安全性の議論とも共通する違和感
度々このnoteでも話題にする「心理的安全性」ですが、本来の意味は「喧々諤々の議論をしても立場が危うくならない」という意味であり、Googleが提唱したものとなります。一方で誤用としては「居心地が良い」「ぬるま湯のような」環境というものがあります。
この開発者体験の善し悪しというのにも、同じような違和感があります。生産性が高かったり、技術的負債に前向きに取り組むといった本来の意味がある一方で、「キラキラ感」「エンジニアファースト」のような居心地の良さという誤用パターンもそれなりに入っているように感じられるのです。
心理的安全性の議論については、本家のGoogleが大量にレイオフをし、「心理的安全性に雇用不安は入らないんだな」などと感じましたが、レイオフや整理解雇をしている企業が「開発者体験の良い企業」としてランクインするのも、時期的な要因があるとは言え、同様の違和感が感じられます。
開発者体験と生産性
本来の開発者体験は全くの外部企業に属する人が善し悪しを決められるものでしょうか。例えばFindy Teamsが生産性指標に対して顧客を表彰していましたが、これは当該プロダクトの顧客という枠はあるものの、開発者体験と言い換えても良いように感じられます。
いい会社とは何か
(コンサルは引き続きバブルですが)エンジニアバブルが過ぎ去り、華やかなイメージで売っていた企業の顔ぶれも現実的なレベル(、もしくは不景気が続くようであればそれ以下)に変わっていくことが見込まれます。
採用やブランディングの派手さが無くなっていくと、雇用にもシビアさが出てきます。外資の場合はPIPなどもあります。下記の本は国内外の様々な企業の労働条件や、解雇条件を纏めた分厚い本です。2022年11月の本なのでより(コンサル以外)状況は悪化しています。エンジニアバブル下では「いかにして好待遇を得るか」というポジティブな面を根拠にした転職が目立っていました。こちらの本にもありましたが、これからは「降格・解雇条件も踏まえた雇用の納得性」がポイントになっていくと考えられます。
開発者体験そのものを否定するつもりはありませんが、今一度その建付けや見せ方は事業収支などの観点からも見直したほうが良いのではないかと考えています。
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