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ポストエンジニアバブル――2024年IT百物語ランキングから読む次の潮流

今回は毎年恒例、note IT百物語ビュー数ランキングによるITエンジニアキャリア動向の振り返りをしていきます。今年のランキングは類似の話題がいくつかあったため、まとめながらベスト10を取り上げていきます。

10位 「転職回数」をどう見られる?エンジニア市場の最新動向

2022年のエンジニアバブル終焉から、過渡期の2023年を経て、2024年の転職市場はそれまでと大きく異なる辛い市場となりました。そこで確認された一つの事象がさいよう転職回数に対するシビアさです。

人材の流動化が言われるようになって久しいですが、ことITエンジニアについては、エンジニアバブルと相まって過度に流動化したように思います。

これは社会人になって数年の方にも注意が必要です。今は人材業界が不況になっているので、うっかり人材サービスに登録すると「絶対にマネタイズ(転職)」させようと襲いかかってきます。

無駄に職歴を重ねず、堅実に「自分は何屋なのか」を意識しながらキャリア形成をしましょう。

9位 【未経験からプログラマ】上昇するキャリアチェンジ難易度とその背景

業種を問わずエンジニア正社員採用人数を追っていたエンジニアバブルでは、未経験・微経験も数多く採用されてきました。

しかしエンジニアバブルが終焉し、生成AIが台頭してくると未経験・微経験に任せられるようなタスクが大幅に減りました。

これから自社のコア人材となることが期待される真っ白なキャンバスの新卒については引き続き採用熱が高いですが、第二新卒は渋い状態です。

この数年、未経験・微経験採用は非ITエンジニアの現場を含むSESや派遣会社でも見られるようになり、ITエンジニアとしてのキャリアを詰めない事象についても問題になっています。

8位 採用成功のカギはどこに?難航するITエンジニア経験者中途採用の現実

ITエンジニアの経験者採用が難航しているという企業が非常に多いです。その裏には転職市場やエンジニアバブル後の反動もありますが、高まる採用ハードルという自社都合の問題もあります。これらについて整理した一冊です。

3位、7位 フリーランスの変化

7位と3位はITエンジニアフリーランスの動きの鈍化や、正社員転職の流れを整理したものがランクインしました。

3位は11月に書いたもので、ITエンジニアフリーランスからSESに転職する流れがあるようだというお話でした。

SES転職増加の記事に対して人材紹介会社から実際のデータが出はじめた話になるのが7位、Xにて29.4万インプレッション(2024年12月27日現在)をいただいている記事になります。

フリーランスはその字面の効果と、プログラミングスクール、情報商材、フリーランスエージェントのマーケティング施策によって人気の職業となりました。

しかし企業需要が変化した結果、受注できない未経験・微経験フリーランスを中心にIT業界を去っているというお話です。

6位 LINEヤフー出社要請で浮き彫りになるフルリモートワークの見直しと人材の行方

2020年のコロナ禍から急に拡がった働き方であるフルリモートワーク。4年ほどトレンドが続いたこともあり、家族構成や家庭の事情がフルリモートワークに最適化されたり、「フルリモートワークができるからエンジニアになった」「フルリモートワークだったからその企業に入社を決めた」というキャリアの意思決定にもインパクトを与えるようになりました。

ただこれにはエンジニアバブル下における「デジタル人材は不足しており、人数を確保しなければならない」という企業が採用する動機と予算に下支えされたものでした。

やや違う観点ですが、弊社でも地方企業のサポートに乗り出しています。地方在住・都内企業在籍でのフルリモートワークではなく、地方在住・地方拠点でのエンジニアキャリアについても引き続き探求していきたいと考えています。

4位、5位 SES/SIer界隈の変化

4-5位には大きく変化したSIer、SESの話題がランクインです。

5位 SIer・SESと自社サービス:風潮の変化を読み解く

エンジニアバブル下ではフリーランスや自社サービスから無闇に下に見られていたSIer/SESですが、今はそのようなことはありません。

自社サービスなどはやることが分かりやすいので訴求しやすいという側面はありますが、それ以上にエンジニアバブル下ではSaaS、スタートアップを中心に自社サービスが強気の採用を行っていました。人材紹介フィーやスカウト、RPO、採用マーケティングと多くのお金が動きました。

お金を持った複数の企業が採用合戦をしていたのでSIer、SES、未経験・微経験は人材輩出の狩場となっていました。母集団形成の観点からも心無いプログラミングスクールや情報商材、アフィリエイターなどにとっては「自社サービスこそ至高」と謳った方がお金が動いて良かったと言えます。

今はそのような企業も減りましたので、他の職種を下げるような打ち出し方をしなくなっても良くなったということだと捉えています。

4位 SES界隈が混とんとしてきたので分類してみた

自社サービスが失速し、台頭してきたのが高還元SESです。一般的なSESの人達が「年収を上げたい」と思ったとき、かつては自社サービスへ行くのが王道でしたが、働き方をそこまで変えずに希望が叶う選択肢として確からしいものになりました。

一方、ITエンジニアになれるという打ち出しをしながらも、その実態は総合職派遣・派遣もどき(派遣の免許を持っていない)というコールセンター、家電量販店、警備員、期間工にアサインされるSESも増加しています。

案件採用と呼ばれる「最終面接合格後に営業が始まり、決まり次第入社できる。それまでは無職。」という採用形態も人材紹介会社が斡旋するようになったことから増えています。

派遣契約でも業務委託契約でもなく、仮出向の形態で客先に入るケースもあるという話があり、調査をしています。

高還元SESのような希望がある一方で、貧困ビジネスのような話も拡がっており、目が離せません。誰かが入場先の工場などで指を飛ばしたりしたら、蜘蛛の子を散らすように整理される可能性がありそうだと注視しています。

2位 エンジニアバブル後に求められるITエンジニアスペシャリストの役割

自社サービスにおける「求める人物像」についても大きく変化しました。事業貢献の姿勢が強く見られます。

引用リポストでもいただきましたが、以前はスタッフエンジニアと呼ばれ、マネージャークラスに求められる姿勢でした。しかし今では広くメンバー層にまで事業貢献の姿勢が求められるようになっています。

技術的なハウツーよりもプロダクトのグロースを軸とした内容に重きが置かれていたYOUTRUST社主催のプロダクトヒストリーカンファレンスはその象徴であろうと捉えています。

1位 エンジニアファーストを撤回したい企業の思惑

1位は2024年1月に公開された、エンジニアファーストを撤回したい企業についてのお話でした。エンジニアバブルを象徴していた「ITエンジニアの待遇を良くし、優秀な人材を正社員採用しよう」という施策が崩れたというお話です。6位のフルリモートワークからの出社回帰などもその象徴です。

この動きは加速し顧客ファースト、プロダクトファースト、売上ファーストになっていきます。そしてその一部の流れが2位のエンジニアに求める要件の変化へと繋がっていきます。

2025年は更なる変化の予想

2024年は採用市場が大きく動いた年でした。それまで通りの転職をし、大きく損をした方も多く見られました。

2025年も経済的な盛り上がりと、その利益の投資先がITになるという2つの重なりが再び起きないことにはポジティブな変化は無いでしょう。エンジニアtypeにて予測をお話していますので、ご参照ください。

そんな矢先、SHIFTがインフラトップ(DMM WEB CAMP)を買収するという報道がありました。卒業時にどうなるのか(テスター?SES?人材紹介で他社のSES?)、エンジニアを志す人達のキャリアに大きく影響を与えるでしょう。明るいものになるのかどうなのか、興味をもって見ています。

様々な要素が絡み合い、混沌としているIT業界ですが、引き続き根気よく紐解いていこうと思いますので、2025年もよろしくお願いいたします。

追記

エンジニアtypeさんの2024年年間アクセスランキングにて、2位と3位をいただきました!いつもnote共々ありがとうございます。引き続きどちらもよろしくお願いいたします。


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久松剛
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